odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2018-01-01から1ヶ月間の記事一覧

コナン・ドイル「バスカヴィル家の犬」(角川文庫) 同時代イギリスの怪奇、伝奇、ホラーの系譜にあるような古めかしい中編。

「シャーロック・ホームズの回想」の「最後の事件」でスイスにある滝つぼに落ちてから8年。彼を慕う読者の要望は数知れず、ために「最後の事件」の前におきた大冒険を長編にすることになった。「回想」がでてから8年後の1902年のこと(雑誌連載はその前年…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの帰還」(新潮文庫)-1 「躍る人形」。ヨーロッパ全域(とアメリカと日本)まで名声が届いている名探偵は死ねない。

ホームズの人気は衰えず、長編「バスカヴィル家の犬」を出しても読者は満足しない。そこで再び短編を書くことになったが、「回想」で殺してしまったとなると、つじつまがあわない。そこでコナン・ドイルは一世一代の手を打つ。それが1905年刊行のこの短編集…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの帰還」(新潮文庫)-2 「六つのナポレオン」「アベ農園」。ホームズは近代の人間ではなくて、理性に身と心を捧げた中世の騎士。

いちどホームズを殺してしまったのを、一世一代のトリックで生き返らせた。とはいえ、一度死んだのは1894年で再登場したのは1904年ころとなると、この間の空白をどう埋めるのか。そのため、この短編集には執筆当時の現在の事件と、1894-95年ころの過去の事件…

コナン・ドイル「失われた世界」(創元推理文庫) 非西洋を野蛮とみなすイギリス植民地主義肯定の小説。

チャレンジャー教授初登場作。相棒の新聞記者マローンはこのあとの作にも登場。 学会の異端児チャレンジャー教授は南アメリカの博物学旅行の際に、恐竜をスケッチしたと思われる冒険家の遺品を入手した。さっそく講演会で発表すると、侃々諤々の大議論。反論…

コナン・ドイル「恐怖の谷」(創元推理文庫) WW1の最中にアメリカにある革命志向の秘密結社がヨーロッパで騒ぎを起こすというアナクロな世界認識。

ホームズがモリアティ教授の影を心配するなか、ポーロックなる男の持ち込んだ暗号を解く。それは、バールストン館のダグラスという男の危険をしめしたものだった。ワトソンといっしょに直行すると、すでに事件が起きている。周囲を掘りに囲まれた屋敷で、ダ…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」(新潮文庫) WW1の最中になると、ホームズは国家の危機を救う秘密諜報員になる。

ホームズの人気は登場後20年を経ても衰えることがなく、1917年までに断続的に書かれてきた短編をまとめた。おりから第一次世界大戦の最中であるが、探偵小説の出版を止めないのはイギリスの矜持とするところであるだろう。 ウィステリア荘 Wisteria Lodge ・…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの事件簿」(創元推理文庫)-1 セルフパロディと差別意識。

ホームズ譚の最後の短編集。1921年10月号から1927年4月号にかけて発表された12の短編を収録して、1927年に上梓。 高名の依頼人 The Illustrious Client ・・・ 高名な将軍の娘がある男と恋仲になった。その男は有名な犯罪者であり、犯罪組織の親玉。そのこと…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの事件簿」(創元推理文庫)-2 戦間期になるとドイルは二流の作家に成り下がる。

「シャーロック・ホームズの帰還」「恐怖の谷」などのホームズ復活後の作品は押しなべて、興味のわかないものだったが、ここにきてますますその感が増す。コナン・ドイルは二流の作家(たとえば、ライガー・ハガードやスティーブンソンにも劣る)。ホームズ…

コナン・ドイル「傑作集1」(新潮文庫)-推理編 シャーロック・ホームズが登場しない探偵小説。ホームズのライヴァルたちの登場作品に劣ること数倍。

コナン・ドイルの書いたシャーロック・ホームズの登場しない探偵小説。作品を読むと「ホームズの回想」でホームズをいったん退場させてから「バスカヴィル家の犬」を出すまでの間に書かれたと思う(個人的な意見ですので、信用しないように)。 消えた臨急 T…

コナン・ドイル「傑作集3」(新潮文庫)-恐怖編 人に隠された邪心の暴露というテーマになると、ドイルのは差別や人権軽視が露骨にでてしまう。

イギリスの作家は怪談を書くのが定番だし、ドイルの時代は古典的な怪談に人気があった。そこでドイルの怪談短編を集める。あいにく初出年が書いていない。いつごろ書かれたかは、小説の読解に必須な情報なので、きちんと書いてよ。ネットで調べてもよくわか…

イーデン・フィルポッツ「闇からの声」(創元推理文庫) 数年前の不審死を独自に調査する。法の裁きの届かない犯人を私的に裁くことができる考えるのは危険。

引退した元判事ジョン・リングローズは、イギリス海峡に面したオールド・マナー・ハウスホテルで、深夜子供の叫び声を聴く。「そいつに僕を見させたりしないで、ビットンさん」。それが二回続き、隣室の老婆から一年前に少年が脳膜炎に似た症状で亡くなった…

エドワード・アタイヤ「細い線」(ハヤカワ文庫) 殺人の発覚を恐れるイギリス男の焦燥。どうするかを決めるのはカントとソクラテス。

その夕方、ピーターは憔悴しきっていた。妻の眼をかいくぐって、不倫を楽しんでいた相手を絞殺してしまったのだ。疲れてはいるのに、心は無感動で無関心。呆然としているのみ。パブで強い酒を飲もうとしていると、殺した相手の夫ウォルター(四半世紀来の友…

ジョン・ル・カレ「寒い国から帰ってきたスパイ」(ハヤカワ文庫) 冷戦時代、東西のスパイは組織のミッションの優先と個人主義をどう折り合いつけるかをはてしなく議論し続ける。

1961年に東ドイツが西ドイツとの国境線に沿ってベルリン市内に壁をつくる。建設途中から西ドイツに逃れようとする市民がいたが、国境を警備する軍隊は容赦なく射撃した。西側からは壁の向うの東側の様子はほとんどわからなくなり、漏れ伝えられる情報では、…

D・M・ディヴァイン「悪魔はすぐそこに」(創元推理文庫) 錯綜したプロットをきれいにほぐす技術で書かれたミステリ。

ハートゲート大学の無能と評されるハクストン博士が横領の疑いで教授会の審問を受けようとしている。失職を恐れた博士は友人の息子ピーターに仲裁を頼むがはぐらかられる。審問で博士は過去のスキャンダル(ピーターの父にかかわること)を暴露すると息巻き…