ヨーロッパは歴史と世界をどのようにみてきたのか。世界をどこまでの範囲にしているかで歴史の記述は変わる。歴史の長さをどこまでとるかで世界の広がりも変わる。そこで、ヨーロッパの歴史書と歴史哲学を古代から近代まで見通してみる。
問題意識はそこにあるので、ヨーロッパの外の歴史書と歴史哲学(たとえば東洋、イスラム、ロシアなど)は除外される。

第1章 ヨーロッパ古代の世界史記述―世界史記述の発生 ・・・ 古代ギリシャ人とローマ人が記録に残るもっとも古い歴史書と歴史哲学がある。世界は地中海沿岸で、ヨーロッパやアジアやアフリカはなかった。ローマ帝国建国のころまでには、ヨーロッパ、アジア(ペルシャとインド)、リビア(アフリカ)になる。この時からヨーロッパの自由とアジアの隷属が対比され、ヨーロッパ優位の考えになっていた。さらにその外側は怪物が住むところとされる(三重構造の世界像)。彼等は円環的時間観をもっていて、歴史も循環すると考えていた。歴史は同時代の政治史を語るもの。
第2章 ヨーロッパ中世のキリスト教的世界史記述―「普遍史」の時代 ・・・ アウグスティヌスが「神の国」で、キリスト教に基づく救済史観をつくった。アダムとエヴァを始点として神の国の実現と永遠の至福を終点にし、そこに至るまでを神による人類教育過程の発展段階とする。これは始まりと終わりを持つ直線的発展的な時間となった。アウグスティヌスは聖書の記述に基づく歴史叙述を行い、普遍史の先駆けになった。当時人類の時間は6000年と思われイエス誕生時にすでに5000年と計算されていたので、中世の末期には終末観が漂っていた。トピック。8世紀にイスラムが西方を征服する。そこからイスラムの脅威にヨーロッパ共同体=キリスト教共同体で対抗することが望まれた。13世紀のモンゴルの時代はヨーラシアの東西の交流が実現したが、オスマン帝国ができると窓は閉ざされヨーロッパは孤立化した。
(1,2章を読むと、ヨーロッパの人種差別やイスラムフォビアは根が深いのがわかった。不思議なのは、地球円盤説であること。コペルニクスに代表される中世の天文学者=占星術師は地球を球体とみて軌道計算をしていた。彼等とそれ以外では知識の断絶があったのだろう。)
第3章 ヨーロッパ近世の世界史記述―普遍史の危機の時代 ・・・ 大航海時代から18世紀末まで。新大陸と人間の発見と西洋より古い文明との出会いが、ヨーロッパの歴史記述と世界の認識を変えた。球体の大地と四大陸になり、新大陸や中国の人間に「文明」を見出す。でも、ヨーロッパでは、中世の三重構造に代わり、文明人-異教徒-野蛮人という三重構造ができる。宗教改革のプロテスタントは聖書研究をヘブライ語訳で行ったので、カソリックのギリシャ語訳聖書の解釈と相違する。17世紀に中国の史書が紹介され、普遍史との間の矛盾を解消できない。創世紀元が使われなくなり、普遍史は18世紀末でほぼ終了。
(このあたりは岡崎勝世「聖書vs世界史」講談社現代新書のエントリーを参照。)
第4章 啓蒙主義の時代―文化史的世界史の形成と普遍史の崩壊 ・・・ 市民革命と科学革命と植民地主義の時代。力学的宇宙観、絶対的時間、無限の空間と時間。古代より現在が優れているという進歩史観。人間精神(理性)の法則的進歩。歴史から創造の奇蹟と終末が消える。進歩のヨーロッパ、未開のアジア、野蛮のアフリカという三重構造。ここにはヨーロッパ中心主義、オリエンタリズム、中世の欠落という問題がある。
第5章 近代ヨーロッパの世界史記述―科学的世界史 ・・・ 19世紀は市民社会と国民国家の時代。あわせて世界市場が拡大する。国民国家ができることで、世界国家を構想する啓蒙主義に対抗してロマン主義が生まれた。ロマン主義は資本主義批判で俗物批判。個人主義と有機体論をもつ。そこからナショナリズムが言われるようになり、保守主義へ。啓蒙主義は中世を無視ないし軽視したが、ロマン主義は中世に憧憬(とくに神聖ローマ帝国を理想にする)。また植民地は停滞している後進民族から倫理的信託を受けたとして、植民地主義(と帝国主義)を正当化した。歴史学では、有機体的な事象が質的に発展するという歴史主義が主流になった。例は、ランケ「世界史概観」、マルクス「史的唯物論」、ダーウィン「進化論」、ウェーバー「古代論」など。歴史記述からアダムが消え、先史時代を記述するようになった。
19世紀の歴史主義は20世紀でも強い影響力をもっていた。だいたい1970年までは、野蛮や未開が近代に発展していく段階として歴史が進んできたと日本では教育してきた。なので21世紀の20年代では50歳以上がこの影響を受けている。でも歴史主義に対する批判が起きた。1.ヨーロッパ中心主義、アジアとアフリカ社会を停滞規定。2.自生的発展観(外の影響を受けずに内だけで発展した)。3.国民主義的歴史観(国民国家の隆盛と凋落として歴史を記述する)。この三点がとくに批判された。
19世紀の歴史主義やそれ以前の啓蒙主義などの歴史記述を変える試みが以後続いている。21世紀では15~16世紀以降を世界の多元化と一体化としてみるようになった。例えば、ウォーラーステインの世界システム論。
世界史を記述する方法が時代によって変化しているのがよくわかった。ルソーとヘーゲルとマルクスとウォーラーステインでは全然異なるのだ。本書の整理によって、他の世界史記述を読むとき、どこにいて書いているのがわかるようになる(はず)。
あと、西洋では自国優位と周辺の蔑視や差別はとても根深いのに唖然とした。大航海時代や新大陸の黒人奴隷制あたりが端緒かと思っていたが、とても昔から(それこそ古代ギリシャやローマまで遡る)あった。この克服は大変な作業。ことに21世紀になって移民難民を問題にするようになってからヘイトスピーチやヘイトクライムは世界のどこでも起こるようになったからね。
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