odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2016-05-01から1ヶ月間の記事一覧

リリアン・ヘルマン「ジュリア」(ハヤカワ文庫) かつて出あった人々のスケッチ。でも、主人公は彼女自身になる。

リリアン・ヘルマン(1905-1984)の回想は「未完の女」でアウトラインが描かれている。こちらの「ジュリア」は8つのパートに分かれて、「未完の女」で触れられなかったエピソードがつづられる。「未完の女」には、ヘルマンが「ハメットの伝記を書きたい」と…

レイモンド・チャンドラー INDEX

2016/05/28 レイモンド・チャンドラー「傑作集 2」(創元推理文庫) 2016/05/27 レイモンド・チャンドラー「大いなる眠り」(創元推理文庫) 1939 年 2016/05/26 レイモンド・チャンドラー「さらば愛しき女よ」(ハヤカワ文庫) 1940年 2016/05/25 レイモン…

レイモンド・チャンドラー「傑作集 2」(創元推理文庫) 「簡単な殺人法」でチャンドラーはリアリズムのない探偵小説に苦言を呈する。でもチャンドラーのリアリズムは1970年代から通用しなくなる。

チャンドラーの短編集を数年かけて3冊読んだので、まとめて感想を書いておこう。この作家とは相性がよくないので、作品ごとのサマリーは省略。長編はストーリーが緩いのだが、中短編はすっきりしたストーリーでわかりやすい。 傑作集1 脅迫者は射たない 赤…

レイモンド・チャンドラー「大いなる眠り」(創元推理文庫) スターンウッド将軍54歳をもっと書けば家族の問題が浮き彫りになったのになあ...

すでに3回読み、そのうえホークス監督ボガード主演の「3つ数えろ」1944年、ミッチャム主演の「大いなる眠り」1978年を見てきたのだが、いまだにストーリーがわからない。チャンドラーの短編を見ると冒頭がそっくりのものがあるので、たぶん複数の短編を合体…

レイモンド・チャンドラー「さらば愛しき女よ」(ハヤカワ文庫) 黒人専用のバーで暴力をふるう大鹿マロイには同情も共感も持てない。

ギリシャ人の行方を捜していたマーロウは町で巨大な男と出会う。昔、バーで歌っていたヴェルマを探しているという大鹿(ムース)マロイは、マーロウを引き連れて黒人のバーに行き大暴れの末、行方をくらましてしまう。マロイが気になるので、代わりにヴェル…

レイモンド・チャンドラー「湖中の女」(ハヤカワ文庫)

フィリップ・マーロウは化粧品会社社長キングズリーの依頼で一か月前に疾走した妻クリスタルの行くを探していた。ここでも中年の男が若い奔放な妻を満足させることができないと言うのが、最初の問題。妻は山間にある別荘に住んでいて、情夫を囲っていたり、…

レイモンド・チャンドラー「かわいい女」(創元推理文庫)

兄の行方を捜してほしいと、かわいい娘が依頼してきた。電話で断った(この会話が絶妙のうまさ)あと、娘は事務所にきて、20ドル札をおいていく。まずは娘の兄オリンの住むアパートに行くと、麻薬中毒らしい管理人に邪見にされ、隣室の男に話を聞くとオリン…

レイモンド・チャンドラー「長いお別れ」(ハヤカワ文庫) 正義や悪の問題にふれないマーロウは快不快で行動するので、感情移入や共感もできない。

21世紀になって別の訳者による翻訳がでたが、自分には懐かしさもあるので、清水俊二訳を読む。こちらは全訳ではなく、一部省略された抄訳だとのこと。 マーロウはバーで酔っ払いのテリー・レノックスと出会う。見捨てておけなくて世話をしてやったら、奥さん…

武田泰淳 INDEX

2012/04/21 武田泰淳「司馬遷」(講談社文庫) 2016/05/21 武田泰淳「「愛」のかたち・才子佳人」(新潮文庫) 1946年 2016/05/20 武田泰淳「ひかりごけ・海肌の匂い」(新潮文庫) 1950年 2016/05/19 武田泰淳「風媒花」(新潮文庫) 1952年 2016/05/18 武…

武田泰淳「「愛」のかたち・才子佳人」(新潮文庫)

この人の著作は、高校から大学にかけて数冊まとめて読んでいて、同じ戦後派にくくられる他の作家たちとはかなり異なるところで小説をものしているのに、驚かされ魅了されていた。もともと中国文学の専門家で、文壇に登場したのが、戦争下での「司馬遷」であ…

武田泰淳「ひかりごけ・海肌の匂い」(新潮文庫)

武田泰淳の短編のレビュー。ここでは、新潮日本文学42巻、講談社「われらの文学」、新潮社日本文学全集44巻の武田泰淳集を使った。並びは発表順で、ここでは1950年代前半の作品を取り上げる。 タイトルの文庫の収録作品とは一致しません。悪しからず。 異形…

武田泰淳「風媒花」(新潮文庫)

なんとも風変わりな「小説」。なにしろ途中で作者自身が「あまりに忠実に記録されたがために、かえって無数の人物の無責任な羅列のごとき観を呈する」というくらいなのだ。あまりにたくさんの登場人物、あまりにたくさんの事件。およそ要約不可能なうえに、…

武田泰淳「士魂商才」(岩波現代文庫)

武田泰淳の短編のレビュー。ここでは、新潮日本文学42巻、講談社「われらの文学」、新潮社日本文学全集44巻の武田泰淳集を使った。並びは発表順で、ここでは1950年代後半の作品を取り上げる。1960年代以降の作品はこれらに収録されていないので、割愛。 タイ…

武田泰淳「森と湖のまつり」(新潮文庫)-1

北海道に生まれた伊福部昭(1914-2006)は幼少時代(1920年代か)に、家の近くにあるアイヌの集落にいって、彼らの音楽を聞き、踊りを見る機会があった。それから35年後の1954年(作中に洞爺丸台風の記述があるので、この年とわかる)には極めて難しい。クラ…

武田泰淳「森と湖のまつり」(新潮文庫)-2

2016/05/17 武田泰淳「森と湖のまつり」(新潮文庫)-1 1958年 の続き。 小説の語り手は佐伯雪子という27歳の画家。アイヌの画を書きたいので、池博士にくっついて、道内のアイヌの人々と会う。画を依頼した商工会議所のえらいさんに酷評され、完成した絵は…

武田泰淳「森と湖のまつり」(新潮文庫)-3

2016/05/17 武田泰淳「森と湖のまつり」(新潮文庫)-1 1958年 2016/05/16 武田泰淳「森と湖のまつり」(新潮文庫)-2 1958年 の続き。 ・形而上的には「神の愛」について。アイヌの汎神論的な自然の神と、ミツが信仰するキリスト教の神。それらの神を捨てた…

武田泰淳「貴族の階段」(新潮文庫)

背景は226事件。何人かの作家は226事件に遭遇していて、埴谷雄高は予防検束で数ヶ月の獄中にいたときだったし、堀田善衛は慶応大学受験であったとか(その前日の夜にたぶん新交響楽団の演奏会を日比谷公会堂で聞いている)。まだ他にもいるはず。 どうもこの…

武田泰淳「十三妹」(中公文庫) 試験の成績がよいノビ太が、ドラえもんならぬ十三妹の秘密の援助で成功していくというおとぎ話。

武田泰淳が、中国武侠小説のパスティーシュを書いていたというのは、これも新鮮な驚き。いや、そんなことは珍しいことではないのかもしれない。福永武彦が王朝を舞台にした陰陽師の話を書いているし(「風のかたみ」新潮文庫)、坂口安吾や大岡昇平がミステ…

武田泰淳「富士」(中公文庫)-1

富士山麓に桃園病院という精神病院がある(小説内の呼称をそのまま使います)。広大な敷地に多くの患者が集められている。太平洋戦争勃発の翌日から、収容キャパを超える患者が全国から送られてきた。「戦時体制」とかいう名目で、それまで家族介護であった…

武田泰淳「富士」(中公文庫)-2

2016/05/10 武田泰淳「富士」(中公文庫)-1 1971年 の続き。 エピローグとプロローグに挟まれた全18章の大作。エピローグとプロローグは「私」が書いている現在(48歳)のこと。章の中は太平洋戦争開戦から敗戦直前ごろまでのこと(「私」は途中で23歳とさ…

武田泰淳「富士」(中公文庫)-3

2016/05/10 武田泰淳「富士」(中公文庫)-1 1971年 2016/05/09 武田泰淳「富士」(中公文庫)-2 1971年 の続き。 たぶん主題は、人は誰かの役に立てるか(それが挫折したときにどうするか)なのだろう。桃園病院のステークホルダー(医療者、介護者、患者、…