odd_hatchの読書ノート

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ジョン・ガルブレイス「現代経済入門」(TBSブリタニカ)

 巻末の都留重人の解説を借用してまとめる。ポイントは、インフレと失業にどのように対応するかということ。
・最初に、市場が古典派経済学の規定していた自由競争の場でなくなったこと。巨大企業は、市場をコントロールすることができる。大企業は販売価格を決定することができる(そのため競合のある中での自由競争はなくなる)。労働組合の賃上げ要求があっても、それを効率性の上昇に向かわせるのではなく、消費者に転化できる。そこで、価格の上昇と賃金の上昇が同時に起こり、インフレの原因となる。
・政治は、このような企業の行動に対し規制を行うことができるが、その機能を果たしていない。企業のロビーイストの活動があるばかりでなく、政府そのものが企業の代弁者になっているから。政府は、社会の公平さよりも企業の生産性の拡大(それによる税収の増大)を望む。大企業に都合のよい規制を行う。大企業の組合もそのような企業の活動を支援する。労働組合に参加できない中小企業、農民、移民などの弱者をさらに脅威にさらすことを躊躇しない。
・慣習的な経済学は、貨幣政策と財政政策を行ってきた。貨幣政策は保守的であり、差別的な効果を持っている。インフレ時に貨幣の流動性を高めることによって、負債の増加と失業をもたらすから。財政政策も強者に厚く、弱者に薄いという偏りがある(生産と雇用を抑えることで作用するので、運転資金を借入金に頼る中小企業には厳しい)。さらに市場が自由競争の場にないので、効果的ではない。戦時下のような統制経済は、産業界の反発を招くのでリアルな対策ではない。1970年代のようなインフレと失業が同時に進行するようなとき、多くの政策は失業を増大させた。
・また、国内の遅れた(効率性を上げることに熱心でなかった)巨大産業は、保護政策を要請する。それは、彼らが好況期に期待していた自由競争を否定するもの。大企業はその矛盾を意識することはない。結局のところ、企業は価値の増大ではなく、組織の維持を求める。
ガルブレイスは、「包括的所得・価格政策」を提案する。「巨大法人企業の私的な価格設定に代えて公的な価格抑制をすることを意味する」。販売価格の統制と同時に、賃金も制限が加えられる(ガルブレイスは一般的な労働者のことよりも、木々行の役員などの高額所得者に対する賃金統制を重要と考えている)。あわせて所得税政策と組み合わせなければならない(高額所得者に対する累進的な課税を実施する)。それによって、貨幣を高額所得者から低額所得者、生活保護者に対して流動させることを実行する。あわせて社会的公共資本に対する投資を増大する。
・経済の成長はなければならない。しかし適正水準はあるべきだ。とくにエネルギー資源の枯渇に備えなければならない。
・企業を国有化することは、いくつかの産業ではありうる。しかし、官僚による経営ではなく、一定の自律性を保護しなければならない(イギリスやフランスなどで、企業の国有化が議論されていた時代)。

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