odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2018-01-01から1年間の記事一覧

フィリップ・K・ディック「死の迷宮」(サンリオSF文庫)

さまざまな技能士(言語学者、経済学者、神学者、医師、物理学者、写真家、心理学者、海洋生物学者、社会学者、コンピューター技師)たちが選ばれて植民惑星デルマクーO(オー)に派遣される。片道燃料だけを搭載した飛行機で到着した。技能士たちは全部で14…

フィリップ・K・ディック「フロリクス8からの友人」(創元推理文庫)

PKD

数十年前に「新人」が現れた。現生人類をはるかに上回る知性の「新人」は中立論理学という未来予測で、世界の支配者になる。一方、「異人」という超能力者(未来予知、テレパシーなど)も生まれる。現生人類は彼らの能力についていけず、60億人の「旧人」…

フィリップ・K・ディック「流れよ我が涙、と警官はいった」(サンリオSF文庫)-1

3000万人の視聴者のいる娯楽番組。その司会で歌手でもあるジェイスン・タヴァナー。仕事を順調で、人気は絶大で、女遍歴も優雅にこなしている。でも、その日若い歌手志望の娘がジェイスンを恨んで、カリスト海綿生物を投げつけた。昏睡状態の一夜のあと、安…

フィリップ・K・ディック「流れよ我が涙、と警官はいった」(サンリオSF文庫)-2

2018/07/12 フィリップ・K・ディック「流れよ我が涙、と警官はいった」(サンリオSF文庫)-1 1974年 女性たちにフォーカスすることになるのは、自分のIDが失われるという非常事態、不条理にみまわれながらも、渦中にあるジェイソンはのんきで傍観者でいられ…

ポール・ウィリアムズ編「フィリップ・K・ディックの世界 消える現実」(ペヨトル工房)

PKD

ポール・ウィリアムズはPKDより20歳くらい若い音楽評論家。1974年に「ローリング・ストーン」にPKDのインタビューを載せるために、長時間の話を録音した。その後も親交が続き、PKDの死後の1986年にインタビューと評論などを入れたこの本を出版。ほかにPKDの…

フィリップ・K・ディック「暗闇のスキャナー」(創元推理文庫)-1

邦訳タイトル、原題「A Scanner Darkly」の意味は小説の中の説明によるとこんな具合になる。脳は二つのコンピュータが連結したようなもの。左半球と右半球でそれぞれ異なる機能をもっているが、それぞれの情報が統合されて世界認識の同一性を保持している。…

フィリップ・K・ディック「暗闇のスキャナー」(創元推理文庫)-2

2018/07/06 フィリップ・K・ディック「暗闇のスキャナー」(創元推理文庫)-1 1977年 もうひとつのやるせなさは、ボブ・アークター=フレッドにおきたことが、これもまたやるせないほど読者の現実に続いている。ボブは覆面麻薬捜査官の仕事をしている。彼の…

フィリップ・K・ディック/ロジャー・ゼラズニイ「怒りの神」(サンリオSF文庫)

小説の背景は、文庫のサマリーに詳しいので、まず引用。メモしながら読んだが、地の文に断片的に語られるので詳細をつかめなかった。 「第三次大戦で地球は全滅した。人々が奇妙な逆説を信仰したためだった。エネルギー調査開発庁長官カールトン・ルフトオイ…

フィリップ・K・ディック「アルベマス」(サンリオSF文庫)-1

これまでの長編と色合いがずいぶん異なるのは、PKDの経歴や体験がほぼそのまま書かれているため。もちろん、この国の私小説や、自伝のように、正確な情報を提供しているわけではない。想像力をふくらませたり、存在しない人物に評価を語らせるなど、フィクシ…

フィリップ・K・ディック「アルベマス」(サンリオSF文庫)-2

2018/07/02 フィリップ・K・ディック「アルベマス」(サンリオSF文庫)-1 1985年 ニコラスに起きた神秘体験には白けるのだが、彼らを取り巻くアメリカの状況はすさまじく迫真的だ。すなわち1968年までのアメリカは史実通りに進んでいたのだが、60年代の暗殺…

フィリップ・K・ディック「ヴァリス」(サンリオSF文庫)-1

突き放したしかたでサマリーをつくるとこうなる。心身が不安定な中年のSF作家がいる。このところ立て続けに悪いことが起きる。妻が離婚して子供を連れてでていき、ひとりきりの家には薬物中毒者がでいりするようになる。その一人が、作家フィルに電話を掛け…

フィリップ・K・ディック「ヴァリス」(サンリオSF文庫)-2

2018/06/28 フィリップ・K・ディック「ヴァリス」(サンリオSF文庫)-1 1981年 2018/06/25 フィリップ・K・ディック「ヴァリス」(サンリオSF文庫)-3 Tod Machoverのオペラ「VALIS 1981年 本書の記述のほとんどは、神をめぐる考えの羅列。本書の訳者によっ…

フィリップ・K・ディック「ヴァリス」(サンリオSF文庫)-3 Tod Machoverのオペラ「VALIS」

PKD

作中に映画「VALIS」(ストーリーは「アルベマス」の自由な翻案)が登場する。ストーリーは把握しがたいほどに自由奔放 に飛び、そのうえ、見るたびに内容が変わるという不思議なもの。さらにストーリーより画面に情報がたくさんあって、さまざまなシンボル…

フィリップ・K・ディック「聖なる侵入」(サンリオSF文庫)-1

CY30=CY30B星系で、受信した地球の電波を入植者のために配信している男ハーブ・アシャーがいる。ひとり暮しの独身であったが、その星の神<ヤー>が受信テープをダメにしてしまった。隣のドームに住む同じ独身女性リビス・ロビーのところに行くと、彼女の具…

フィリップ・K・ディック「聖なる侵入」(サンリオSF文庫)-2

2018/06/22 フィリップ・K・ディック「聖なる侵入」(サンリオSF文庫)-1 1981年 ハーブとリビス、あるいはリンダ・フォックスに起こる巻き込まれがたサスペンスといっしょに、霊的な闘争が進行する。それを担うのは、リビスから生まれた異星人と地球人の子…

フィリップ・K・ディック「ティモシー・アーチャーの転生」(サンリオSF文庫)-1

PKDには極めて珍しい女性の一人称視点。長編でも短編でも、このような書き方をしたのはなかったのではないか。 カリフォルニアの聖公会のティモシー・アーチャー主教。神の遍在を証明しようと、文献を読み漁っていた。今回彼が注目したのは紀元前2世紀ころの…

フィリップ・K・ディック「ティモシー・アーチャーの転生」(サンリオSF文庫)-2

2018/06/19 フィリップ・K・ディック「ティモシー・アーチャーの転生」(サンリオSF文庫)-1 1982年 物語をティムの側から見ると、「ヴァリス」のホースラヴァー・ファットの行ってきたことに等しい。異なるのは、ティムは主教で名声があり、精神疾患を持っ…

フィリップ・K・ディック「ラスト・テスタメント」(ペヨトル工房)

PKD

書店で手に取ったPKDの小説が気に入ったので手紙を書いたら、本人から好意的な返事が著者グレッグ・リックマンあてに届く。そこで彼にインタビューを申し込んだところ受け入れられ、1981年4月から翌1982年2月までに断続的に行えた。最後の章(1982年2月17日…

サンリオ編集部「悪夢としてのP・K・ディック」(サンリオ)

さて、8カ月(2016.11-2017.06)かけて手持ちのPKDの長短編を48冊読んだ。その間、意識的に評論を読まずにいたわけだが、全部読み終えた今、読み返すことにする。これは1986年にでた評論集。たぶん「あぶくの城 -フィリップ・K・ディックの研究読本」(北宋…

雑誌「銀星倶楽部」1989年5月「特集 フィリップ・K・ディック」(ペヨトル工房)

PKD

雑誌が出た時には、短編全集(生前には短編集は出ていなかったはず。邦訳は訳者などが編集したもの)、書簡のかなり、ポール・ウィリアムズやグレッグ・コールマンなどのインタビュー集、伝記2種類などが出版されていた。なので、創作以外の一次資料が大量…

雑誌「ユリイカ」1991年1月号「P・K・ディックの世界」(青土社)

PKD

雑誌でPKDの特集がでたのは、シュワルツネッガー主演の映画「トータル・リコール」の公開が予定されていたため。この国でも長編の大部分の邦訳が出そろい、第3次のPKDブームが起きていた(一次は1975年でファンジンなどでPKDの特集が出て文芸評論家が注目し…

J・リチャード・ゴット「時間旅行者のための基礎知識」(草思社) 過去にはタイムトラベルできるし、宇宙はそれでできたんだよ。それホント?、それとも高度に知的なホラ?

時間旅行(タイムトラベル)というテーマはフィクションから始まる。とりあえず元祖をウェルズ「タイム・マシン」に求めるとして、SF内の一つのジャンルになるくらいに作家と読者を魅了した。タイムトラベルにはパラドックスがあり、過去や未来に介入するこ…

ポール・ホフマン「放浪の天才数学者エルデシュ」(草思社文庫)-2 帝国崩壊後のハンガリーは共産主義政権と軍事政権で亡命者を大量に出し、社会不安と停滞が続いた。

2018/06/05 ポール・ホフマン「放浪の天才数学者エルデシュ」(草思社文庫)-1 1998年 この本の記述は面白くて、エルデシュの生涯をそのままなぞらない。筆は現在と過去を自由に行き来し、エルデシュの少年時代のつぎには高年時代が記述される。生涯のエピソ…

ポール・ホフマン「放浪の天才数学者エルデシュ」(草思社文庫)-1 読者の理解を越えた奇人の天才数学者の一代記。天使ははた目にはほほえましいが、付き合うにはうっとうしい。

数論のおもしろさは、数(かず)という日常で使い慣れた(と思い込んでいる)ツールから、思いがけずに深淵な世界をかいまみさせること。でも、その世界の奥深さと幽玄さは自分のような凡庸な頭には全く理解ができない。いまよりももっと計算になれていて、…

F.ハプグッド「マサチューセッツ工科大学」(新潮文庫) 科学やエンジニアリングは自由主義となじんでいて、問題解決にあたっては個人は平等である(でも日本は民主主義運営なので個人の裁量は限定的)

テーマはふたつ。 まずエンジニアリングについて。この国の「技術」とは一致しないし、「科学」でもない。エンジニアリングは科学とは補完関係にあって、互いに相手を包含しているという、やっかいな概念。本書では、数回説明があるが、腑に落ちるのはエンジ…

トーマス・クーン「科学革命の構造」(みすず書房)-3 「パラダイム」概念は曖昧なので使い勝手が悪いよねという批判にクーンがこたえる。

2018/05/29 トーマス・クーン「科学革命の構造」(みすず書房)-1 1962年 2018/05/31 トーマス・クーン「科学革命の構造」(みすず書房)-2 1962年 「科学革命の構造」上梓(1962年)した後、さまざまな批判が出たので、その整理と著者の意見を披露する。訳…

トーマス・クーン「科学革命の構造」(みすず書房)-2 新しいパラダイムを提示するのは若手か新人。その影響で科学者集団が次第に新理論に染まっていく。

2018/05/29 トーマス・クーン「科学革命の構造」(みすず書房)-1 1962年 通常科学と科学革命の説明のために、科学史のできごとが前置きなしで説明される。だいたいは高校教科書に載っている話(20世紀前半の物理学は大学の教養課程ででてくるものかな)。…

トーマス・クーン「科学革命の構造」(みすず書房)-1 通常科学の体系が危機になると弥縫策をとるが、にっちもさっちもいかなくなると新しい理論に乗り移る。

パラダイムを提唱した科学史、科学哲学の古典。パラダイムは1980年代にこの国で流行になった。その時期に自分はこの分野の本や論文をすこしかじった(とはいえ啓蒙や一般向けのものだけ。専門書はほとんど読んでいません)ので、以下の四半世紀ぶりの再読で…

マイケル・ファラディ「ロウソクの科学」(岩波文庫) 燃焼という現象をみることから、どこまで議論や考えを広げることができるか。この好奇心の広げ方こそが科学者の在り方。

高校時代に読んだのだが、どこかにいってしまったのを、ネットで公開されている翻訳で読み直す。 Chemical History of A Candle: Japanese 岩波文庫版には、実験器具や実験風景の挿絵があったと記憶するのだが、ここには載っていない。また、もともとは1847-…

読書感想のエントリーが2000に到達

タイトルの通り。 読書感想のエントリーが1000に到達 - odd_hatchの読書ノート 上の記事を見ると、1→1000に3年3か月かかり、1001→2000に4年2か月かかっていて、ペースが落ちている。 次の3000に行くかというと自信がない。5年後や6年後の自分を想像でき…