odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2021-02-01から1ヶ月間の記事一覧

大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-3 関東大震災の復興事業と金解禁、世界不況。先進国がブロック経済圏を作ったので、日本とドイツの侵略行動はブロック経済圏を破壊する行為だった

2021/03/02 大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-1 2021/03/01 大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-2 の続き 経済で重要なのは、関東大震災の復興事業と金解禁、世界不況。前二つは、別に読んだ本のエントリーに詳述した…

エーリヒ・マティアス「なぜヒトラーを阻止できなかったか」(岩波現代選書) その答えを左翼のせいにすると、有権者や政治制度の問題が棚上げされるし、左翼でない者たちは責任がないことになる

WW2敗戦後、まず哲学者が表題の反省をした。ヤスパースやマイネッケ(「ドイツの悲劇」中公文庫)、マックス・ピカート(「沈黙の世界」みすず書房)を読んだ記憶がある。ドイツ精神を問題にした抽象的な議論のあとに、社会学や政治学から反省の書が出た。こ…

ドロレス・イバルリ「奴らを通すな―スペイン市民戦争の背景」(同時代社) 彼女の演説から『ノー・パサラン』は抵抗運動の鬨の声になった。「ラ・パッショナリア」、情熱と受難を併せ持つ女性。

2015年の夏、国会議事堂前の安保法制反対街宣で「ノー・パサラン」のコールが起きた。「ノー・パサラン」は「奴らを通すな!」(¡No pasarán!)という意味で、ファシズムに抗する人たちの世界共通のスローガン。20世紀の初めから多くの人が発してきたが、有名…

林茂「日本の歴史25 太平洋戦争」(中公文庫)-1 226事件終了後から敗戦まで。1936年から1945年までの10年間。日本型経営システムが破綻していく。

226事件終了後から敗戦まで。1936年から1945年までの10年間。 東アジアに日本主導のブロック経済圏をつくり、先進国の仲間入りをすること。これくらいが日本の国家目標であって、ブロック経済圏構想はおもに陸軍によって実施運営されることになった。軍事に…

林茂「日本の歴史25 太平洋戦争」(中公文庫)-2 戦局が悪化し、物資が乏しくなり、長時間の労働を強要されるようになると、人々の参加意欲は失われるが、日本人は抵抗しない。

2021/02/22 林茂「日本の歴史25 太平洋戦争」(中公文庫)-1 の続き 治安維持法、国家総動員法によって日本を運営する<システム>@カレル・ヴァン・ウォルフレンの外にいる人たちは、政治決定に参加することができなくなった。選挙があっても、政党が解党し…

太平洋戦争研究会「日中戦争がよくわかる本」(PHP文庫) 現地軍の行動や将官・佐官などの言動にきをとらわれすぎて、彼らの代弁者になってしまい、できごとを正確に記述したためにかえって全体像が見えなくなった

ここでいう日中戦争は1937年の日華事変から1945年の敗戦まで。 とはいえ、日本軍が中国大陸に軍隊を常駐するようになったのは1900年の義和団事件のとき。以来30年以上にわたって、常駐した軍隊が中国軍と交戦したり、市民に暴虐をふるうことがあったので、19…

秦郁彦「南京事件」(中公新書) 東京裁判では1937年南京アトローシティの膨大な証言が採用され朗読されている。

自分が読んだのは1986年初版のもの。2007年に増補版がでて、「南京事件論争史」の章が追加された。 「南京事件」は史上三度あるが、ここでは1937年末から翌年初めにかけてのものを扱う。「南京大虐殺」「南京アトローシティ」などの呼称もあるが、ここでは「…

笠原十九司「南京事件」(岩波新書) 当時首都だった南京が陥落すれば戦争が終了すると思い込んだ国民の熱狂が軍規が緩んだ軍隊を虐殺に導く。

南京事件の経緯は秦郁彦「南京事件」(中公新書)の感想に書いたので、それ以外のところを補足する。秦の本だと、アトロシティに注目が集まって、なぜ南京を攻略するのかが見えてこない。 単純化すると、前年の226事件で陸軍内部の抗争が終結。日独防共協定…

笠原十九司「増補 南京事件論争史」(平凡社ライブラリ) 東京裁判時からあった「虐殺否定論」への反論。

1937年12月の南京事件(南京大虐殺、南京アトロシティ)は、事件当初から軍の知るところになっていたし、大本営にも伝えられ中止のために参謀などが派遣されたが止められず、現地発の情報は西洋に伝えられていた。現地軍はこのときの資料や記録を敗戦直後に…

吉田裕「日本軍兵士」(中公新書) 15年戦争で死んだ兵士230万人の大半は餓死者。使い捨てにされた兵士の内情を兵士の言葉で探る。

大岡昇平「俘虜記」(新潮文庫)や「野火」、野間宏「真空地帯」(新潮文庫)を読むと、日本軍は腐敗が激しい、隊内暴力が蔓延している、兵隊を粗末に扱うなど、日本軍のだめなところがたくさん目に付く。これまではおそらく軍全体の問題ではあるのだろうが…

常石敬一「七三一部隊」(講談社現代新書) 満州にあった生体実験と捕虜殺害を行う組織。軍隊と医学者による戦争犯罪。

2010年代にめだつ歴史捏造のひとつのねたが「731部隊は防疫給水専門だった(だから人体実験はしていないし、捕虜の虐待もしていない)」というものがある。南京事件や従軍「慰安婦(性奴隷)」否定ほどの勢力はないものの、SNSではしつこく書き込みが行われ…

栗原俊雄「特攻 戦争と日本人」(中公新書) 「英霊」を過剰に顕彰する連中は、「英霊」を生み出した原因を検証したり、これから二度と「英霊」となる犠牲者を出さないようにするかを真剣に考えていない。

栗原俊雄「戦艦大和」(岩波新書)では、戦艦による水上特攻をテーマにしたが、こちらは15年戦争(1931-1945)の生還を期さない戦闘を取り上げる。 さまざまな事情で生還を期さない戦いを選択することは、戦場においてみられる。飛行機や戦車や船舶の運行に…

栗原俊雄「戦艦大和」(岩波新書) 海軍のメンツのために3056人が殺され、生還した276人と遺族は偏見にさらされ沈黙させられた。

戦艦大和のことは昭和40年代半ばに読んだ少年向け戦争ノンフィクションで知った。悲惨な結末に戦慄したが、その後あまりに痛ましくてきちんと調べ直したことがない。「太平洋戦争」の通史を読むと必ず言及されるし、沈没した船体を引き揚げるプロジェクト…

大岡昇平「野火」(角川文庫)

何度も「野火」を読んでいるけど、どうにももどかしいというか、はぐらかされているというか、こちらがテーマをつかみきれていないというか、上手く読めない。とりわけ後半の「人肉食い」を巡る禁忌と乗り越えの議論がわからない。 補充兵として召集された「…

村瀬興雄「世界の歴史15 ファシズムと第二次大戦」(中公文庫)-1 ブロック経済圏は、ヨーロッパ、東欧、東アジアの諸国に統制経済と相性の良い極右政党を台頭させる。

1929年から1945年。1920年代の緊張緩和は1929年アメリカ発の成果不況によって破られる。これによると、アメリカ経済は数年前から不調になっていたが、株価だけが高騰。株価の下落によってアメリカの経済が沈滞。アメリカの企業はヨーロッパ、南アメリカ、東…

村瀬興雄「世界の歴史15 ファシズムと第二次大戦」(中公文庫)-2 WW2の最中にアメリカは世界システム覇権国になり、東南アジア諸国は日本からの独立をめざす。

2021/02/02 村瀬興雄「世界の歴史15 ファシズムと第二次大戦」(中公文庫)-1 の続き。 日本は1930年代から一種の鎖国をするようになり、権力の情報統制があったので、諸外国の実情はわからないようになっていた。敗戦とスターリンの死によって、ふたつの巨…