odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2018-04-01から1ヶ月間の記事一覧

宮下誠「カラヤンがクラシックを殺した」(光文社新書) カラヤンのつくる音楽は「嫌な感じ」で「世界苦に無関心」だからダメ、なんだって。

タイトルは大仰であるし、著者は文中でたくさん怒っておられるが、さていったい誰を叱っているのかというと心もとない。なにしろ市場は減少の一途であり、新規参入客も減少中とはいえ、クラシック音楽の演奏会も放送も継続しており、音楽パッケージは販売さ…

中川右介「カラヤンとフルトヴェングラー」(幻冬舎新書) 大衆人気を使ってわがままだった二人のカリスマ指揮者の確執。

自分がフルトヴェングラー関連の本を集めたのは1980年代。フルトヴェングラーは没後30年たったころだが、カラヤンとチェリビダッケは存命中。本書の言葉をつかえば、カラヤンはフルトヴェングラーをその死の後に追い出したのだが、その幻に脅かされていた時…

朝比奈隆「交響楽の世界」(早稲田出版) 西洋古典音楽を日本の親方集団経営方式で演奏する。意をくんでくれる集団では成功するが、西洋の個人主義集団では・・・

1990年ごろに指揮者が新日本フィルハーモニーとベートーヴェン、ブラームスの交響曲全曲演奏会を開いた際に、音楽評論家の金子建志が演奏作品についてインタビューをした。あわせて、ブルックナーやマーラー全般についてのインタビューもして、一冊にまとめ…

あらえびす「楽聖物語」(青空文庫)  戦前日本にはバッハからストラビンスキーまでが一度におしよせ日本人はけんめいに咀嚼した

昭和16年(1941年)初出。あらえびすは、野村「銭形平次」胡堂がレコード評論をするときのペンネーム。SPレコードしかない時代に1920年代から西洋古典音楽のSPレコードを集め、人を呼んで聞きあい、筆で紹介の労をとった。戦前から西洋古典音楽を紹介するも…

五味康祐「オーディオ遍歴」(新潮文庫) オーディオ機器をいじることは自己修養を目的にした芸であり道である

LPを聞くには作法がある。真空管が温まるまで時間がかかるから聞く20分前にアンプの電源をいれておきましょう。レコードプレーヤーの水平確認と回転むらがないことをチェックしよう。針圧を調整し、針先のゴミを丁寧に取り除いておこう(このときノイズがス…

青柳いづみこ 「ピアニストが見たピアニスト」(中公文庫) ステージと録音媒体だけからでは見えてこないスターピアニストの困難や不安や恐怖

聴衆である自分は、ピアニストをステージか録音メディアでしか知らない。そうすると、ピアニストから見えてくるものはそのときどきの演奏とそこに込めたイメージ。では、ピアニストがどのような準備をし、どのような葛藤をへてステージや録音スタジオに来た…

カール・ベーム「回想のロンド」(白水ブックス) 形而上学やロマン主義に興味がない職人指揮者の「私は正確に思い起こすのだが・・・」

カール・ベームは1894年オーストリアのグラーツに生まれた指揮者。この国には、1963、1975、1977、1980年に来て、ベルリン・ドイツ・オペラやウィーン・フィルと演奏し、いくつも名演を残した。CDやDVDで確認できる。自分は完全出遅れで、1980年の演奏をTVで…

ジャック・ティボー「ヴァイオリンは語る」(新潮社) 大バイオリニストがエスプリで書いたファンタジックな自伝。

ジャック・ティボー(Jacques Thibaud, 1880年9月27日 - 1953年9月1日)はこの国の西洋音楽愛好家に愛された。クライスラー、フーベルマンが巨匠とすると、この人は洒脱なエスプリ。近代フランスの作品、それにカザルス、コルトーと組んだトリオによる三重奏…

河出文庫「世界の歴史」 INDEX

2016/03/16 今西錦司「世界の歴史01 人類の誕生」(河出文庫) 2016/03/25 岸本通夫/伴康哉/富村伝「世界の歴史02 古代オリエント」(河出文庫) 2012/04/20 貝塚茂樹「世界の歴史03 中国のあけぼの」(河出文庫) 2016/03/28 村田数之亮/衣笠茂「世界の歴史…

野町和嘉「長征」(講談社文庫) 1988年に日本のカメラマンが中国に行き、長征の跡をたどる。脱落した兵士のその後は多様だが一様に口が思い。

中華人民共和国の建国のあと、中国は厳しい入国制限をしていたので、その国の様子はよくわからなかった。60年代後半の文化大革命も中国のプロパガンダが先行し、実際の情報は断片的だったので、妙な期待を生むことにもなった。それも毛沢東の死のあとの、開…

アグネス・スメドレー「偉大なる道 下」(岩波文庫) 中国共産党軍の軍事指導者・朱徳の聞き書き。軍の民主主義が称揚されるが本書の記述は信用できない。

2018/04/10 アグネス・スメドレー「偉大なる道 上」(岩波文庫) 1953年 主人公は朱徳。奇縁で軍事学校に入学し、国民党軍に連なる軍閥の士官になったが、その活動に疑問をもって脱退。上海にでて孫文にあい、ドイツ留学中に周恩来などの社会主義者・共産党…

アグネス・スメドレー「偉大なる道 上」(岩波文庫) 1937年に長征をおえた紅軍(本書中表記を使用)の本部がある延安を訪れたアメリカ人ジャーナリストの中国共産党幹部たちのレポート。

著者の序文やまえがき、解説などを読んでも、スメドレーと朱徳の関係がよくわからない。1937年に長征をおえた紅軍(本書中表記を使用)の本部がある延安を訪れ、朱徳と出会う。朱徳の人柄に魅かれたスメドレーはロングインタビューを試みる。そのあと1943年…

エドガー・スノー「中国の赤い星 下」(ちくま学芸文庫) 毛沢東の「遊撃戦論」の精髄が書かれている。毛沢東の権力がどこから生まれたかは不問。

2018/04/06 エドガー・スノー「中国の赤い星 上」(ちくま学芸文庫) 1937年 それまで中国の軍隊は傭兵みたいなものであって、利益のために闘うのであり、傷つくのは避け、しかし戦闘状態は長引いた方がよい、隊内はアヘンなどで退廃、外には暴力と略奪その…

エドガー・スノー「中国の赤い星 上」(ちくま学芸文庫) アメリカ人ジャーナリストに毛沢東インタビューまとめ。レジスタンスの現場では民主主義が実現し、土地の再分配、税改革、教育が行われる。

アメリカ人ジャーナリストのエドガー・スノーが1936年に長征を終えたばかりの中国共産党とコンタクトを取り、廷安他の根拠地に入る。そこに行くまでには、日本軍占領地や国民党支配地などを越えなければならず、本人のみならずガイドやドライバーも危険に身…

ロバート・ペイン「毛沢東」(角川文庫) 大躍進政策、紅衛兵より前の毛沢東本。ダメなところもちゃんと書く。

もとは1949年刊行、のちの1961年に改訂されて翻訳の定本になった(文庫初出は1967年)。でも、毛沢東はこのあと長年月生きるのであって、1961年以降のことは当然触れていない。とはいえ、1970-80年代には毛沢東の評伝で入手しやすいものはまずなかった(あと…

狭間直樹「中国社会主義の黎明」(岩波新書) 日本に亡命した活動家と留学生が共産党設立前の中国の社会主義運動をけん引した。

中華人民共和国の成立に興味をもつと、毛沢東のいた中国共産党にフォーカスするのだが、この本ではそれ以前の社会主義者、共産主義者の動向を紹介する。おもしろいのは、日本が彼らの運動に重要な鍵であったということ。 すなわち、満州民族の支配する清とい…

市古宙二「世界の歴史20 中国の近代」(河出文庫) 世界システムに飲み込まれた古代帝国は植民地化から抜け出すのに2世紀以上かかった。

18世紀末から中華人民共和国の成立(1949年)まで。宋の時代に近代の一歩手前までいったのに、元や明の時代に政治や経済が古代から中世まで戻ってしまった。清になっても封建制はそのまま。それでも清は経済発展する。主な理由は耕作地の拡大。多少は農機具…