odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

堀田善衛「路上の人」(新潮文庫)-1

 時代は13世紀。1243年のモンサヴァール城包囲戦を焦点にする。しかし、この戦い―異端審問から発する異教徒の殺戮戦―は主題ではなく、深い森からおずおずと現われ、村と村がつながりだした、西洋の中世のあり様を全的に描くことにある。作家はすでに西洋中世に関する発言を繰り返していて、その集大成が本書にあるといえる。作家の知見をそのまま要約するのは難儀なことであり、過去に読んだ本の感想で中世を捕えようとした試みがあるので、以下のエントリーを参考に。
2016/03/29 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-1
2016/03/30 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-2
2016/03/31 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-3
2016/04/01 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-4
2016/04/04 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-1
2016/04/05 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-2
2016/04/06 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 上」(東京創元社)-3
2016/04/07 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 下」(東京創元社)-1
2016/04/08 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 下」(東京創元社)-2
2016/04/09 ウンベルト・エーコ「薔薇の名前 下」(東京創元社)-3

 


 ルネサンスとほぼ時を同じくして、西洋カソリックでは宗教改革が行われたのだが、その300年前にも宗教改革が行われたのだった。すなわち、当時のヨーロッパでは教権の力が強く、収税から治安に保安まで教会の手によって行われていた。その威光に加え豊富な財力によって、ポーランドやスイスの貧しい地域の傭兵を雇って、教会にたてつくものや異端とみなしたものを審問(実質的には拷問のうえ、財産没収と死刑)を行っていた。問題なのは、教会に富みが積みあがるにしても、庶民の暮らしは一向に楽にならず、むしろ地方の王権や豪族らの収税に徴兵で格差が増していたのである。教会は読み書きを独占して、一般人に教えなかったので知的水準も一向に上がらず、少数の知的指向者(インテリ)の不満を募らせるのであった。そのようなおかしな世界は、キリストの望んだものであるのかという問いが聖職者から起こる。当時、イベリア半島のスペイン部分はイスラムが占領しており、そこではキリスト教ユダヤ教が共生していた。
 しかるに、この200年前のミレニアムを直前にした999年。ローマ教会はイエス・キリストが再来したという噂に対応していた。イエスが聖書の語録と同じ言葉を発して路上に現れた時、教会は受け入れるべきか。語録の言葉が発せられたとき、教会の権威は失墜し、欺瞞に激昂する人々は教会を弾劾するであろう。どうやら、殺せという結論になったといわれる(なるほど「大審問官」はドスト氏の想像にのみでできたわけではないらしい)。
 そうすると、キリストは人か神か幻影かという問いは神学のみならず、教会組織そのものを揺らがせる危険な問いになる。すなわちキリストが人であるとすると、ローマ教会のやっていることと教えていることは根拠を失うからだ。なので、キリストは笑ったか、キリストは着衣を所有していたかが重大なときになる。然り、とするとき、キリストは人間になるのだ。その答えの根拠をアリストテレスに求めることはようやくその名が知られてきた神学者にとっては重要な関心事なのであった。とりわけ「喜劇論」には笑いに関する議論の権威になるであろう。ひとりの進学者がトレドの修道院を訪ね、門外不出の書を探したのは、「喜劇論」を見つけるためであった(本書では、「喜劇論」はパピルスに書かれたので、砂漠で散逸したのだとされる。とても現実的な回答)。
 似たような問と問題意識で、新たな伝道活動をしたフランチェスコ会創始者の死後、ローマ教会に取り込まれる。しかし、北イタリアから南フランス、スペイン北部(現在の地名)では、初期キリスト教を伝承していると称する「清浄なるもの(カタリ)会派」がたくさんの信徒を持っていた。キリストの復活を信奉しないうえ、死こそが望むべき到来であるとする彼らはローマ教会の意向・威光を無視する。庶民、農民のみならず貴族までを信徒にもち、財宝を貯え、異端審問を恐れない。ローマの脅威であった。そこで13世紀初頭にはアルビジョア十字軍が送られ、信徒の殺戮が行われた。

ja.wikipedia.org

 

2022/08/25 堀田善衛「路上の人」(新潮文庫)-2 1985年に続く

 

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