odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2021-01-01から1年間の記事一覧

埴谷雄高「文学論集」(講談社)-2 文学か政治かという問いがかけられるのは、文学に過剰な役割を期待しているのではないか、という感想。

2021/06/24 埴谷雄高「文学論集」(講談社)-1 1973年の続き 俺は大学で生物学を専攻し、そのあと業務・事務の仕事を続けていたので、論はなにごとかの応用や転用が可能であることを望ましく思っている。なので、ことばや文章は一つの意味をあらわしていて、…

埴谷雄高「文学論集」(講談社)-3 作家の存在論とそのイメージ化。エッセイでのっぺらぼうがでてきても多分になんのこっちゃなんだが、「死霊」というフィクションでは強烈なリアリティを持つ。

2021/06/22 埴谷雄高「文学論集」(講談社)-2 1973年の続き 第3部は作家の存在論とそのイメージ化。エッセイでのっぺらぼうがでてきても多分になんのこっちゃなんだが、「死霊」というフィクションでは強烈なリアリティを持つ。それもまた架空や夢で存在を…

埴谷雄高「政治論集」(講談社)-1 『唯一者とその所有』でアナキズムに、『国家と革命』で国家の消滅に望みを託した作家による反スターリニズムと反官僚制の文章。

埴谷の青年期の経歴は「青年期に思想家マックス・シュティルナーの主著『唯一者とその所有』の影響を受け、個人主義的アナキズムに強いシンパシーを抱きつつ、ウラジーミル・レーニンの著作『国家と革命』に述べられた国家の消滅に一縷の望みを託し、マルク…

埴谷雄高「政治論集」(講談社)-2 埴谷やレーニンの思想にはこの〈私〉と国家(という観念)だけがあって、その間の組織や集団や大衆、あるいは隣人、外国人などが入ってこない。

2021/06/18 埴谷雄高「政治論集」(講談社)-1 1973年の続き 発行された1973年では共産主義や革命運動の党の問題は重要で深刻だったが、50年もたつと歴史的文書になってしまう。早い時期からスターリニズム批判をしていたということで、この論集は珍重された…

埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第五章 夢魔の世界」-1 第一日の真夜中から第二日の明け方。「死者の電話箱」で《存在からの最後の挨拶》を聞く。

2021/06/25 埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第四章 霧のなかで」-2 1948年 第五章が発表されたのは、第四章が書かれてから28年後の1975年。なんという長い中断。その間、あきらめなかった作者の意志。 「第五章 夢魔の世界」(第一日の真夜中から…

埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第五章 夢魔の世界」-2 革命や党を人権よりも優先する思考や行動規範が起こしたスパイ査問事件。

2021/06/15 埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第五章 夢魔の世界」-1「死者の電話箱」 1975年の続き 目を開けた高志に与志はロケットを見せる。「あのひとはなぜ死んだか」の問いに高志は「俺が子供の存在を容認しなかったから」「自由意思でできる…

埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第五章 夢魔の世界」-3 窮極の秘密を打ち明ける夢魔

2021/06/14 埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第五章 夢魔の世界」-2 スパイ査問事件 1975年の続き 「あの人(尾木恒子の姉)」の死んだいきさつを聞く与志に、高志は「窮極の秘密を打ち明ける夢魔」の話をする。巧妙に回避したようだが、高志の作…

埴谷雄高「意識・革命・宇宙」(河出書房) 作家本人による「死霊」解説。でも構想はこの後大きく変わった。

1975年に「死霊」第5章が発表されたことを記念して、「文藝」誌上で行われた対談を収録したもの。その年に25年ぶりに続きが発表されたのだった。主題は革命運動の秘密結社が行ったリンチ殺人。当時は内ゲバによる殺人が頻繁にあって、この主題はとても重かっ…

埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第六章 《愁いの王》」-1 第二日の午前。一人で始まった舞台に、次第に人が集まり、狭いボートや印刷工場が満員になったところで幕になる喜劇の構成。

2021/06/11 埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第五章 夢魔の世界」-3 窮極の秘密を打ち明ける夢魔 1975年の続き 「第六章 《愁いの王》」(第二日の午前) 前日の夕方から立ち込めた霧は晴れて、日差しが出てきた。物語の中にいる人たちは、それぞ…

埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第六章 《愁いの王》」-2 「平らは丸い/丸いは平ら」という相対立する観念が同義になるという逆説。でもこれは難しくない。

2021/06/08 埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第六章 《愁いの王》」-1 1981年の続き 矢場は首猛夫に「何をたくらんでいる」と尋ねる。首は「全剿滅(そうめつ)」と答える。すでに津田に「宣戦布告」といっている以上、そのたくらみが暗い情念に基…

大岡昇平/埴谷雄高「二つの同時代史」(岩波書店) 1909年生まれの二人が70代前半に対談する。拘留・収容所経験を共通する二人は戦後文学をを作ってきたという自負があった。

1909年生まれの二人が1982-83年に雑誌「世界」で連載した座談を収録。作風から発表場所からずっと異なるところにいたので、接点はないものと自分は思い込んでいた。でも、同じ年に生まれたことと、戦前の東京で青春を過ごしていたことあたりが共通点になって…

埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第七章 《最後の審判》-1 第2日午後。黙狂が「この世界の何ものに向っても決していってはならぬことを」聞かれぬように語る。

2021/06/07 埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第六章 《愁いの王》」-2 1981年の続き 第七章 《最後の審判》(第2日午後) ずぶぬれになった一行(第六章)は、小橋のうえで身づくろい。津田夫人はだまってばかりの与志を詰問(「一人勝手でひとり…

埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第七章 《最後の審判》-2 「亡霊宇宙」で食われたものが食ったものを弾劾し、それを笑う最初の最初の存在が現れ、エスカレーションが続く。

2021/06/03 埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第七章 《最後の審判》-1 1984年の続き 食われたものが食ったものを弾劾する。それは自己確認の前の弾劾。でも、食われたものもそのまえに誰かを食っているので、弾劾の対象になる。弾劾は相殺されて、…

埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第七章 《最後の審判》-3 存在の苦悩、生の悲哀」の弾劾はついに時空や宇宙を超越するものを召喚するまでにいたる。

2021/06/01 埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第七章 《最後の審判》-2 1984年の続き 「より重苦しく鈍くより厳しい響きが何処からともまったく解らずゆっくりと『違うぞ』」と響いてくる。「この影の影の影の国の果てにあるその長さも見届け得ぬほ…

埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第八章 《月光のなかで》-1 第2日夜。存在は数字1であるが、虚在ないし虚体は無限大であって、自らは満たされていないので、創造的な変幻をおこなう。

2021/05/31 埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第七章 《最後の審判》-3 1984年の続き 第八章 《月光のなかで》(第2日夜) 第6章の終わりで集まったもののうち、そのあとの行動は首だけが第七章で語られた。第八章ではほかの人たちが語られる。すな…

埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第八章 《月光のなかで》-2 「或る霊性をもってこちらを眺めている「ひと」の顔」に全体の緊張から一気に解放されるカタルシスを覚えるが、男には顔は見えない。

2021/05/28 埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第八章 《月光のなかで》-1 1986年の続き そこまでの話をしたところで、外に出た安寿子は首と与志が歩いているのを見かけ、さらに父・津田康造もいるのを知る。 長身の黒川の影をみて「高志さん?」と…

埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第九章《虚體》論―大宇宙の夢-1 第3日朝、安寿子18歳の誕生日。なぜ男と女があるのか。

2021/05/27 埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第八章 《月光のなかで》-2 1986年の続き 第九章《虚體》論―大宇宙の夢(第3日朝) 当日は安寿子18歳の誕生日(成年を認められる日)。津田家に安寿子が呼んだ列席者が集まり、舞踏会も行ったホールの…

埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第九章《虚體》論―大宇宙の夢-2 この「私」を笑う未出現者と「全宇宙はじめての創出」。

2021/05/25 埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第九章《虚體》論―大宇宙の夢-1 1995年の続き 黒服のいうこの「私」を笑う未出現者は、たとえば受精しなかった精子。受精の競争で数億の精子からひとつだけが選ばれて、ほかの精子はなににもならない(…

埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第九章《虚體》論―大宇宙の夢-3 日本語の限界が探求の限界。「死霊」全巻を読んでも、存在の無根拠さと孤独を克服できない。

2021/05/24 埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第九章《虚體》論―大宇宙の夢-2 1995年の続き とはいえ、五日間の物語は三日目にようやく至ったにすぎない。登場人物たちのアクションで行く末の分からないままになったことはたくさんある。首猛夫は津…

川西正明「謎解き「死霊」論」(河出書房新社)-1 埴谷雄高の担当編集者でのちに文芸評論家になったものによる「死霊」論。

2か月かけて埴谷雄高の書いたもの(「文学論集」「政治論集」「死霊」)を読んできた。総仕上げは、埴谷雄高の担当編集者でのちに文芸評論家になったものによる「死霊」論。60年代後半に埴谷雄高の本を作ることから始まり、埴谷雄高の仕事の協力者として信頼…

川西正明「謎解き『死霊』論」(河出書房新社)-2 死んだ黒川の屋根裏部屋を訪れた高志の前に夢魔や一角犀・節子、社会運動組織の同士、高志の部屋に出ていた名を知らない亡霊が現れる、はずだった。

2021/05/20 川西正明「謎解き「死霊」論」(河出書房新社)-1 2007年の続き この長大な小説をおもに「存在」「虚体」をめぐる議論を批判しながら読んだ。なので「謎解き『死霊』論」を読んで、登場人物たちの関係や行動で読み漏らしたところがあったことに気…

野間宏「暗い絵・崩壊感覚」(新潮文庫) 普遍的な青春のテーマの小説だが、戦争体験と新しい文体が小説の革命になった。

今回読んだのは新潮日本文学の39巻「野間宏集」。新潮文庫で読んだことはあるが、手放したので同じ作品が収録されているかは不明。 暗い絵 1946 ・・・ 近衛が「東亜新秩序の建設」声明を出したというから1938年ころか。その5年前の滝川事件で京都大学の左翼…

佐倉統「進化論という考えかた」(講談社現代新書) 進化論のエッセンス(突然変異、適応、自己複製)で文化現象まで進化論で説明可能かも。でも「多分野への関心と自然への謙虚」だけでは不足だと思う。

自分の進化論の知識は1980年までで途絶えている(そのあとに紹介されたビッグネーム、たとえばドーキンス、グールド、ウィルソンなどを読んでいない)ので、手ごろな新書で補完することにする。著者・佐倉統はたとえば別冊宝島「進化論で愉しむ本」で名前は…

マーク・トウェイン「トウェイン短編集」(新潮文庫) 貨幣の秘密に肉薄する好短編が二つ収録

初出が解説に書いていないが(いつ書かれたかの情報は必須!)、最後の中編を除いて1860年代、作家初期のものらしい。 私の懐中時計 ・・・ 正確無比な懐中時計が時を正しく刻まなくなったので、修理してもらう。そのたびに、ますます正しい時刻(とは何か)…

マーク・トウェイン「不思議な少年」(岩波文庫) 宇宙的な死を持ち出して人間の無価値を説く「サタン」はネットによくいる冷笑主義者にそっくり

トウェイン最晩年の作(出版は死後の1916年)。 1590年のオーストリアの片田舎。教会が町の中心で、町長もいるが神父の権威が強いころ。3人の子供が遊んでいるところに、「サタン」を名乗る美少年が現れる。古今東西の面白い話をして子供らを魅了したが、不…

マーク・トウェイン「人間とは何か」(岩波文庫) ゆたかな人々・満足した人々@ガルブレイスが語る冷笑とニヒリズム

1890年代に書かれ、私家版として1904年に出版。正式出版は没後の1917年。 老人が青年に語る。いわく、おまえの信じている人間の権威、尊厳、崇高さなどはないのだよ。なんとなれば人間は外的諸力に強制的に動かされている機械なのであるから(この「機械」は…

オー・ヘンリー「傑作集」(角川文庫)-1「賢者の贈りもの」「献立表の春」「二十年後」 作家がもっとも旺盛に書いていたのは日露戦争の前後のころ。ときどき背景に現れる。

O.ヘンリは昭和の時代にはよく読まれていた。高校時代に新潮文庫の3冊本を読んだが、今回は角川文庫が1969年に改版したものを読む(翻訳は1950年代だろう)。 作者名はペンネーム。30代にこういう短い話で大人気になり(当時、週刊誌が流行していて、平易…

オー・ヘンリー「傑作集」(角川文庫)-2「最後の一葉」「パンのあだしごと」「赤い酋長の身代金」 人間の見方がシニカルで敬意を払うことがない。

2021/05/07 オー・ヘンリー「傑作集」(角川文庫)-1 の続き オー・ヘンリーは数年の間に380編のショートショート(という言葉はまだなかった)を書いた。おおざっぱに、ニューヨークもの、中部もの、南部もの、中米ものに分けられるという。そのうち出来が…

ジョルジュ・シムノン「13の秘密」(創元推理文庫)-1 シムノンデビュー時の謎解き短編。全体に漂うアンニュイ(倦怠)や重苦しさはメグレに引き継がれた。

探偵趣味のジョゼフ・ルボルニュが新聞記事を見て、13の謎を解く(というより、君には解けるかい、僕には簡単だったよ、と高慢なところを見せるのが目的か)。 リンク先が詳しい。 d.hatena.ne.jp 1. L'affaire Lefrançois ルフランソワ事件 «Détective» 192…

ジョルジュ・シムノン「13の秘密」(創元推理文庫)-2「第1号水門」 運河を利用する水上輸送の拠点で起きた事件。メグレ警部ものとしては最初期。

「第1号水門」は1932年作で、メグレ警部ものとしては最初期。「男の首」よりあと。 次の水曜には警察を退職することになっているメグレ。妻はすでに郊外の家に引っ越していて、メグレは行き場がなさそう。 ある夜、第一号水門で事故が起きる。酒に酔った爺さ…