2021-01-01から1年間の記事一覧
カート・キャノン「酔いどれ探偵街を行く」の連載が評判よかったので、読者は続きをよみたがったが、原作はもうない。そこで、原作者の許可を得て、都筑道夫が贋作を書くことになった。雑誌連載中は「カート・キャノン」を使い、単行本にするときは「クォー…
二日酔いで目を覚ました「きみ」は見知らぬ部屋で目を覚ます。きみにしては高額なホテルに泊まったのかと思ったら、部屋に入ってきた女はきみの妻であり、これから会社に出勤するのだといいだす。きみはよんどころない事情で神戸を逃げてきて、顔を隠して生…
探偵小説翻訳家の淡路瑛一(29歳)は、7年の片思いの塚本有紀子が殺されるのではないかと心配している。風邪をひいている有紀子を見舞いにいったときに、風邪薬を一包持ち出して、嫌な男に飲ませたら、毒が入っていて死んでしまったからだ。警察の担当刑事は…
2021/08/23 都筑道夫「猫の舌に釘をうて」(講談社文庫)-1 1961年の続き この小説は、都筑道夫の「猫の舌に釘をうて」の束見本(カバーなどのデザインのために作った本文白紙の本)に淡路瑛一が手書きで手記をかいたものとされる。手記の最後では、束見本が…
深夜の高速道路で、チンピラ三人組(小さん、大トラ、ブタ)と年長の一人(粟野)が事故にあった女性を見つける(こいつらの乗っている車がポンコツ・フォルックスワーゲンで、映画「殺人狂時代」に継承される)。そこに通りかかった男(桑山)が、その女性…
タイトルのことばをしゃべったバーテンに桔梗信治がなんのことと尋ねると、「聞かれても教えられないっていう意味です」と返事した。気に入った桔梗信治は何度もつかい、すっとぼけた田舎者の青年のトレードマークになる。 全13回の連作短編。主に都内を舞台…
2021/08/16 都筑道夫「なめくじに聞いてみろ」(扶桑社文庫)-1 1962年の続き 雑誌連載なので、毎月一話。おそらく事件の起きた月を雑誌の掲載月にあわせている。クリスマスや正月が出てくるのはそれが理由と推測。 第七章 ブルー・クリスマス:浜松→新宿→道…
紙幣印刷用の特別な紙が盗まれた。その報道を聞いたとき、近藤庸三はビジネスの種をみつけた。すなわち、贋造紙幣を作るには印刷用の版を作らなければならない。それができる名人は数人といないだろう。ならば先に名人を押さえれば、偽札つくりの儲けをピン…
「紙の罠」事件のあと、女房に逃げられ手元不如意な近藤は落語家に弟子入りして欣遊亭京好を名乗る。のらくらしているとき、土方が「悪意銀行」なるビジネスをしていると知る。そこに顧客が来て、愛知県巴川市の市長を暗殺してほしいと依頼してきた。近藤は…
新型コロナ感染者が一日一万人になろうかという時期なので、自分が感染することを考えて、手配できるものは事前に準備しておこう。 1.自宅療養の場合 toyokeizai.net www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp www.city.osaka.lg.jp www.pref.saitama.lg.jp 新…
若い時に海兵隊員で硫黄島の戦闘に参加していたサミュエル・ライアン。ニンジュツに興味があって日本に修行にきていた(!)。父の友人という老人から、ニンジュツのマキモノが盗難にあったので、おまえ調べてみないか、どうせ暇だろうと手付金をもらう。イ…
2021/07/30 都筑道夫「三重露出」(光文社文庫)-1 1964年の続き サミュエル・ライマンのスパイアクションの物語を中断するかのように、滝口正雄(都筑道夫が使っていたペンネームのひとつ)の楽屋話が挿入される。滝口はS・B・クランストンが書いた「三重露…
「TULIP (「チューリップ」、The Undercover Line of International Police) はニューヨークに本部を置き、世界各地に支部を持つ腕利きの対謀略組織である。そこで働くエージェントは、スパイキャッチャーと呼ばれている。国際謀略叛乱グループ TIGER (「タ…
光文社文庫の都筑道夫コレクション「青春篇」に収録されている版で読んだ。併録は「猫の舌に釘をうて」。 初出がかいていないので、このサイトに載っている年月をいれた。単行本になったのは1974年。都筑道夫 短篇リスト(一段落版) www7b.biglobe.ne.jp 娼…
光文社文庫の「魔海風雲録」に収録された短編。 善亭武升なぞ解き控 以下の短編のまえに「湯もじ千両(1984)」があるが、収録された「悪夢録画機」を未入手なので内容はわからない。以下の三篇は本書が初書籍化らしい。柳剛流(実在する剣法なんだって!)…
杉田玄白プロジェクトによって、ヤコブセンの「サボテンの花ひらく」が翻訳されているので読む。ここには、シェーンベルクの「グレの歌」の歌詞が収録されているので前から気になっていた。 blaalig.a.la9.jp 訳者の解説によると、「サボテンの花ひらく」は1…
カテリーナは、クルスク育ちの貧乏人、器量よしだったのでムツェンスクのイズマイロフ家に嫁いだ。不幸なのはカテリーナは20代前半なのに相手は50代のジノーヴィ。そのうえボリス爺さんという好色な舅がいる。ムツェンスクは小都市とはいえ、大きな商家にひ…
今回は角川文庫の小沼文彦訳。昭和33年1958年初版なので、前回読んだ米川正夫訳よりも新しい。たとえば以下の言葉が注釈なしに使われる。「デート」「ランデブー」「ハート」「(好きな人の)タイプ」など。これらは当時の若者言葉。昭和30年代の日本の青春…
2021/07/12 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)ガイド 1946年 2021/07/09 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「序」 1948年2021/07/08 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第一章 癲狂院にて」 1948年2021/07/06 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文…
この小説は、敗戦直後の1946年に雑誌「近代文学」に連載された。第4章まで書かれて1948年に中断。それから約20年の時を経て、第5章が1975年に突然発表(このとき、「完本」のタイトルで第5章までの分厚く黒い本が出た。中学生だった俺は卒業直前に都会に出て…
2021/07/12 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)ガイド 1946年の続き 「序」で、「死霊」の方法と物語の構想が語られる。 序(1948.10) ・・・ 一つの形而上学でもある観念小説。方法は「極端化と暖昧化と神秘化」「als obの濫用、反覆の濫用、或る期間…
2021/07/09 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「序」 1948年の続き 第一章 癲狂院にて (第一日午前) とても暑かった夏の終わりの午前、永久運動で動く時計台をもっている「✖✖風癲病院」に、黙りがちで長身の三輪与志が、兄・高志の依頼で、高志の友人…
2021/07/08 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第一章 癲狂院にて」 1948年の続き 第二章 《死の理論》 (第一日午後) その日の午後は、三輪家の祖母の葬儀が予定されている。「風癲病院」を抜け出した首が向かったのは津田家。彼は出かける前の津田…
2021/07/06 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第二章 《死の理論》」-1 1948年の続き 三輪家と津田家は300年間の付き合いがある古い家。 最近になっての出来事で重要なのは、高志や与志の父である広志と津田康造が子供時代からの知り合いであること。…
2021/07/05 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第二章 《死の理論》」-2 1948年の続き 首猛夫は自分の作った喩え話において、墓地をへて平安な場所にいけるのは津田夫人のみであるという。自分のことに思い煩うことがなく、他人の魂のことばかり背負い…
2021/07/02 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第二章 《死の理論》」-3 1948年の続き 第三章 屋根裏部屋(第一日の夕方から日没) 語り手は、この時代を酷しき「紛糾と錯乱の支配する」鉄の時代であるとする。それ以前の金や青銅の時代から衰退・退廃…
2021/07/01 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第三章 屋根裏部屋」-1 1948年の続き 黒川建吉は図書館の屋根裏部屋に寄宿してからしばらくは講義に出ていたが、それをやめると誰にも会わない。一時期は社会運動の連中が会合場所にしていたが、それもな…
2021/06/29 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第三章 屋根裏部屋」-2 1948年の続き 第四章 霧のなかで(第一日 夜) 黒川と別れた与志は、橋を渡って先に行く。工場地帯が近くにあるその街は「魔窟」と比喩される。労働者を見込んだ歓楽街があるわけ…
埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第四章 霧のなかで」-2 他人に無関心で、自分の肉体にも興味をもたないと、未出現者や「存在の苦悩、生の悲哀」をもたらした最初の最初の存在の問いに答えられない。
2021/06/28 埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第四章 霧のなかで」-1 1948年の続き 与志が橋を渡って先にやってきたのは、尾木恒子にあうため。21-22歳くらいの彼女は一人暮らしの保母。夕刻にならないと帰宅しないと聞いていたので、遅い時間にや…
1909年生まれの埴谷雄高が書いた文章のうち、文学に関係するものを集める。 再読すると、自分は作家のいう「非同一な志向を担った読者」であるらしい。なので、サマリーは作れない。かわりに、いくつかの抜き書きと自分の感想をおいておくことにする。 序 『…