odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2011-06-01から1ヶ月間の記事一覧

リチャード・ファインマン「困ります、ファインマンさん」(岩波現代文庫) チャレンジャー号爆発事故調査で組織に縛られない活動が解明につながる。失敗学のケーススタディに使おう。

『ご冗談でしょう,ファインマンさん』につづく痛快エッセイ集.好奇心たっぷりのファインマンさんがひきおこす騒動の数々に加え,人格形成に少なからぬ影響を与えた父親と早逝した妻についての文章,そしてチャレンジャー号事故調査委員会のメンバーとして…

ipad用スタンド

メシを食いながらでも本を読みたい。ipadは便利なのだが、そのままでは立てることができない。カバーもたいていは横置きに対応していて、縦置きにならない。そろそろ視力の衰えた自分としては、縦置きにして文庫本が2倍くらいに拡大されているほうがよい。 …

リチャード・ファインマン「ご冗談でしょう、ファインマンさん」(岩波現代文庫)

後にはノーベル賞を受賞し、1980年代のスペースシャトル爆発事故の調査委員会の委員長を務めるなど、学問の枠には収まらない奔放な生き方が魅力的な人だった。多芸多趣味な人らしく、自伝を書くことには興味を持たなかったようだが、ボンゴを鳴らすことで知…

湯川秀樹「旅人」(角川文庫) 1920年代は物理学がホットな時代。教科書を読まない辺境の天才は、英語で論文を書かなかったら「発見」されなかった。

学者一家に生まれた凡庸な(と自己評価している)子供が物理学に興味を持ち、中間子理論を発見する27歳までの自伝。これを書いた時著者は51歳で、兄弟の学者一家(貝塚茂樹や小川琢治など)が存命であったので、彼らのことはあまり触れられていない。日本で…

押井守「獣たちの夜」(角川文庫) セーラー服の女子高生が日本刀を振るうのを期待するとスカされるペシミズムの教養小説。

あの「ビューテュフル・ドリーマー」の、「パトレイバー」の、「天使のたまご」の、「ケルベロス」の監督をした押井守氏の小説作品である。吸血鬼を扱った小説は欧米でひとつのジャンルになるほど書かれている。数は少ないが(あるいは知らないだけであろう…

笠井潔「ヴァンパイア戦争 1」(角川ノヴェルス) 1980年代のオルタナティブな流行思想をごった煮にして世界革命を妄想する日本版吸血鬼伝記小説。

もとは野生時代に連載され、直後に角川ノヴェルスで単行本化。その後角川文庫になり、今世紀になって講談社文庫に収録された。ノヴェルス版ではイラストは生頼範義氏だったが、講談社文庫になるとキャラクターを昨今の美少女アニメ風のイラストで紹介してい…

笠井潔「サイキック戦争」(講談社文庫) 日本の根っこにつながる一族の血に覚醒した英雄が人類の巨悪=ファシズムを打倒して宇宙革命に参加する。

あなたは炎の竜に君臨する王者――謎の女の言葉はいったい何を意味するのか。呪われた地を封印するべく信州山深く籠っていた竜王翔は、虐殺と地獄絵さながらのカンボジアに潜入。密林の中で翔と<金色の目の男(レジュー・ドール)>との超能力が激突する。未…

笠井潔「復讐の白き荒野」(講談社文庫) 本土決戦に参加できなかった右翼青年の遅れてきた戦争。大江健三郎「政治少年死す」と三島由紀夫「豊穣の海」に対する作家の返答。

北方四島近海で漁船が拿捕される。当時、ソ連の漁船を対象にしたテロ攻撃が頻繁にあったからだ。その漁船からは武器弾薬などが発見されスパイ容疑がかけられ乗組員は収容所に収監される。それから5年、国後島の収容所を脱走した間島勲は己の無実を証し、彼を…

笠井潔「薔薇の女」(角川文庫) 貨幣経済と資本主義が世界を覆いつくし蕩尽ができないとき、過剰な性によるエネルギーは他者への危害に転換する。

火曜日の深更、独り暮らしの娘を絞殺し屍体の一部を持ち去る。現場には赤い薔薇と血の署名――映画女優を夢みるシルヴィーを皮切りに、連続切断魔の蛮行がパリ市街を席捲する。酷似した犯行状況にひきかえ、被害者間に接点を見出しかねて行き詰まる捜査当局………

笠井潔「アポカリプス殺人事件」(角川文庫) 観念に取り付かれた人間による大量殺戮にどう抗するか。カタリ派壊滅、ナチのホロコースト、原子力帝国の共通項。

灼熱の太陽に疲弊したパリで見えざる敵に狙撃されたカケルを気遣い、南仏へ同行したナディアは、友人の一家を襲う事件を目の当たりにする。中世異端カタリ派の聖地を舞台に、ヨハネ黙示録を主題とする殺人が4度繰り返され……。2度殺された屍体、見立て、古城…

笠井潔「熾天使の夏」(講談社文庫) 政治革命に挫折した若者は「完璧な自殺」による存在革命を志向するが、賭博の永遠を圧縮した一瞬の神秘体験に挫折する。

熾天使というのは旧約聖書その他に登場する天使の最上位にあるもの。単数でセラフ、複数でセラフィムと呼ばれる。我々は、英EMIのクラシック音楽の廉価レーベル「セラフィム」や映画「マトリックス」の登場人物「セラフ」でなじみがある(かな)。作中では「…

笠井潔「バイバイ、エンジェル」(角川文庫) キーワードは「赤」。通常禁忌とされる殺人を確信的に実行する観念に対する批判。

アパルトマンの一室で、外出用の服を身に着け、血の池の中央にうつぶせに横たわっていた女の死体には、あるべき場所に首がなかった! ラルース家を巡り連続して起こる殺人事件。警視モガールの娘ナディアは、現象学を駆使する奇妙な日本人矢吹駆とともに事件…

日本経済新聞社編「日本電産 永守イズムの挑戦」(日経ビジネス文庫) 企業成長期の成功体験。

「一番以外はビリと同じ」――日本電産・永守社長の強いリーダーシップのもと勝ち続ける秘密は何か? 倒産寸前の三協精機を従業員の意識改革によりわずか半年で再生させたドラマを再現、「永守流経営」の真髄を描く。 2007-8年ころ、永守社長はメディアによく…

高木新二郎「事業再生」(岩波新書) 破産倒産する前に、リソースを有効活用できる事業再生をはやめにしましょう。そのほうがみんなにいいですよ。

バブル崩壊後,不良債権処理とともに日本経済のなかで大きな位置を占めるようになった事業再生.そもそも事業再生とは何を目的とし,どのようにして実現するのか.注目を集めるM&Aなどの手法,各種ファンドなどのプレイヤー,この数年で抜本的改正を遂げた…

神山典士「借金をチャラにする」(講談社+α文庫) 1990年代の銀行がやった貸しはがし。以後、企業は銀行を信用しなくなり、内部留保をためるようになった。

文庫書き下ろし。銀行の不良債権処理について、当初の予定よりも遅れが出ていることが問題になった2000年前後の事例で、中小企業の債務支払いを取り上げている。 1990年の直前、日本の土地・建物などの固定資産の評価額が非常に高まった。株価も高くなり、金…

シモーヌ・ヴェイユ「工場日記」(講談社文庫) 1930年代軍事増強下での工場労働者の悲惨。スピードと命令、複縦が肉体を披露させ、内面を腐食する。

人間疎外が深刻化した1934年のフランス。ヴェイユは工場にはいった―冷酷な必然の定めに服し。抑圧と隷属の世界、悲惨な労働者の側に身を置き、屈辱に耐えつつ激しい宿痾の頭痛と限りない疲労の中で克明に綴られた日記は、底辺からの叫びであり魂の呻きに似た…

坂根利幸「民主経営の理論と実践」(同時代社)

企業や組合の私的経営をいかに超克して、民主経営にするかという議論。通常、企業の経営は出資者がオーナーになり、業務の責任者を集めて経営陣という組織を作る。ときに、出資者が経営に参加しないで、経営責任者を別に調達してくることもある。この組織で…

あらえびす「名曲決定盤」(中公文庫) 1万枚のSPレコードを収集したマニアの在庫管理(分類と整理)の方法は21世紀にも通用する。

ここではおまけのように書かれているSPの保管方法について紹介。ここに書かれている分類と整理の方法を会得すると、他に応用が利くから。これを参考に自分は蔵書の並べ方を検討し、管理ファイルを作成した。その経験は実は、ビジネスの現場、というよりバッ…

橘木俊詔「企業福祉の終焉」(中公新書) 企業の内部留保金は史上最高なのに、退職金を出さないようになった。

これまで企業は従業員のために福祉活動を行ってきた。たとえば、法定福利費による福祉費用の負担であり、退職金の支給であり、福利厚生費による住宅・健康・保養所・食事などの負担である。2015/04/16 入江徳郎「泣虫記者」(春陽文庫) 昨今の不況で、法定…

ウィリアム・パウンドストーン「ビル・ゲイツの面接試験」(青土社) SPIだろうがパズルだろうが、面接官が自分の能力以上の新人を部下に採用するということはめったにないよね。

仕事柄百人以上を面接してきたが、満足した人材を採用したことがない。それは、自分に限ったことではなく、マイクロソフトでも同じらしい。面白いのは、ビル・ゲイツ以下のメンバーは面接でパズルを質問して、その返事を聞いて採用を決めるらしい。しかも、そ…

岩井克人「会社はこれからどうなるか」(平凡社) 20代で会社に入社するというのは、20年後の起業を目指して知識、経験、人的ネットワークを作るため。

まとめと自分の感想をごっちゃに。 ・法人の定義について、名目説と実在説の2つがある。前者は会社の株主主権論の根拠になっている。 ・しかし、法人には、モノがヒトを管理する状態とヒトがモノを管理する状態が同時にあって、単純に名目か実在かに二分さ…

柴田昌治「なぜ会社は変われないのか」(日経ビジネス文庫) 古参の中間管理職の意識改革をどう行うか。

日本企業の病はここにある! リストラで人も給料も減らされたのに、上からは改革の掛け声ばかり。残業を重ねて社員は必死に働くのに、会社は赤字。社内には不信感が渦巻き、口ばかりの評論家が氾濫。こんな日本では普通の会社を本当に蘇らせた「風土・体質革…

宮本光晴「日本の雇用をどう守るか」(PHP新書) 即戦力を要求し社内教育を行わない企業が日本の雇用を悪化させ、低賃金のままにする。

年俸制や業績給、専門職制や契約雇用制等の導入により、日本型雇用システムは「市場指向型」「流動型」へと本当に変化していくのか。 著者は、アメリカ、ドイツのモデルとの比較を通して、日本独自の能力主義である職能システムを核とする日本型システムは、…

一橋総合研究所「「身の丈起業」のすすめ」(講談社現代新書) 会社に所属している人は会社をよく知らないから、法と仕組みをおぼえよう。あと確定申告は自分でできるように。

新刊書店であろうが、中古本屋に行こうが、「起業」に関する本は大量に出ている。いいかげんに分類すれば 1.起業して成功した人が過去を振り返る回想本 2.スケジューリングや法律など起業の手続の解説本 ということになる。1を読むとファイトは湧くがノ…

太田肇「ベンチャー企業の「仕事」」(中公新書) ベンチャー企業の成長には組織論や評価システム、マネジメントが大事。

経済再生のカギを握るベンチャー。そこに働く人々はいったい何を思い、どのように仕事をしているのか。また、会社は彼らの「やる気」をどう引き出そうとしているのか。これまでイメージだけで語られがちだったベンチャーの実態を検証すると、先進的な側面と…

マイケル・デル「デル革命」(日経ビジネス文庫) 企業の成功には本書に書かれなかったことが大事と思った。「ジャパネットたかた」がデルに近いモデルによる日本の成功例。

あまりビジネス本は読まない。社内の経営会議とか取締役会の経験のほうが身につくことになったから。でもいくつかたまってきたので、しばらく取り上げることにする。 最初期のコンピューターオタクが、顧客の仕様に合わせたPCを販売することを思いつき、19…

中島河太郎編「君らの魂を悪魔に売りつけよ」(角川文庫) 雑誌「新青年」で発表された短編を集めたアンソロジー。好況期に若い人たちが才能をふるった。

「永遠の女囚」新青年 1938.11.木々高太郎 ・・・ 田舎の素封家・雲井家。久衛門には別腹の姉妹がいる。姉が婿を取ってあとを継ぐところを、妹の婿に継がせることにした。この妹、たいしたモガで、結婚式を逃げ出すわ、駆け落ちして一週間でかえるわとやり立…

中島河太郎編「君らの狂気で死を孕ませろ」(角川文庫) 雑誌「新青年」で発表された短編を集めたアンソロジー。探偵小説を好むモダニストは都会と夫婦関係に関心を持つ。

1977年に角川文庫で雑誌「新青年」で発表された短編を集めたアンソロジーが5巻発行された。赤い背表紙で5冊並んでいる姿にあこがれたなあ。すぐさま絶版になり、1990年以降は古本屋で高値をつけていた。そのうちの3冊が2000年に復刻された。しかしすでにこ…

久生十蘭「ジゴマ」(中公文庫) レオン・サジイが1908年に出版した怪盗小説シリーズの翻案。会話は現代文で地は古い漢文調の文体演習。

パリ市中を震撼させたペルチエ街の惨劇。銀行家モントレイユが胸を抉られ瀕死の重傷を…。ゲエリニエール伯を告発するが対質したとたん供述を翻し、事切れた。悲嘆にくれる兄弟は父の変説の謎を追う。名探偵ポーランは血で記されたZの文字を発見、神出鬼没の…

松本泰「清風荘事件」(春陽文庫) 悠々自適なディレッタントが書いた探偵小説は上流階級を描いた英国風味。当時の読者とは趣味が合わないので忘れられた。

清風荘事件 ・・・ 牛込の「清風荘」と名づけられたアパート(今でこそ安い共同住宅の意味になっているが、当時は欧米風の最先端モードだった)。そこに住むK大学出身の若い男性二人。一人は志操堅固な堅物で、もう一人は青春を謳歌するモボ。女性をめぐる…