odd_hatchの読書ノート

エントリーは2200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。

今井宏「世界の歴史13 絶対君主の時代」(河出文庫)

 だいたい1550年から1750年までのヨーロッパを扱う。自分はクラシックオタクなので、この時代はバロック音楽であるからとても興味があるのに、読書はぜんぜんスイングしない。政治史に集中して、王様と反逆者の名前がでてくることと、各国史になってこの時代に共通するテーマや問題が見えてこなかったことが理由。この時代の大きな変化は、中世-ルネサンスの領邦が解体して絶対王政ができていくこと。この国家の成立にあって、内乱と国家間戦争が行われた。その栄枯盛衰は中国の秦から漢の「関羽劉邦」や三国志に重ねることができるのだろうけど(すなわち西洋は中国に15世紀近く遅れた)、その背景や理由がさっぱり見えてこない。たいくつでページを飛ばすことがしばしば。

 この本で扱われる国は、スペイン、オランダ、フランス、イギリス、「ドイツ」、ロシア。ルネサンスの覇者イタリアは記述なし。北欧、東欧も登場せず、ビザンツ支配下バルカン半島も記述がない。それぞれの国の政権交代や内乱の重要さはわかっても(イギリスのピューリタン革命や名誉革命、フランスのフロンドの乱、イギリス-スペイン戦争、オランダ独立戦争など)、つながらない.
 さらに不満は、この時代におきた変化に無頓着であること。なので、自分の乏しい知識をこの本に重ねて整理してみるとこんなことがあった。
大航海時代:最も冨がでる地中海貿易がイタリア都市およびビザンツの商人に独占されていたので、大西洋の航路を発見しようとしたのが、コロンブス・マゼランなどに始まる大航海の始まり。航路の開拓と船の技術と大規模投資システムがのちの繁栄のもとになった。(あわせて大西洋、インド洋の航路の開拓はシルクロードの衰退につながった)
・経済のグローバル化が進行したわけだ。それまで自給自足的な狭い経済圏であったのが、急速に拡大する。経済の中心地ができて、スペイン-オランダ-イギリスと移動するようになる。ここで経済格差が生じる。さらに、それにあわせて、ヒックス「経済史の理論」にある資本主義成立の条件である行政革命、固定資産、金融資本の条件がイギリスでそろった。この三条件ビザンツも、イタリアも、スペインもそろえられなかった。ここに18世紀の産業革命が加わって、イギリスが世界規模の大経済国になる。
・この時代には宗教的情熱と合理主義が同時にあった。前者はスペイン宗教裁判やフランス・ドイツの内乱やイギリスのピューリタン革命などになる。国家の財源が戦費に使われて、むちゃくちゃな税金がとられるなど、第三身分はひどい境遇に置かれた。それに対抗する試みがイギリスやフランスであり、のちの「市民」の形成につながっていく(と思う)。後者は科学と技術の独立した発展(産業革命のもとになる蒸気機関や汽車の発明に科学者は関与していない)があり、合理思考が時代の趨勢になった(ニュートン時代の寵児)。この科学と合理主義が18世紀後半の啓蒙主義になる。
・経済の発展が冨の所有者を変える。昔ながらの領地をもつ封建貴族は富を減らし、商人が富を増やし加工業に投資するようになる。すると王と貴族と僧侶ではない、新しい階級が国家の運営の重大な役割を持ち、税負担の代わりに権利を要求するようになる。この本では要領を得なかったが、絶対王政でも議会があり、この新しい身分(イギリスではジェントリーと呼ばれる地方紳士)が政治的な意見を持つようになる。一方で、絶対王政は新しい国家の仕事を持つようになり(たぶん常備軍と祭事と徴税と裁判)、専門スタッフを雇用する。官僚制の開始。官僚制が新規なのは、身分に関係なく実力で出世可能になったこと。身分が固定化されていた社会を上下に流動化するようになったわけだ(その官僚制は商業や工業と親和性が高いので、新しい階級と協力し敵対する)。
 おもしろいのは、この時代は戦争の時代であって、上にあげた諸国は相手を変えては戦争を何度も行っていたのに、ついにヨーロッパ全土を統合する勢力が現れなかったこと。ここは中国やインド、ビザンツなどとの大きな違い。緩やかな統合はあったのに、全土を征服する「帝国」はできなかった。不思議。
 いささか17世紀を移行期として軽く扱うような見方になってしまった。ひとえにこの本のつまらなさに理由がある(とこちら側を棚に上げる)。いやバロック音楽から見ると、この時代はもっとずっとおもしろいのだよ。いつか別の本で補完することにしよう。