odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2012-01-01から1年間の記事一覧

都筑道夫「全戸冷暖房バス死体つき」(集英社文庫) コーコシリーズ1。田舎から出てきた人を集住させる団地は隣人との人間関係が希薄で無関心。

東京中央線の立川と国分寺の間あたりに、多摩由良という町がある。そこは1970年代初頭から巨大な団地がつくられ、少し高級なものだから、雇いの警備員を配置している。それが滝沢一家。元刑事の父に、兄の警備員、主人公の紅子(コーコと愛称)。つるん…

都筑道夫「世紀末鬼談」(光文社文庫) 1987年初出の短編集。恐怖小説と探偵小説が半々。「もしもし倶楽部」は地の文がない実験作。コーコシリーズ補遺。

1987年初出の短編集。恐怖小説と探偵小説が同じくらいの量で収録されている。 夢しるべ ・・・ 妻と別れて別の女をかこっている男が、間男をしている夢を見る。覚めると、その女から鍵を返せと電話、喫茶店で待つ女は妻の顔で、声は女で、いや声も妻で・・・…

都筑道夫「髑髏島殺人事件」(集英社文庫) コーコシリーズ2。1980年代、団地にはあらゆる世代が住んでいる。昭和30年代の雑誌と探偵小説の思い出話がおもしろい。

能登半島の先にある通称「髑髏島」にそれぞれ知り合いではない数名の男女が集められた。その日から起こる猟奇的な連続殺人事件! コードネーム「髑髏」が暗躍、彼らは生き延びれるか?島を脱出できるのか? ・・・というような話は、マイケル・スレイド「髑…

都筑道夫「まだ死んでいる」(光文社文庫) コーコシリーズ3。死体が動き回っては消えるというのが繰り返される。もう一つの趣向は、探偵がいっぱい。

メゾン多摩由良に入っている不動産会社のオフィスで死体を発見。早速、警備会社社員が確認にいくと、死体は消えている。続いて駐車場で死体発見の報が到着。すわ(死語)、ということで現場に向かうとまたもや死体が消えている。コーコから事件を聞いたタミ…

都筑道夫「前後不覚殺人事件」(集英社文庫) コーコシリーズ4。探偵がいないので素人捜査をはじめてめちゃくちゃに。複数の語り手による文体の違いに注目しましょう。

コーコシリーズの長編第4作。 天才少女の満智留ちゃんが古本屋を覘いていたら、クラスメイトの寺沢くんに声をかけられ、文庫本ほどの大きさのものを渡され、なにかあったら「アブドラに行け」という。気になった満智留ちゃん、今谷少年探偵団に相談すること…

都筑道夫「南部殺し唄」(光文社文庫) コーコシリーズ5。依頼とはいえ他人の家族に踏み込むコーコはハードボイルドの探偵になってしまう。

滝沢紅子シリーズの長編5つめになるのかな。1990年初出。 前作「前後不覚殺人事件」はコーコが不在だった理由はいずれ語るという幕切れだったが、その理由を説明する長編。普段の多摩由良町を離れ、お春と一緒に東北・遠野にでかける。父が気にしている事件…

都筑道夫「殺人現場へ二十八歩」(光文社文庫) 日本にはないホテル住み込みの探偵が主人公。初老の男性が浅草を慈しみ、家族の世代間ギャップに悩む。

作者によるとホテル・ディックという職業は日本にはなかったらしい。アメリカだとたとえば「チャイナ・オレンジの謎」1934年に登場するくらいにポピュラーなものらしい(この作では脇役として名前が挙がるだけで、仕事の中身は触れられない)。1980年代にな…

都筑道夫「毎日が13日の金曜日」(光文社文庫) ホテル・ディックシリーズ第2弾。都会の縮図であるホテルでシャバの不平不満や不倫、逆恨みを持つものが事件をしでかす。

ホテル・ディックシリーズ第2弾。1987年初出。 舞台がホテルから出ないというのに恐れ入った。主な会話は6階の警備室、事件の報告で社長室が現れるくらいで、あとはロビーにラウンジに正面玄関付近に裏の駐車場、それから下記のショッピングエリアの店の中…

都筑道夫「探偵は眠らない」(新潮文庫) ホテル・ディックシリーズ第三弾。唯一の長編で最終作。シリーズキャラも年を取り孤独になるのがつらい。

ホテル・ディックシリーズ第三弾。唯一の長編で最終作。 「刑事上がりのおれは、現在、浅草の高層ホテル『ハイライズ下町』の夜間警備責任者。アメリカ流に呼べば、ホテル探偵(ディック)ということになる。ある夕方、警備室に奇妙な電話がかかってきた。今…

都筑道夫「ドラマ・ランド」(徳間文庫) 映画のシナリオにラジオドラマの台本、TV番組の企画書にしてシノプシスが収録。

都筑道夫の作品は映像化されているものがそれなりにあって、長編で映画化されたのは「なめくじに聞いてみろ」「三重露出」「紙の罠」など。TVドラマではなめくじ長屋あたり。ときにはオリジナル脚本を提供して「100発100中」「黄金の眼」になったり、TVドラ…

都筑道夫「サタデイ・ナイト・ムービー」(集英社文庫) 子供の好奇心とプロフェショナルの目で1977-78年の映画をみる。映画一本1300円の対価にあうだけの内容を持っていたかで評価する。

1977-78年に連載された映画時評。タイトルは、締め切り直前の土曜の深夜でないと映画を見る時間をねん出できないから、というもの。もちろん当時の流行った「サタデー・ナイト・フィーバー」のもじり。週刊誌の連載なので、古い映画は取り上げない。これから…

ハンス・ケルゼン「デモクラシーの本質と価値 」(岩波文庫) 1930年代、デモクラシーを僭称するボルシェヴィズムとファシズムを批判する。

作者の経歴とこの本の出版年を知ることは重要。プラハ生まれでウィーン大学で教授を務める。ナチス政権誕生と同時にスイスに亡命。この本は1932年に出版。 自分が読むのに困難を覚えたのは、どうやらカント哲学を基礎としているらしいこと(当為とか自由律と…

神山典士「「日本人」はどこにいる」(メディアファクトリー) 著者が考える日本人は集団の中にはいなくて、一匹狼として生きている。それって日本人なのか?

著者のやりたいことのひとつである「日本とは何か」を、多くの人のインタビューやレポートで考察したもの。武道家、成田闘争参加者、ストリップ劇場小屋主、宗教家その他のさまざまな職種の人が登場する。もともとは個別に雑誌に発表されたものであって、本…

室賀信夫「日本人漂流物語」(新学社文庫) 江戸時代からこの国の住人と政府は外国人が嫌いで、おもてなしをしなかった

3つの近代の漂流譚が収録。まれに古本屋でみかけることがあるが、非常に入手しにくいだろう。 孫太郎ボルネオ物語 ・・・ 1764年。ミンダナオ島に漂着。以後、ボルネオ、ジャワ、スマトラを経由して帰国。7年ぶり。光太夫ロシア物語―第一編・第二編― ・・・…

矢吹邦彦「炎の陽明学 山田方谷伝」(明徳出版社) 幕末の藩政改革者。資本主義のない時代に市場および生産の市場化、開放化を行って成功した。

山田方谷は備中松山藩(現岡山県高梁市)の人。江戸末の百姓生まれであったが、幼少のころより聡明であったので、朱子学に勤しむ。長じては大阪の塾に留学し、陽明学(大塩平八郎、吉田松陰などが有名)を学ぶ。折から、藩財政が悪化していたことに加え、藩…

司馬遼太郎「竜馬が行く」(文春文庫) 実在の龍馬ではない「竜馬」は、伝奇小説とハーレクインロマンスの主人公

最初に読んだのは中学1年生のとき。「国盗り物語」の大河ドラマを欠かさず見ているときに、「国盗り物語」「の原作を読み、これほど面白い小説があるのかと図書館にいって、同じ著者のこの小説を借りてきたのだった。(自慢することにしよう。それから1年を…

多木浩二「天皇の肖像」(岩波新書) 維新後は列島の大半が明治天皇を知らないので見世物にし、帝国憲法ができたら隠された存在にした

以下は不正確なまとめになるだろう。 ストーリーは大政奉還と江戸城の開城から始まる。幕府は潰れた、ではどうするか。新政府に力がないのは明白。しかも人民(そんな階級の人はいなかったが)も信用していない。そこで、早急に新政府の「中心」を作らなけれ…

中江兆民「三酔人経綸問答」(岩波文庫)

初出は1887年。もはや原文を読むことはかなわない。そこで桑原武夫による現代語訳でよむ(とはいえ「メートルがあがる」なんていう昭和20年代の流行り言葉がでてくるので、「現代」と呼ぶにはちょっと。「メートルがあがる」の意味がわかる人はすくなくなった…

色川大吉「自由民権」(岩波新書) 明治から昭和20年までの帝国主義・侵略国家における国内の暴力的な治安維持システムに抵抗した人々。

「今から百年前,アジアで最初の国会開設要求の国民運動が日本全国からわきおこった.一八八一年は,この自由民権運動の最高潮の時であり,民衆憲法草案が続々起草され,自由党が結成され,専制政府は崩壊の危機にまで追いつめられた.各地で進められている…

沼田多稼蔵「日露陸戦新史」(岩波新書) 無味乾燥で欠陥だらけの巨大プロジェクトの報告書

そう簡単には入手できない一冊。自分の手元にあるのは昭和15年初版のもの。新規開店した古本屋にいったらこれが300円で売られていた。1990年ころの話。数年を経ずしてつぶれてしまった。 内容を例によってまとめてみるが、今回は超訳をところどころで採用。 …

野村實「日本海海戦の真実」(講談社現代新書) 帝国海軍の栄光の完成と没落の始まり

1905年5月25日の日本海海戦のことは、ノビコフ・プリボイ「ツシマ」によってロシア側のことを知ることができるとはいえ、この国の多くの人は司馬遼太郎「坂の上の雲」で知ることになるだろう。ここには、1968年ころの連載中、まだ存命中だった日本海海戦経験…

ノビコフ・プリボイ「バルチック艦隊の潰滅」(原書房)現在は「ツシマ」で出版 長期間の航海の裏では、純朴な青年が社会正義に目覚めるまでの教育物語が進行している

1933年に発表され、同年にスターリン賞を受賞した小説。この国には1930年代に翻訳され、現在でも原題「ツシマ」のタイトルで上下2巻で販売されているらしい。自分が読んだのは、「バルチック艦隊の潰滅」というタイトルの一冊本。なにしろ9ポか10ポの細か…

家永三郎「太平洋戦争」(岩波現代文庫) この戦争は1932年の柳条湖事件から1945年の敗戦まで15年間継続した戦争である。

文字から炎が湧き上がるかのような熱い文章。1913年生まれ。学生時代の1932年にマルクス主義と出会い、圧倒的な体験になった。その後、高校の教師になるが戦前・戦中は時局批判の活動ができない。戦後、その体験から現代史を講義するとともに、政治批判を活…

森本忠夫「マクロ経営学から見た太平洋戦争」(PHP新書) 組織的に腐敗していた日本軍は国家を破綻させ、国民を大規模に殺した。

「あの」戦争について書かれた本は多岐にのぼる。小学生のころに手にした太平洋戦記を皮切りに多くの本を読んできた。最近の問題意識は、「あの」戦争の個々の局面における決断や戦局推移にではなく、どうすれば「あの」戦争を回避することができたのか、ど…

大江志乃夫「徴兵制」(岩波新書) 軍隊や徴兵制は社会の不公正を助長し、生産性を下げ、社会的な不適応者を生む。

書かれたのは1981年。レーガンがアメリカ大統領になり、新たな冷戦の開始を意図した。共産圏の周辺国家に核兵器を配備しようとして、反核運動をおこす原因になった。日本には核兵器を配備することはできなかったが、大幅な防衛費の負担増加を求めた。そのた…

メキシコの路上パフォーマーのマイケル・ジャクソンがすごいというのだが

旧聞だけど、 笑っちゃうけどクール…人形と踊るマイケル・ジャクソンのダンス(動画):らばQ という記事があって、 www.youtube.comの動画がすごい、ってことになっている。 カナダに「Christopher」という芸人がいて、20年も前から同じネタをやってるんだぜ…

平岡正明「日本人は中国で何をしたか」(潮文庫) 略奪・強姦・虐殺などが当たり前になっていた中国本土での戦闘と占領政策を掘り起こす

だいたい3つの区分で旧日本軍の行った残虐行為を紹介し、その背景を分析する。その際に、国民党軍や八路軍の戦略、政略も検討対象にする。そのことは、残虐行為の背景を理解する助けになる。 いつものように著者の主張をまとめよう。 ・1931年の柳条湖事件…

森村誠一「悪魔の飽食」(カッパノベルス) 731部隊による戦争犯罪が知られるきっかけになったベストセラー。

1982年のベストセラー。百万部を超えたらしい。このような陰惨なノンフィクションを受け入れる土壌があったことを懐かしく思い出す。レーガン政権になって核戦争の可能性が増したと思われた時代だったこと、それから医療行政の不手際が目立つことあたりがそ…

大宅壮一編「日本の一番長い日」(角川文庫) 熱しやすく激しやすくて、成功の見込みのない行動をすぐ起こし、あっという間に挫折。「観念」への熱狂と乗り換えはいかにも日本的。

学生時代に読んでいて書架に眠っていたものを再読。岡本喜八監督による同名映画をみたのが最近(2006年現在)だったので興味を持ったから。著者名は手元にある古い角川文庫版によるが、あとがきによると実際の著述は半藤一利氏。最近、文春文庫で復刊されたほ…

徳川夢声「夢声戦争日記 抄」(中公文庫) 漫談家が戦時中に慰問に呼ばれたのは軍隊も庶民も笑いと娯楽を欲していたため。

無声映画を上演する時、日本では弁士という特別の形態があった。どうやら西洋ではオーケストラあるいは小型楽隊が場面に合わせて演奏しているのを聴いていた。それはあたかもバレエを見ているようなものだ。ところが日本では小さな楽隊に合わせて、弁士が場…