2018-01-01から1年間の記事一覧
これからPKDの長編のレビューをするが、配列はポール・ウィリアムズ編「フィリップ・K・ディックの世界」(ペヨトル工房)の長編作品一覧に基づくことにした。すなわち、PKDの長編には死後出版されたものがあり、出版年と執筆順は一致しない。この「フィリッ…
「偶然世界(太陽パズル)」。1954年12月13日SMLA受理、1955年出版。PKDの出版された第一長編。すでに大量の短編を書いていて、その実績をもとにエースブックスから2長編を一冊にまとめたペーパーバックスとして出版された、のでよかったかな(このあたりの…
PKDの長編は複数の主人公がいて、それぞれが物語をもっている。ここでもそう。なので、ストーリーに沿ったまとめにはしないで、主人公たちに注目するようにして。 大状況は、他惑星への移住や冒険宇宙船が飛んでいるころ(ただし社会のしくみや生活は1950年…
1959年10月2日、カリフォルニアに建造された陽子ビーム偏向装置が、始動初日、暴走事故を起こした。居あわせた八人の男女は、陽子にさらされ、高みから投げ出される。サンリオSF文庫には登場人物票がないので、自分が補足。 ジャック・ハミルトン: ミサイ…
2018/09/07 フィリップ・K・ディック「虚空の眼」(サンリオSF文庫)-1 1957年 多元宇宙とか平行世界などで語られることが多いようだが、そこは素通りすることにして。 陽子ビーム偏向装置の放出したエネルギーで吹き飛ばされた先の世界。読者の物理現実や執…
20世紀半ばの「浪費の時代」は1980年代の戦争によって終わった。廃墟のなかからストレイターズ大佐の主導する道徳再生運動(モラル・レクラメーション:略称モレク)が起こり、以後世界はこの運動下に再編成される。人々は集合団地ごとのブロックにまとめら…
まず前史に当たる話はこうだ。東海岸で勉学中のヴァージニアはナンパにあってロジャーという青年と懇意になる。彼は素朴な機械工。うだつをあげようとロスアンジェルスに行こうとする。というのは、ラジオの修理ができ、テレビが爆発的に普及するからチャン…
1950年代のアメリカの田舎町。スーパーマーケットを開いている夫婦。そこに寄宿している独身の夫の弟。彼は仕事につかず、毎日新聞の懸賞クイズを解いている。「小さな緑の男」が次に行く先を1026のマス目の中から予測するのだ。この懸賞に独身男レイグル・…
フィリップ・K・ディックの小説でも「普通小説」なのでと油断したのか、ひどく気分を滅入らせるなあ。なにしろ、登場人物の全員が愚かしく、人を傷つけてばかりなのに、俺自身とそっくりなところをもっていて、彼らが語ったり行動したりするたびに、苦笑しな…
PKDの小説では、しばしば社会はきわめて不合理でどのようなルールでうごいているのはまったくわからなかったり、理解不能・コミュニケーション不能な存在に支配されている。いわば「狂った世界」である。その狂った存在は不可視であることが多いのだが、この…
2018/08/28 フィリップ・K・ディック「高い城の男」(ハヤカワ文庫)-1 1962年 以上の大状況は正面きっては書かれず、この状況に翻弄される主人公たちの会話の端々で垣間見えるに過ぎない。なので、メモを取るなどして、把握しておくことが必要。 占領者の側…
2018/08/28 フィリップ・K・ディック「高い城の男」(ハヤカワ文庫)-1 1962年 2018/08/27 フィリップ・K・ディック「高い城の男」(ハヤカワ文庫)-2 1962年 人為的に狂った世界に置かれている作中人物は、不合理や不条理や暴力などを妄想であるとか、誰か…
通常は中期から後期をつなぐ作品とされている。ここではポール・ウィリアムズ編「フィリップ・K・ディックの世界 消える現実」(ペヨトル工房) の長編作品一覧に基づき、1962年10月4日SMLA受理の日付を優先する。刊行は1972年。SMLAの日付を優先すると、作…
(以下の感想で「自閉症」「分裂症」などを使いますが、作中の用語として扱います。現実の症状とは一致しないことをご了解ください。) 火星の植民が開始されたが、あまりの不毛さに自給自足は遅々として進まない。脱出するものもおおい(なので映画「ブレー…
西メイン州の田舎町。狭い町で、人々がうろちょろ。PKDの眼は、社会的な弱者に注がれる。たとえば、デレビ販売&修理店の店員でちょっと頭のあたたかい黒人スチュアートであり、1964年生まれの「海豹(ママ)」男の少年であるホッピィであり(同年におきたサ…
近未来。世界戦争が起きて、中国の兵器によって人口激減と出生率の極端な低下が起きている。老化除去手術で長命になったが、タイタンの知的生物であるヴァグによって緩やかに支配されている。このヴァグは人間と似た形態になることもできて、外見では見分け…
ともあれ大量のキャラクターが数ページごとにでてきて、それぞれのオブセッションにとらわれている悪夢や不安を語っている。失業、オーディション不合格、赤字続きの事業、特権階級からの蔑視、体臭恐怖症、政府に監視されている不安、不倫が発覚する恐れな…
PKDの長編では膨大な登場人物が現れて、それぞれが連絡なしに動いていって、最後にまとまるという仕掛けがおおい。うまくいくことはまれで、たいていは本筋を追うのも困難になる。この長編ではエリック・スイートセントという人工臓器移植医の視点で書かれて…
シミュラクラのプログラマーであるチャック・リッタースドルフは、離婚の危機。なにしろ妻のメアリーはマリッジ・カウンセラーとして成功していて、最も有名なコメディアンバニー・ヘントマンの支援を受けて大成功。夫婦関係を清算して、アルファ系衛星で心…
PKDの長編は登場人物が多くて、それぞれがしばらく脈絡ないストーリーを進めるので、しばらく何が本筋なのかわからないことが多いのだが、この長編は3人にフォーカスしているのでわかりやすい。とはいうものの、10ページごとに筋がずれるので、追いかける…
事前に短編「ウォー・ゲーム」を読んでおいた方がよい。この短編の描かれた状況が長編「ザップ・ガン」の延長にあり、短編にでてきたギミックが長編にも登場するから。 とはいえ、作者本人が「最初の150ページは、ほんとうに読めないよ。文字通り読めないん…
この長編を読む前に短編「ヤンシーにならえ@(ザ・ベスト・オブ・P・K・ディック III・サンリオSF文庫)」を読むことを推奨。短編はガニメデが舞台だが、長編では地球。ヤンシーの役割は同じ。 さて、1945年から歴史がずれている世界。米ソの対立は深…
ポール・ウィリアムズ編「フィリップ・K・ディックの世界」(ペヨトル工房)とこの文庫の注によると、前半部が1964年8月26日SMLA受理、1966年出版。ただし商業的な理由で三万語を削除した版。後半部は1965年5月5日に日SMLA受理。脱落した部分を元に戻して再…
1986年6月ホバート位相が始まった。エントロピーが低いほうにながれ、生理的な時間が逆転する。毎朝、食事を吐き(なのでフードは四文字言葉)、吸殻が新品になり、それらをパッケージに詰め直す。電話にでるときは「さよなら」で、切るときは「ハロー」。死…
映画「ブレードランナー」は初めて見たときに衝撃と感激のふたつの感情をもった。なので、ビデオにとった日本語吹替版を繰り返しみた。そこにある犯罪者の追跡、バウンティハンターの孤独、アンドロイド(映画ではレプリカント)の悲哀、経営者や警察官の傲…
2018/07/26 フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(ハヤカワ文庫)-1 1968年 人間とアンドロイド(映画ではレプリカント)の違いは、アンドロイドは工場で生産されるもので、人間はそうではないというところ。しかし製造にあたるロ…
2018/07/26 フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(ハヤカワ文庫)-1 1968年 2018/07/24 フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」(ハヤカワ文庫)-2 1968年 人間とアンドロイドの区別あるいは境界の消滅とい…
小説世界の在り方が異様なので、まず抑えておくことにしよう。生者と死者の間に半生者というカテゴリーがある。脳に損傷がなければ生命活動を停止しても、急速冷凍することで「意識」を保存することができる。通常は半生者同士の認識世界(夢ともいうか)に…
ディックの未来世界は近未来でいまだ訪れていないけれど、かつてあったことのあるレトロな場所でもあるんだなあ。この小説では、人口爆発で食料が枯渇気味。なのでペットはご法度。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」を読んでおこう。なぜか猫を飼ってい…
PKD本人は「やっつけ仕事だよ」「書きすすめながら、先がどうなるか、まるでわからなかった」というのだが(「ザップ・ガン(P366)」所収のインタビュー)、どうしてどうして、読みやすい。テーマもはっきり。この小説を気に入ってくれたという人もいたとPK…