2023-01-01から1年間の記事一覧
この小説の来歴は少し変わっている。1967年に総務省が「二十一世紀の日本」をテーマにした懸賞小説を募集した。これに当時新進作家だった西村京太郎が応募して、賞金500万円を手に入れた。すでに乱歩賞も受賞していたが、ヒットに恵まれていたわけではない作…
冒頭で作者はこの推理小説は双生児トリックを使っていると明記している。奇術ではよくある趣向(入れ替わりや瞬間移動など)だが、ノックスの十戒やヴァン・ダインの二十則でも、双生児を登場してはならないという一項があった。19世紀末の短編探偵小説全盛…
平成以降の日本のエンタメは列島を舞台にするどころか、半径50m程度の日常を書いたりして、どうもせせこましいという印象をもっている。本屋でみかけてもめったに手にしないし、読むまでにいたらない。そこで50年前のエンタメ(1975年刊)を読む。スケー…
1960-70年代のこの作家の仕事はとても力が入っている。ミステリや推理小説には入らない作品だし、サスペンスというにはいささか浮世離れした荒唐無稽さがあるのだが、それでもこの作品を書きたいという意欲がとても強く伝わってくる。 1977年、アマ無線のマ…
西村京太郎は「名探偵」シリーズをかいたように、ミステリマニアなのであって、1970年代の長編には「本格推理」を少しひねった趣向で書いたものがあるのだ。この「七人の証人」はノーマークだったが、カバー裏表紙のサマリーを見て読むことを決めた。 十津川…
全体主義の脅威を考えていくと、そのもとになった反ユダヤ主義にふれないわけにはいかない。反ユダヤ主義に関連するような本を読んできたが、20世紀ではユダヤ教ないしユダヤ民族国家としてのイスラエルを避けては通れない。とはいえ、断続的な報道でイスラ…
2001年。1990年代にこの国でもホロコースト否定、南京虐殺否定、自虐史観脱却などの歴史捏造が言論界に現れてきた。ヨーロッパではヘイトクライムが目立って発生し、極右が移民や難民排斥を主張するようになる。 「歴史の記憶とは? 「国民の物語」とは? 戦…
1990年以降のテロ事件を分析して、テロの対する我々の思い込みを正す(2007年刊)。 その結論は本文にはかいてないので、日本の編集者の手になると思われるカバーのサマリーをみなければならない。引用すると、 「実証データから明らかになったテロに関する…
タイトルの通りです。カミュかメーテルランクのどれかのエントリーで3000になりました(日記やPDF自炊のエントリーは除く)。 2000に到達したときは 読書感想のエントリーが2000に到達 - odd_hatchの読書ノート なので、1000増えるのに5年半かかり…
「まいにちフランス語 応用編 オペラで学ぶ「ペレアスとメリザンド」を読む」が2021~22年にNHKで放送された。講師は川竹英克さんとジョジアーヌ・ピノンさんの二人のフランス文学者。講師によるとメーテルランクの原文はわかりやすい簡単なフランス語で書か…
2023/09/05 メーテルランク「ペレアスとメリザンド」(岩波文庫)-2 第1幕第2幕 異教の少女が無理やり結婚させら、危篤の親友に会いたい少年は城からでられない。 1893年の続き どうしてもワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を想起してしまうので、気づか…
2023/09/04 メーテルランク「ペレアスとメリザンド」(岩波文庫)-3 第3幕第4幕(続く) 父親不明で懐妊させられたメリザンドと城から出たいのに許されないペレアスは分裂にさいなまれ、大人にいじめられる 1893年の続き メリザンドは少女であるが肉体の存在…
最近(2023年)、ドビュッシー唯一のオペラ「ペレアスとメリザンド」が大好きになってしまった。ドビュッシーの最高傑作の音楽は、毎日数回聴いても飽きない。ようやく音楽は耳になじんできたとはいえ、テキストの理解が危ういので、本書で勉強する。あと2…
この高名な小説に関する言説で奇妙なのは、語り手の「私」はなぜ「異邦人」なのか、どこに対して異邦であるのかが問われていないことだ。語り手の「私」は裁判官にも陪審員にも弁護士にも司祭にも愛されていない、共感を得られていない。その理由は、「私」…
2023/08/29 アルベール・カミュ「異邦人」(新潮文庫)-1 植民地で起きたヘイトクライム事件の概要。ムルソーにとって太陽はフランス国家の象徴。 1942年の続き このように事件の構造は、フランス人による植民地先住民へのヘイト殺人だ。そのように解釈する…
アルベール・カミュくん(1913年生まれ)が20代の後半に書いた哲学風エッセイ。同じ年齢で読んだら感動しただろうが、初老で読むとその稚気がほほえましく、性急さに落ち着けよと言いたくなり、「ぼくが、ぼくは、ぼくの、ぼくを」が頻出する語り口にそうい…
2023/08/25 アルベール・カミュ「シーシュポスの神話」(新潮文庫)-1 自意識過剰でフラフラしている青年が不満をぶちまけた哲学風な独り言 1942年の続き アルベールくんの「不条理」に関する饒舌は、人間の普遍的な性格を分析したのではなく、近代ヨーロッ…
原著は2005年で邦訳は2009年。複数のステークホルダーがいて、解決の調停や交渉が難しい時、それぞれの費用と便益を数値化して(下にあるようにデータにバイアスがあるとか、統計がとりにくいとか問題はあるが)、トレードオフを考慮することを推奨する。な…
「正しさ」を考えるやり方について。2004年刊行。 第1章 「正しさ」は必要か ・・・ 「正しい」を説明する際に、本書では、「絶対」に依拠しない、内面の問題にしない、約束事を作り上げるというやり方で考える。なお「正しさ」は具体的に語る(あるいは具…
「14歳」は教育学や発達心理学などでは重要な年齢だ。伸びるし、不安定だし。そこで大人が適切に手を差し伸べよう。かつてのような教養主義でも、父権主義でもなく、彼らを人間として対等の立場で助言やアドバイスを行おう。命令するのではなく、自分で考え…
20世紀末の倫理学が何を考えているかを網羅する講義の記録(1997年)。おもには功利主義をめぐる議論になっている。概況はまえがきに書かれているので、まずはそのまとめから。 20世紀末の社会倫理の特長は、脱宗教的な世俗性(功利主義)、市場経済(自由主…
2023/08/09 加藤尚武「現代倫理学入門」(講談社学術文庫)-1 カントの内面の格率による規範意識も、ベンサムの最大多数の最大幸福も、ミルの自由主義も、道徳や倫理の形式化にはうまくいかない。 1997年の続き 以後は功利主義の限界を明らかにすることと、…
「最近の大学生は本を読まない」「大学生の学力が落ちている」「大学がレジャーランド化している」という言説はよく聞こえてくる。それは、過去の大学生は本をたくさん読んで、勉強をしていて、遊ぶ者は少数だったということを前提にしている。この前提は正…
2023/08/07 竹内洋「教養主義の没落」(中公新書)-1 戦前日本の教養主義:デカンショは外国への憧れで、反学歴社会運動だった 2003年の続き 本書の記述にそって、ある教養主義者を仮構してみよう。 彼は1900年から1910年の間に、田舎の中産階層に生まれた。…
著者は高名な西洋中世史研究者。1980-90年代は人気があった人だったと記憶する。その人が「教養」について書くから、竹内洋「教養主義の没落」(中公新書)で触れられなかった西洋の教養の歴史がわかると思って読んだ。1996年刊行。あとがきによ…
中国では西暦584年隋の時代に科挙という官吏登用試験が始まり、1904年の清の時代まで続いた。もともとは貴族政治による世襲を壊すためで、在野の人々(ただし試験には多額の費用がかかるので、ある程度の資産を持っている家でないと受験者を支援できない…
KINDLEスクライブを使う(3)PDFやワードなどのドキュメントファイルを読む。の続き コレクションにタイトルを追加するときは、タイトルが表示されているコレクションで「±」ボタンをタップします。 この画面で、追加するタイトルにチェックをいれ、「保存…
KINDLEスクライブを使う(2)KINDLEストアの購入本を読むの続き KINDLEスクライブで、PDFやワードなどのドキュメントファイルを読むことができます。自炊した大量のファイルはこのためにあるといって過言ではありません。 文字の小さな昔の文庫でも、10.2イ…
KINDLEスクライブを使う(1)初期設定とライブラリーの使い方の続き 購入本のサムネイルをタップすると、本が開きます。 タップする場所赤の四角枠をタップすると、次のページに進みます(前進)。赤の丸枠をタップすると、前のページに戻ります(後退)。…
来るべき老眼に備えてKINDLEスクライブ(10.2インチ)を購入した。梱包箱の状態。 開封します。本体左側(赤枠のあたり)のボタンを押して起動します。画面は設定済のスリープ画面。メッセージにこたえて初期設定を終えます。 ※ 設定の仕方はメールで教えら…