本書のテーマはタイトル通りであって、1789年から1815年までを扱う。この前の今井宏「世界の歴史13 絶対君主の時代」(河出文庫)が1700年ころで記述を終えているので、約90年の間にヨーロッパで何が起きたかはこの叢書でははっきりしない。
わずかながら記述はあって、それをみると、農業生産の革命が起きて生産力がアップ(ただし何によるかは不明)、それによる人口増。農村の過剰労働力は都市に流れ、おりからの工業生産に携わる。農工分離が進み、工業都市とスラムの成立。産業革命から資本主義が成立する。イギリスでは地方や農村ではジェントリーという階層が生まれ分権や自治を担当。それ以外の国では昔からの領邦貴族が絶対王政の機構を担う。こんな感じか。
イギリスのグローバル資本主義とハプスブルク家の王政のつながりに対抗するようにして、ナショナリズムが強化される。18世紀の革命というとフランスとアメリカに注目しがちだが、フランス革命以前にはスイス、スウェーデン、イギリス、アイルランド、オランダ、オーストリアなどで民衆革命が起きていて、以後にはポーランド、ベルギー、ドイツ、イタリアでも革命が起きる。フランス国内もナポレオン失脚後の19世紀には数十年おきにパリで蜂起や革命が起きた。第三身分や地方郷士のみならず市民、無産者などが主体的に参加する革命によって、市民権や民主主義が鍛えられ、制度になっていった。あいにくこの主題は本書にはないので、アーレント「革命について」で補完することにする。
さて、フランス革命であるが、本書の記述は事件を詳しく羅列するのであって、人と地名にほぼ興味のない自分には二度目の再読ではすっかり飽きてしまった。とくにナポレオンに興味がないこともあって(なのでアベル・ガンスの映画「ナポレオン」もなかなか見る気になれない)。なので、ページをすとっばしました。
とりあえず、社会不安―蜂起―現政権退陣―議会に政権移動―主導権争い(革命の推進派と権力強化派にわかれる)―革命推進派のクーデター―恐怖政治―権力強化派のクーデター―独裁政権―税強化・食料不足・貨幣価値低下などの社会不安―戦争―反動政権成立(ただしより民主的・議会優先)というように革命の歴史を形式化してみた。この流れは、フランスのみならず、ロシアやナチス、明治維新などにも適用できそうな気がする。おれの慧眼でもなんでもなくて、急激な社会や政治の変革はおおむね同じような経路をとるというのが、この300年におきた革命の経験からわかるのだ。
ナポレオンという個人に興味はないが、彼に関連して気になったこと。
・ナポレオンはコルシカ島の生まれ。近代の独裁者はそのネーションの辺境から生まれているのが気になる。スターリン、ヒトラー、毛沢東、明治維新の推進者。いずれも辺境の人。若い時に差別を経験している人。
・ナポレオンは「一国社会主義」を目指した。すなわちアメリカ、アフリカの植民地が別の国のものになるのを放置し、対イギリスの措置で輸入を認めない。結果起きたのはフランスの農業生産物の過剰在庫(輸出できないため)と工業生産品の不足などによるインフレと不況の進行。そこに軍事費負担が重なり、フランスの財政は悪化する。フランスという一国(当時の人口は2-3000万人くらい)では経済は回らない。のちに数億人の人口を抱えるソ連や中国も一国経済圏で回そうとしたが、生産性の低下、労働分配の不適切、品質の低下などでインフレを招き、放棄した。まあ戦時中のナチスや日本も同様か。それくらいに17世紀以降の経済と資本主義はグローバル化が必然になっている。(ナポレオンの政策は「フランス最優先」であったそうだ。似たような主張は21世紀の10年代に先進国で言われるようになったが、長期的には成功しない政策である。)
2018/03/05 河野健二「世界の歴史15 フランス革命」(河出文庫)-2