odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2019-01-01から1年間の記事一覧

山口雅也「生ける屍の死」(創元推理文庫)-1

創元推理文庫で650ページ弱の分厚さで、途中でメモを取るのをあきらめたから、以下のサマリーには盛大に勘違いがあると思います。 アメリカ、ニューイングランドの片田舎にあるトゥームズヴィル(墓の町)という奇妙な名前の町。イギリスから移民したバーリ…

山口雅也「生ける屍の死(創元推理文庫)-2

2019/11/05 山口雅也「生ける屍の死」(創元推理文庫)-1 1989年の続き 初出は1989年(その後改訂されたらしい)。思い出すと、1980年代後半に「脳死」論争があった。医療機器の発達で脳以外の器官は機能停止にならないが、脳だけが機能停止した状態があり、…

山口雅也「キッド・ピストルズの冒涜」(創元推理文庫)

パラレル世界のイギリスは読者の現実世界と地続きではあるが、微妙な差異がある。たとえば、シェークスピアは「オセロ」を喜劇として発表し、ジョン・レノンは暗殺されていなくて・・・。それでも経済停滞はどうしようもなく(バージェス「時計仕掛けのオレ…

山口雅也「垂里冴子のお見合いと推理」(講談社文庫)

「垂里家の長女・冴子、当年とって33歳、未婚。美しく聡明、なおかつ控えめな彼女に縁談が持ち込まれるたびに、起る事件。冴子は、事件を解決するが、縁談は、流れてしまう……。見合いはすれども、嫁には行かぬ、数奇な冴子の運命と奇妙な事件たち」http://bo…

中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-1 埴谷雄高の推薦文で低評価から戦後探偵小説の傑作に急転換。そこらに落ちているミステリーとは比べ物にならない文章の密度と技術。

作者曰く、1955年にこの構想が一気にまとまったにもかかわらず、なかなか書き進めず、第2章までのところで乱歩賞に応募したのが1962年(次席)。増補して現在の形(原稿用紙1200枚)で出版したのが1964年。評価は芳しくなったが、埴谷雄高の文で再評価開始…

中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-2 現実(実際に起きている事件)と非現実(久生や亜利夫などの推理比べで登場するさまざまな妄想)の区別がつかない「ザ・ヒヌマ・マーダー」。

2019/10/29 中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-1 1964年の続き 第2章 ・・・ 氷沼家に40年も奉公していた爺やが「黒月の呪法」などと言い出したので(医師の藤木田老は分裂症(ママ:死語)の疑いありといっていた)、家族の同意で収容される。蒼司は…

中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-3 「事件は終わった。しかし、なにか割り切れぬうそ寒い気持ちだけが残った」。犯人にされた「読者」は何を思う?

2019/10/29 中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-1 1964年2019/10/28 中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-2 1964年の続き 第4章 ・・・ 藍司が息せき切って急いだのは、八田を詰問するためで、実のところ死んだはずの黄司とつながっていたのは八田…

中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-4 作中で設定した論理は小説内では整合性を持つがリアルとは無関係であり、ミステリーのお約束をいっさい無視しているこの小説はアンチ・ミステリーと呼ぶしかない。

2019/10/29 中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-1 1964年2019/10/28 中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)-2 1964年2019/10/25 [https://odd-hatch.hatenablog.jp/entry/2019/10/25/092532:title=中井英夫中井英夫「虚無への供物」(講談社文庫)→ h…

大杉栄「自叙伝・日本脱出記」(岩波文庫) 日露戦争前の騒然とした空気のなかで無政府主義者となった天衣無縫の人。関東大震災に憲兵に虐殺された。

大杉栄は1884年生まれ。軍人の家庭に生まれたが、どうも子供のころから無鉄砲でやんちゃだったようだ。長じて陸軍幼年学校に入校したが、ここで権威に従えない自分を発見し、種々の問題を起こした挙句に放校となる。幼年学校で教師や同級生などとずいぶん角…

荒畑寒村「寒村自伝 上」(岩波文庫)-1 寒村は日本の社会主義運動の生き字引的存在。平民新聞、田中正造らとの出会い。

荒畑寒村は1887年生まれ。長じて社会主義者となり、さまざまな活動にかかわる。戦後は代議士にもなった。長命であったので、日本の社会主義運動の生き字引的存在。彼が折に触れて書いた自伝を上下二巻にまとめる。 空想少年の生い立ち ・・・ 里子に出された…

荒畑寒村「寒村自伝 上」(岩波文庫)-2 上巻の主人公は幸徳秋水と堺利彦。若い寒村は数歳年上の菅野須賀子と出会い、同棲し結婚する。大逆事件に向けて緊迫した状況になる。

2019/10/21 荒畑寒村「寒村自伝 上」(岩波文庫)-1 1975年 寒村の目で見た社会主義運動の歴史。上巻の主人公は幸徳秋水と堺利彦。若い寒村は数歳年上の菅野須賀子と出会い、同棲し結婚する。ここからは大逆事件に向けて緊迫した状況になる。ja.wikipedia.or…

荒畑寒村「寒村自伝 下」(岩波文庫)-1 寒村40代。東奔西走の日々。眼はますますさえ、日本共産党、社会主義団体、コミンテルン、ソ連共産党のおかしなところにいち早く気付く。

2019/10/21 荒畑寒村「寒村自伝 上」(岩波文庫)-1 1975年2019/10/18 荒畑寒村「寒村自伝 上」(岩波文庫)-2 1975年 下巻の前半は寒村40代。東奔西走の日々。眼はますますさえ、日本共産党、社会主義団体、コミンテルン、ソ連共産党のおかしなところにいち…

荒畑寒村「寒村自伝 下」(岩波文庫)-2 戦前から戦後。戦いは厳しく、同志は去り、横にいるものはぶれてばかり。しかし寒村は嘆かない。怒りを忘れない。

2019/10/21 荒畑寒村「寒村自伝 上」(岩波文庫)-1 1975年2019/10/18 荒畑寒村「寒村自伝 上」(岩波文庫)-2 1975年2019/10/17 荒畑寒村「寒村自伝 下」(岩波文庫)-1 1975年の続き。 戦前から戦後。戦いは厳しく、同志は去り、横にいるものはぶれてばか…

避難所あるある(メモ)

2019年10月の台風19号で避難を経験した人の情報や、自治体などの防災・避難所情報などをまとめました。

宇井純 INDEX

2012/05/23 宇井純「公害の政治学」(三省堂新書) 1968年2019/10/11 石牟礼道子「苦海浄土」(講談社文庫) 1968年2019/10/10 石牟礼道子「天の魚」(講談社文庫) 1972年2019/10/08 宇井純「公害原論 I」(亜紀書房)-1 1970年2019/10/07 宇井純「公害原論…

石牟礼道子「苦海浄土」(講談社文庫) 公害を考えることは人権を考えることに等しい。本邦ほとんど唯一の世界文学。

断続的に発表されていたのを1968年にまとめ、出版された。水俣市に嫁いできた作者が奇病を知り、その被害者のところを訪問するうちに、さまざまなことばを聞く。そのことばが沈潜して、このような「小説」が生まれた。昭和の文学における奇蹟。(渡辺京二の…

石牟礼道子「天の魚」(講談社文庫) 「物わかりの悪い素人」となって権利を侵害するものに異議を申し立てる。

タイトルは「天の魚」。サブタイトルは「続・苦海浄土」。 初出は1972年。 第一章 死都の雪 ・・・ 1971年から72年に代わる時間。水俣病患者たちは団体交渉に応じないチッソに抗議するために東京本社の前に座り込みを始める。 「大道に座りかつねむる、とい…

宇井純「公害原論 I」(亜紀書房)-1 1970年に始まった夜間公開自主講座の記録。日本は公害が起こりにくい国土なのに公害列島になったのは国家と企業と大学の無責任のせい。

1970年10月12日に東大工学部の講堂で、夜間公開自主講座が日本初で開かれる。主催は工学部助手の宇井純。その前に水俣病の調査をして、1963年にメチル水銀が原因であることを突き止めた。しかし公開しなかった。1965年に新潟水俣病発生。そのときに被害者の…

宇井純「公害原論 I」(亜紀書房)-2 1970年での水俣病・新潟水俣病・足尾鉱毒事件のレポート。社会に迷惑をかける行動が社会をかえるきっかけになる。

2019/10/08 宇井純「公害原論 I」(亜紀書房)-1 1970年の続き 日本の公害の歴史をまとめる。一般的状況で「自治意識の強いところでは公害がでにくい」という指摘があったが、水俣病などの公害病が発生するまで汚染されたところでは、自治が強くない。水俣市…

宇井純「公害原論 II」(亜紀書房)-1 20世紀前半の公害問題。住民自治がしっかりしているところでは公害は防げる。住民自治が切り崩されると公害は蔓延する。

日本の公害の歴史を振り返る。歴史を振り返ると、以下のようにまとめられる。 「大正時代の公害問題に対する意識と行動の高揚が見事であるだけに、昭和年代の社会問題としての公害に対する我々の意識は、いかに低落したかに眼をおおいたくなるであろう。この…

宇井純「公害原論 II」(亜紀書房)-2 1960年代の公害問題。公害や環境汚染を技術の問題に還元しないが重要。

2019/10/04 宇井純「公害原論 II」(亜紀書房)-1 1971年の続き 続けて昭和の公害。ほぼ同時代に起きている公害反対運動の紹介。この時代には全国で公害問題があり、それぞれで反対運動が起きていた。反対運動は相互に行き来をし(SNSがないので、現地に行く…

宇井純「公害原論 III」(亜紀書房)-1 1960年代のヨーロッパの環境汚染問題。関心を持つのは遅れたが対策をとるのは日本より早かった。

1970年年末と翌年2月に国際会議に行く。そこの報告と自主講座第1期のまとめ。重要なのは、 「公害に関する議論は(略)真の問題点をぼやかすためにわざとにぎやかにされている面もあるにちがいない。意識的に、どうでもいい話をわざと混入するというのが、…

宇井純「公害原論 III」(亜紀書房)-2 国家・企業・大学の無責任に対抗するには縦割り組織や権力集中型組織は無力。システム的な対応をしない個人のゆるい連帯のほうが強い。

2019/10/01 宇井純「公害原論 III」(亜紀書房)-1 1971年の続き 第2巻の「技術的対策」の続き。 運動論・組織論 ・・・ 公害に対してなぜころほど無策、無力であったか。公害の無視が高度経済成長の要因であったし、大学も生産力(廃棄物の生産向上)をあ…

宇井純「現代社会と公害」(勁草書房) 研究者・法律家が講演する自主講座の2学期。荒幡寒村の回は全体の白眉。

自主講座の2学期はさまざまな現場のひとたち(現在に限らない)の話を聞く。宇井純による1学期の話を実地でどう使うかを検討する機会になる。当初100人教室で行っていたが、このころには400人を超える。荒畑寒村の回には屋内に収容できなくなり、途中から…

宇井純「現代科学と公害」(勁草書房) 科学者・研究者の講演。現場の記録と見せ方が関心を広げるために重要。

イタイイタイ病(萩野昇) 1971.5.10 ・・・ 萩野医師は敗戦直後にイタイイタイ病を発見し、治療にあたってきた。あわせて、鉱毒説を1957年に発表する。その結果、県、鉱山会社、東京大学その他から研究の妨害や恫喝を受けてきた。風向きが変わったのは、医…

宇井純「続・現代科学と公害」(勁草書房) 技術者・医師による実践運動の記録。市民・住民・大衆の関心や応援のあるなしが成否をわける。

「民衆のための科学」という考えがでてくる。大学などの研究者・専門家が体制の側に立って代弁者になる状況で、科学者はどういう研究をするべきか。それにこたえようという考え。本書収録の講演のうち最初のみっつは、そういう実践をしてきた人の報告。成功…

宇井純「公害被害者の論理」(勁草書房) 被害当事者の発言。現場から遠くなるほど彼らの声はかぼそくなるので、聞いたら広めることが大事。

このシリーズ(剄草書房版)は公害研究者による講演だったが、この巻では被害当事者の発言を収録する。被害者の声は、企業や権力の大声にかき消され、メディアにのりにくい。現場から遠くなるほどか細い声になる。それを聞き、「誰にでもできる寄与が手の届…

宇井純「公害原論 補巻I(公害と行政)」(亜紀書房) 自主講座第2期の記録。学者や専門家は役に立たない。物わかりの悪い素人の粘り強い抗議だけが、公害を止めることができる

サブタイトルは「公害と行政」。 初出は1974年。 公害を制度と技術は解決しない。むしろ公害を悪化させるように制度と技術は働く。学者や専門家は役に立たない。物わかりの悪い素人の粘り強い抗議だけが、公害を止めることができる。すでに過去の講義で繰り…

宇井純「公害原論 補巻II(公害住民運動)」(亜紀書房) 希望は個々人が行う住民運動のネットワーク。組織のない運動は長期に継続するのが難しい。

サブタイトルは「公害住民運動」。ここまで(初出1974年)15年続けてきた活動をまとめる。 「住民運動は、何の手引もなく未踏の分野を進まなければならない。そこには多くの困難があり、しかも自分たちの生活を守ることだけが成功の報酬という無償の行動であ…

宇井純「公害原論 補巻III(公害自主講座運動)」(亜紀書房) 著者が現場にいって被害者や支援者を前にした出張講座の記録。

サブタイトルは公害自主講座運動。もともとは東大の開いている教室を使って始めた自主講座。お代は200円。つまらないと思った人には返す。その結果、講師も聴衆も緊張感が出て、長続きする運動になった。そこから各地の公害運動の支援や情報交換役や記録係に…