2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧
19歳(明治23年生まれ)の小川三四郎は熊本の中学をでて、東京大学文学部に入学する。田舎者の三四郎は東京という都市の、東京大学というアカデミアでとまどってばかり。勉強をするでもなく、趣味に没頭するでもなく、活動をするでもなく、ぼんやりと時…
1909年に朝日新聞に連載。小説では点描的にしかかかれない状況をみてみよう。日露戦争の四五年後。引用すると、 「今は日露戦争後の商工業膨張の反動を受けて、自分の経営にかかる事業が不景気の極端に達している。」「平岡はそれから、幸徳秋水と云う社会主…
大事なことはすでに終わっている小説。 ドラマになるのは、学生の宗助が御米と婚前交渉を持って、双方の家から絶縁されたこと、結婚後御米は三度流産して心臓に病を持っていること、宗助の父が死んだとき遺産を叔父に預けていたらすっかりなくされていたこと…
学校を出たばかりの田川敬太郎がいる。冒険したいが一人では何もできず、「休養」と称して何もしていない。暇つぶしにやるのは、他人の観察。同じ下宿にいる森本という会社員なのか香具師なのか詐欺師なのかわからない男と長話をしたり、退嬰主義と自称する…
タイトルのメタファーは何かと昔からいろいろと妄想したものだが、実際は「旅行に出かける人」の意。実際、この一家は頻繁に旅行に出る。東京に住んでいるらしいが、冒頭から家族総出の大阪旅行であり、語り手の「自分」は嫂(あによめ)といっしょに和歌山…
まあ確かに高校の教科書に先生の手紙が収録されていたのを読んで驚愕はしたのだった。漱石を読みだすきっかけになったのは確かだが、あまのじゃくな俺は最初に「こころ」を手にするのではなく、まず「幻影の盾」から読んだのだった。以後、出版順に読んで「…
2022/01/21 夏目漱石「こころ」(新潮文庫)-1 1913年の続き おさまりが悪いというのは、対象に思い入れを入れすぎない冷静なカメラアイが謎を解くのではなく、渦中の人が告白をするというスタイルのせいだ。「先生」は付き合いを持たず、他人との関係が希薄…
漱石44歳から46歳にかけての講演集。「門」を書き終え、胃潰瘍で大出血。入院後、体調をみて関西に行き講演会を開いた(娯楽の乏しい時代だったので、作家の講演でも人はよく集まったとみえる)。その時の記録。この直後に、再度胃潰瘍で入院する。 道楽と職…
1914年から翌年にかけて新聞に連載された随想集。小説よりも、自分の周りのことを書いたこういう随想のほうが、明治の人たちや漱石らが考えていることがわかりそう。 タイトルを「硝子戸の中(ルビによると「うち」と読むようだ。ずっと「なか」と思い込んで…
体調がすぐれないとなると、こうも不愉快なものを書くのかね。と嫌みのひとつもいいたくなる。 健三35歳か36歳は、おそらく大学の講師。安月給で生活ははかばかしくない。というのも、両親はとうに亡くなっているのだが、年の離れた兄や姉もまた貧乏であり、…
文庫本であれば数百ページに喃々とする漱石の大長編。普通、このくらいのサイズになると、主人公たちは大冒険をしたり、深遠な議論をしたり、いくつもの謎が解決されたり、愛憎のもつれがほどけるかよりをもどしたりもするのであるが、本作では何も起こらな…
漱石は1916年に「明暗」を書いたが、未完で亡くなった。70年の時を経て、水村美苗が続きを書いて完結させた(単行本は1990年)。あとがきによると、いろいろ批判があったらしい。漱石らしくないとか漱石は偉大だとか漱石はこのような結末を予定していなかっ…
漱石を読み返している最中(2021年3月現在)。漱石の「文学」の解説は読む気はないが(読むと引っ張られるので参考にしないし、これまでの読みとは違うところで読んでいるので参考にならないし)、物理学なら参考になるかもとタイトルにひかれて購入。著者は…