odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2014-01-01から1年間の記事一覧

淀川長治「自伝 上・下」(中公文庫) ハイカラな町神戸に生まれた映画少年の自伝。進駐軍兵士に英語で話しかけたら仲良くなって映画の仕事に復帰した。

自分はこの人の映画解説を子供のころからTVで見てきたので、彼の口調や笑顔はよく知っている。彼が語ると、出来の悪い映画にも面白そうに思える。映画そのものの悪口を言わないとか、上映する映画のかわりに俳優やカメラマンのことをかたるとか、、なるほど…

ジョン・ディクスン・カー「蝋人形館の殺人」(ハヤカワポケットミステリ)-2 蝋人形館に秘密クラブという非日常の場所で、恐喝者とバウンサーに追いかけられる冒険とロマンス。

バンコランがレストランである男を監視している(1930年代にタキシードで、フロックコートで、金ぴかの杖だぜ)。そこにショーモン大尉がやってきて、フィアンセであるオデットが失踪してしまったと肩を落とした。聞くと、蝋人形館(マダム・タッソーのを思…

ジョン・ディクスン・カー「毒のたわむれ」(ハヤカワポケットミステリ) アメリカの幽霊屋敷に起こる怪異と殺人。コンメディア・デ・ラルテの探偵キャラ模索中。

「蝋人形館の殺人」のあと、ジェフ・マールは小説を書くために、バンコランと別れ、アメリカ、ペンシルバニア州の田舎町を訪れる。そこには開拓時代から続く名家があり、懇意にしていたのだ。その家はすでに築150年(1932年当時)を過ぎていて、古いイギリス…

カーター・ディクスン「プレーグコートの殺人」(ハヤカワ文庫) ペスト禍による幽霊騒ぎで起きた密室殺人事件をゴーストバスターズ(インチキ暴き)が捜査する。

1710年、ロンドンでペスト(黒死病、プレーグ)が蔓延していたころ、この邸の放埓な弟は平気で街中に出かけていた。特殊な魔術のおかげで病にかからないと信じていたのだ。しかし、願いはあえなく潰え、彼は病気の症状を呈して邸に駆けこんできた。厳格な兄…

カーター・ディクスン「白い僧院の殺人」(創元推理文庫) 足跡のない雪で囲まれた屋敷で起きた殺人。ファム・ファタールが男を翻弄する。

<白い僧院>というが修道院のことではなく、ロンドンの郊外にある館の名前。そこの別館で事件が起きる。 発端は有名女優に毒入りチョコレートが送られたこと。それを食べた女優のエージェントが中毒になるが、一命を取り留める。それから1か月ほどして、彼…

ジョン・ディクスン・カー「三つの棺」(ハヤカワポケットミステリ)-2 「ぼくのかんがえたさいきょうのみっしつぶんるい」

ここでは密室講義についての感想。 「密室」の分類が困難なのは、最初には「密室」の定義があいまいなため。通常は、物理的に密閉された部屋の室内で被害者いて、犯人が消失。出入りは通常は不可能。あたりになり、まあ窓、ドア、天井、床などの部屋を構成す…

ジョン・ディクスン・カー「三つの棺」(ハヤカワポケットミステリ)-1

専門のわからないグリモー教授は無給で博物館などの仕事をしていて、とくに吸血鬼伝説に造詣が深い。愛好家の友人らを酒場でその話をしていると、ピエール・フレイなる奇術師がおかしな話で割り込む。それを聞くとグリモー教授は顔色を変え、そこにいた新聞…

ジョン・ディクスン・カー「アラビアンナイトの殺人」(創元推理文庫) ドタバタ騒ぎ込みの一つの事件を三人が語るとわけの分からないことになる。

タイトルのアラビアン・ナイトはダブルミーニング。ひとつめは、アラビアの収蔵品を集めた博物館が舞台で、アラビア学者がいたり、アラビアの小物がでてきたりというところ。小物に付け髭のあごひげがあるが、これはアラビアの成人に必須。もうひとつは、同…

ジョン・ディクスン・カー「火刑法廷」(ハヤカワ文庫)

昔、ブランヴィリエ侯爵夫人という悪女がいて、周囲の人を毒殺してまわった。結局ばれて死刑。それが1676年。そののち、1861年にマリー・ドープリーという同じく悪女がヒ素で毒殺して、ギロチンにかけられている。その末裔はフランスをのがれ、アメリカ・ペ…

ジョン・ディクスン・カー「四つの凶器」(ハヤカワポケットミステリ) 現場に残された凶器はどれも死因と関係がない。クライマックスは闇の賭博場を借り切っての大がかりなコン・ゲーム。

ローザ・クロネックは高級娼婦(そういうのが珍しくない時代)。財閥、政府高官、外国の外交官などと短期間の同棲をしては縁を切り、金を稼いでいた。そろそろ年増に入るというとき、パリ在住のイギリス人金持ちラルフ・ダグラスと1年間過ごした。ラルフは別…

ジョン・ディクスン・カー「死者はよみがえる」(創元推理文庫) 不審な侵入者がいないホテルの上階の部屋で殺人が起こる。意外な犯人と意外な凶器のあわせわざ。

ロンドンから一時間ほどの田舎ノースフィルドにある由緒ある館。当主が飲んだくれのため逼迫し、売りに出した。買い取ったのは、政治家ゲイ卿。引退したので友人の若い政治家や実業家を呼んではたのしんでいる。ある夜、そういう連中が宿泊したさい、何者か…

カーター・ディクスン「ユダの窓」(ハヤカワポケットミステリ) 法廷では事件の断片が語られるので、読者は自力でプロットを再構成しなければならない。

ユダの窓とは「監房の扉についておって、看守などが、中の囚人にさとられないようにのぞきこんだり調べたりするための、蓋のついた小さな四角いのぞき窓のこと」(P259)だそうだ。ポイントは、中の囚人にさとられないということ。ということは、看守(この小…

カーター・ディクスン「五つの箱の死」(ハヤカワポケットミステリ)なぜ毒を飲ませたうえで刺殺したのでしょう。

医学者のジョン・サンダースが深夜に帰宅しようとすると、若い美女に声をかけられる。父親の有名外科医がビルの一室にいるのだが、不安でならない。出かける前に遺書をしたためていったという。一人で行けないので、付き添ってほしいと。御年28歳で独身の博…

カーター・ディクスン「読者よ欺かれるなかれ」(ハヤカワポケットミステリ) 中身の不可能犯罪よりも、著者がつけた注釈によるミスディレクションのほうが新しい。

なんとも挑発的なタイトルの一冊。なぜか探偵小説マニアはこういう挑発に弱く、本を手に取るのである。しかも、主題がテレフォース(思念放射)による殺人という現代的なオカルトなのが、さらにそそらせる。 さて、女流作家マイナ・コンスタブル家には奇妙な…

ジョン・ディクスン・カー「囁く影」(ハヤカワ文庫) 古い高い塔で起こる不可能犯罪は吸血鬼の仕業か。複雑なプロットを見事にまとめるカーの傑作長編。

時は1945年。戦争の傷跡深く、交通インフラその他が復旧していないが、生きる意欲の高い時期。元歴史学者で傷病兵(薬害で長期間入院していた)のマイルズ・ハモンドは遺産を受け取り、古い屋敷の古文書を引き取る。司書を雇ったところ、絶世の、しかも薄幸…

カーター・ディクスン「青ひげの花嫁」(ハヤカワ文庫) 過去の連続殺人事件犯人に間違われた男が行く先々で死体に出会う。ロマンスなしのチェイス・アンド・アドベンチャー。

青ひげ公は、中世の王様で何人も花嫁をもらってはその都度殺して城のさまざまなところに埋めて隠していたとの伝説上の人物。ジル・ド・レーがモデルになっているとか。ベラ・バラージュ脚本ベラ・バルトーク作曲で「青ひげ公の城」がある。 さて、イギリスの…

ジョン・ディクスン・カー「眠れるスフィンクス」(ハヤカワ文庫)

中年男性ドナルド・ホールデンは帰国したとき自分が死んだことになっているのを知った。MI5で諜報活動をすることになったので、戸籍から抹消されていたのだ。モーム/ヒッチコックの「アシェンデン(第3逃亡者)」だね。酸いも甘いも経験して、帰国したら、…

カーター・ディクスン「墓場貸します」(ハヤカワ文庫)

H・M卿アメリカに行く。ある実業家の招きでニューヨークについたその日、さっそく地下鉄(NYっ子はサブウェイで、H・Mはアンダーグラウンドで、まず言葉使いでいさかい)でやらかす。すなわち、切符なしで改札を通り抜けてみせ、その結果、見物人をパニック…

ジョン・ディクスン・カー「ニューゲイトの花嫁」(ハヤカワ文庫)

1815年のロンドン。ニューゲイトの監獄には、あるフェンシング教師が囚われ、今日にも死刑が執行されるはずであった。彼は数か月前の夜、なにものかに襲われ、貴族にして高利貸しが殺された現場に軟禁されていたのであった。あらゆる申し立ては平民の罪を軽…

ジョン・ディクスン・カー「九つの答」(ハヤカワポケットミステリ) 文無しイギリス人が殺人ゲームに巻き込まれるチェイス&アドヴェンチャー。作者が言う間違った答も真相隠しのトリック。

1952年。バトル・オブ・ブリテンに参加しBBCにコネのある青年(32歳だけど)のビル・ドーソンはアメリカで行き詰まっていた。フィアンセには振られ、勉学したものの職はなく、文無しだった。ある弁護士の呼び出しをうけると、前の客の話が聞こえる。なぜか、…

カーター・ディクスン「騎士の盃」(ハヤカワ文庫)

イングランドの近郊にあるデルフォード館。17世紀にさかのぼる古い貴族のもので、幸い戦禍にあわずに1953年の現在までよく保存されている。イギリスの貴族はこの種の建物を保存しなければならず、みかけほど資産をもっているわけではないそうな。現在はトム…

ジョン・ディクスン・カー「喉切り隊長」(ハヤカワポケットミステリ) 1805年イギリス侵攻をたくらむフランス軍で起きた歩哨連続殺人。ナポレオン、フーシュ、タレーランが登場する歴史ミステリ。

ときは1805年。フランスの皇帝になったナポレオン・ボナパルトは宿敵イギリスを征服するべく準備を開始していた。パリから馬車で二日かかるブーローニュに軍隊を集め、最新鋭兵器である軽気球100台の訓練にいそしんでいた。しかし、ナポレオンはイギリスとの…

ジョン・ディクスン・カー「火よ! 燃えろ」(ハヤカワ文庫) 1829年倫敦に紛れ込んだヒーローが活躍するロマンス&アドヴェンチャー。

1957年初出。その時代にタクシーに乗っていたロンドン警視庁の警視が物思いにふけっていたら、タクシーは馬車に、街灯はガス灯に、変化していた。なんと1829年にタイムスリップしていた(というハイカラなことばをカーは使っていないが)。この国に当てはめて…

ジョン・ディクスン・カー「ビロードの悪魔」(ハヤカワポケットミステリ) 悪魔と取引して1675年の倫敦に快男児として蘇る。市民革命の時代は命が安いかわりに英雄になれる。

1959年の歴史もの。カーの著作ではもっとも売れたという。なるほど、ベストセラーになる条件のひとつは分厚いことだが、それはまずクリア。ポケミス版で430ページ(厚さ2cm超え)。では、それ以外の条件はなんだろうという視点でまとめる。 ・1950年代の…

ジョン・ディクスン・カー「ハイチムニー荘の醜聞」(ハヤカワ文庫) 1865年倫敦の幽霊屋敷。黒づくめの誰かが深夜に屋敷を徘徊している。

時代は1865年。ディケンズやコリンズの同時代。この国に住むものでは、この年代は明治維新のころなので、時代小説や捕り物帳を読むようなものだが、イギリスではちょっとふるい現代小説という趣かな。テクノロジーはもちろんないに等しいにしても、社会の構…

東野圭吾「マスカレード・ホテル」(集英社文庫) ホテル専属探偵がいない日本では警察がホテルに乗り込む。クライムミステリーと同時進行するハーレクインロマンス。

ホテルの主要スタッフが呼び出され、警察が内密に潜入捜査をすることになった、ついては各部署に数名の警官が配置されるから、君たちはホテルマンとしての教育をするようにと命じられる。このとたんに、筒井康隆「富豪刑事」連作の「ホテルの富豪刑事」、都…

東野圭吾「パラドックス13」(講談社文庫) 極限状態は法を書き換えるが、男は性差別を乗り越えられない

ある日あるとき、上から13時ちょうどから20分まで行動を控えろという指示が下りてきた。おりから暴力団だかやくざの一斉検挙の突入時刻。躊躇する警視庁グループの前で、所轄の巡査が突入してしまった。追いかけて止めようとしたところ、相手は発砲。その直…

石川淳「普賢」(集英社文庫)

著者の昭和10年代の作品を収録。あまり作者の経歴は知らないのだが、最初はフランス文学の研究者として出たのではなかったかな。ジイドの翻訳一冊があって(新潮文庫に「背徳者」が収められていた)、翻訳はそれきりにした。で「佳人」が最初の作。「普賢」…

石川淳「白描」(集英社文庫)

昭和14年1939年に連載された。 物語のときは昭和11年夏。場所は東京。まず鼓金吾なる青年が登場する。木彫り職人の息子で無学な少年だ。父が彫った木彫りを納品する工芸品店の中条兵作の奸計で、田舎家の留守番に仕立て上げられる。そこにはアルダノフとリイ…

石川淳「癇癖談」(ちくま文庫)

江戸時代の古典の現代語訳。「宇比山踏」を除いて昭和17年に刊行された。どうしてこのような現代語訳をしたのか、なにかの雑誌に初出があるのかは不明。まあ、この時代、作家は自作の小説を発表することはほとんどかなわず、蟄居生活に入っていた。そのとき…