odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

ドストエフスキー2

フョードル・ドストエフスキー「悪霊 下」(新潮文庫)第3部7.8 ステパン氏とスタヴローギンの終わり、そして誰もいなくなった

2024/10/25 フョードル・ドストエフスキー「悪霊 下」(新潮文庫)第3部6 取り憑かれた人々の「労多き一夜」。凡庸な人間が愚劣なまま敵を殲滅する「最終計画」を行う。 1871年の続き ここまでにレビャートキン兄と妹と小間使い、フェージカ、シャートフ、キ…

フョードル・ドストエフスキー「悪霊 下」(新潮文庫)感想-1 「悪霊」のひとたちは、ラスコーリニコフの後継者か彼に使嗾された人たち

2024/10/24 フョードル・ドストエフスキー「悪霊 下」(新潮文庫)第3部7.8 ステパン氏とスタヴローギンの終わり、そして誰もいなくなった 1871年の続き という具合に、どうも熱の入らない読書になってしまった。十数年前の初読ではしばらく口を開く気になれ…

フョードル・ドストエフスキー「悪霊 下」(新潮文庫)感想-2 雑感:神懸かり、好色な男の地獄行き、分身

2024/10/22 フョードル・ドストエフスキー「悪霊 下」(新潮文庫)感想-1 「悪霊」のひとたちは、ラスコーリニコフの後継者か彼に使嗾された人たち 1871年の続き 補足。ドスト氏の小説に共通するテーマとのかかわりについて。 神とのかかわりについて。キリ…

イワン・ツルゲーネフ「父と子」(新潮文庫)-2 主張がなく政治参加もしない若者のニヒリズム

ドスト氏の「悪霊」1871年はツルゲーネフの「父と子」1862年によく似ているなあ、と思いついた。そこで、同じ新潮文庫だが工藤精一郎訳で再読した。前回の感想はリンク先。 odd-hatch.hatenablog.jp まずドスト氏の言い分を聞いてみよう。「悪霊」第2部第1章…

フョードル・ドストエフスキー「悪霊 下」(新潮文庫)感想-3 ツルゲーネフのニヒリストと「悪霊」のニヒリスト

2024/10/21 フョードル・ドストエフスキー「悪霊 下」(新潮文庫)感想-2 雑感:神懸かり、好色な男の地獄行き、分身 1871年の続き 第1部を読んだところで「悪霊」はツルゲーネフの「父と子」1862年を意識しているのではないかと思い付き、第2部第1章でその…

亀山郁夫「ドストエフスキー「悪霊」の衝撃」(光文社新書) 共産党支配からマフィア資本主義に転換したロシアでは、予言の書として衝撃となった。日本では?

日本では「悪霊」の翻訳は5種類あり(入手しやすいのは新潮文庫の江川卓訳と光文社古典新訳文庫の亀山郁夫訳とKINDLEの米川正夫訳)、当初から「スタヴローギンの告白」も挿入されていた。 ロシアでは事情が異なる。レーニンが「悪霊」を無価値とみなし、共…

荒畑寒村「ロシア革命運動の曙」(岩波新書) ドストエフスキーの解説には書かれないロシア史を読む。

19世紀ロシアの革命運動の歴史を簡単にまとめる。前回は共産主義の立場から読んだ。荒畑寒村「ロシア革命運動の曙」(岩波新書) 今回は、ロシアの革命運動をドストエフスキーの目から見るとどうなるかという視点で見る。ドスト氏の小説の解説には、小説の…

フョードル・ドストエフスキー「後期短編集」(河出文庫他)-1「ボボーク」「キリストのヨルカに召されし少年」「百姓マレイ」「百歳の老婆」

米川正夫訳ドストエーフスキイ全集から後期短編や評論、講演などを抜粋したページを作った。これを再読する。 odd-hatch.hatenablog.jp エドガー・ポーの三つの短編 1861.01 ・・・ ドスト氏はエドガー・A・ポーの特長をこう捉える。「彼はほとんど常にもっ…

フョードル・ドストエフスキー「後期短編集」(河出文庫他)-2「宣告」 神の掟と宿命論を踏み越えるための自由意志による行動を考える。

宣告 1876.10 ・・・ 「退屈のために自殺したある男、もちろん、唯物論者のある考察」なので、「罪と罰」のラスコーリニコフとスヴィドリガイロフ(とマルメラードフ)の自殺と対比するために、しっかり読もうと思う。 本文全文 odd-hatch.hatenablog.jp と…

フョードル・ドストエフスキー「後期短編集」(河出文庫他)-3「おとなしい女」 男から受けた侮辱や屈辱を晴らすために妻にあたったミソジニストの悔恨

おとなしい女 1876.11 ・・・ 「作家の日記」1876年11月号に掲載された短編を読む。本文全文。 odd-hatch.hatenablog.jp odd-hatch.hatenablog.jp サマリーは下記を参照。2019/12/10 フョードル・ドストエフスキー「作家の日記 上」(河出書房)-3(1876年下…

フョードル・ドストエフスキー「後期短編集」(河出文庫他)-4「おかしな人間の夢」 ラスコーリニコフが夢見た社会変革プログラム

「作家の日記」で発表された短編他。 おかしな人間の夢 1877.4 ・・・ ドスト氏は小説でユートピアを語ることがなかった(はず)なので、この他の短編はとても珍重。でもそこはドスト氏、一筋縄ではいかない。自殺を決意した男が見る夢という設定なので、そ…

高野史緒「カラマーゾフの妹」(講談社文庫) 「カラマーゾフの兄弟」の優れた再解釈。兄弟たちは凡庸化してしまったが、たぶん神学論争もあるはずのアンカット版で読みたい。

ああ、やられてしまった。そりゃ俺も「カラマーゾフの兄弟」の続編をこんな感じになるのかなと妄想したりしたものだが、もっとすごいのがここにあった。脱帽。 1874年(というのは著者が推定した事件の年代)にロシア帝国を震撼させた「カラマーゾフ家の父殺…

フョードル・ドストエフスキー「プーシキン論」 ドスト氏の反スラブ主義・ナショナリズムが右翼と左翼を熱狂させた

1880年6月8日にドストエフスキーはロシヤ文学愛好者協会でプーシキン論を講演した。この協会にはロシア派と西洋派がいて険悪であり、前者と目されていたドストエフスキーは講演を気にしていた。幸い、いずれからも賞賛を浴びることになった。なので、この年…

フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 1」(光文社古典新訳文庫)第1部第1・2編 女好き・神がかり・金儲けの一家が初めて揃う

ドスト氏は社会変革を強く望んでいた。それは若いころからあり、ペトラシェフスキー事件で流刑にあっても失せることはなかった。しかし監獄体験で、西洋由来の自由主義・民主主義・社会主義ではロシア社会を変革できないと確信することになり、別のやり方に…

フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 1」(光文社古典新訳文庫)第1部第3編「女好きな男ども」 のちの殺人事件の推理の手がかりが書かれている。

2024/10/03 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 1」(光文社古典新訳文庫)第1部第1・2編 女好き・神がかり・金儲けの一家が初めて揃う 1880年の続き 再読して驚愕するのは、後の怒涛の展開ですっかり忘れてしまった第1部にとても重要な情…

フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 2」(光文社古典新訳文庫)第2部第4編「錯乱」 錯乱しているのはカラマーゾフの兄弟だけではない。関係者も錯乱している。

2024/10/02 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 1」(光文社古典新訳文庫)第1部第3編「女好きな男ども」 のちの殺人事件の推理の手がかりが書かれている。 1880年の続き 修道僧ラキーチンは、カラマーゾフ家には女好き、神がかり、金儲けの…

フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 2」(光文社古典新訳文庫)第2部第5編「プロとコントラ」 イワンの長広舌。肯定しているのは誰で、否定しているのは誰?

2024/10/01 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 2」(光文社古典新訳文庫)第2部第4編「錯乱」 錯乱しているのはカラマーゾフの兄弟だけではない。関係者も錯乱している。 1880年の続き さて、この小説で最も重たいところにきた。解説や評論…

フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 2」(光文社古典新訳文庫)第2部第5編「プロとコントラ」から「大審問官」 全体主義運動が演出する「奇跡・神秘・権威」が大衆を支配する

2024/09/30 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 2」(光文社古典新訳文庫)第2部第5編「プロとコントラ」 イワンの長広舌。肯定しているのは誰で、否定しているのは誰? 1880年の続き イワンが作った物語詩「大審問官」を検討。編のタイトル…

フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 2」(光文社古典新訳文庫)第2部第6編「ロシアの修道僧」 正義を実行しようとするゾシマは町を追い出される。

2024/09/27 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 2」(光文社古典新訳文庫)第2部第5編「プロとコントラ」から「大審問官」 全体主義運動が演出する「奇跡・神秘・権威」が大衆を支配する 1880年の続き 第6編「ロシアの修道僧」 ・・・ 死に…

フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 3」(光文社古典新訳文庫)第3部第7編「アリョーシャ」 一本の葱が差し出され受け取ったアリョーシャは「生涯変わらない確固とした戦士」に生まれ変わる

2024/09/26 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 2」(光文社古典新訳文庫)第2部第6編「ロシアの修道僧」 正義を実行しようとするゾシマは町を追い出される。 1880年の続き 修道僧ラキーチンは、カラマーゾフ家には女好き、神がかり、金儲け…

フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 3」(光文社古典新訳文庫)第3部第8編「ミーチャ」 何もかも失ったと思い詰めたドミートリーはモークロエの大宴会で愛を見出す

2024/09/24 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 3」(光文社古典新訳文庫)第3部第7編「アリョーシャ」 一本の葱が差し出され受け取ったアリョーシャは「生涯変わらない確固とした戦士」に生まれ変わる 1880年に続く これまでほとんど登場し…

フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 3」(光文社古典新訳文庫)第3部第9編「予審」 好色で金に執着していたドミートリーは逮捕されて神を愛している自分を発見し苦しみを引き受けることを決意する

2024/09/23 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 3」(光文社古典新訳文庫)第3部第8編「ミーチャ」 何もかも失ったと思い詰めたドミートリーはモークロエの大宴会で愛を見出す 1880年の続き 前の編では、ドミートリー(ミーチャ)が大慌てに…

フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第10編「少年たち」 13歳にして「社会主義者」をなのる若造登場。スタヴローギンによく似た少年は続編の主人公?

2024/09/20 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 3」(光文社古典新訳文庫)第3部第9編「予審」 好色で金に執着していたドミートリーは逮捕されて神を愛している自分を発見し苦しみを引き受けることを決意する 1880年の続き 「カラマーゾフの…

フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第11編「兄イワン」 思春期のリーザは気まぐれで、他人をいじめ、他人にいじめられることを望む

2024/09/19 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第10編「少年たち」 13歳にして「社会主義者」をなのる若造登場。スタヴローギンによく似た少年は続編の主人公? 1880年の続き 次の編では次兄イワンに焦点が…

フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第11編「兄イワン」(承前) 「お前のやりたいことを代わりに俺たちがやったのだ」という大審問官の論理でイワンはスメルジャコフに追い詰められる

2024/09/17 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第11編「兄イワン」 思春期のリーザは気まぐれで、他人をいじめ、他人にいじめられることを望む 1880年の続き モスクワから帰ってきたイワンは、兄弟たちにあ…

フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第11編「兄イワン」(承前) イワンの前に現れた紳士は悪魔でありスメルジャコフでありイワン自身である。この章は「大審問官」のパロディ。

2024/09/16 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第11編「兄イワン」(承前) 「お前のやりたいことを代わりに俺たちがやったのだ」という大審問官の論理でイワンはスメルジャコフに追い詰められる 1880年の続…

フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第11編「兄イワン」(承前) ドミートリーは世界と神を愛するようになり無実の人殺しの罪を引き受けることを決意する

2024/09/13 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第11編「兄イワン」(承前) イワンの前に現れた紳士は悪魔でありスメルジャコフでありイワン自身である。この章は「大審問官」のパロディ。 1880年の続き フ…

フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第12編「誤審」 ミーチャへの告発と弁護が交錯する法廷シーン。探偵小説マニアにはたまらない。

2024/09/12 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第11編「兄イワン」(承前) ドミートリーは世界と神を愛するようになり無実の人殺しの罪を引き受けることを決意する 1880年の続き 2000年ころに新潮文庫がキ…

フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第12編「誤審」(承前) 否定する人=ヨーロッパは破滅し、肯定する人=ロシアは苦痛を受け入れる。

2024/09/10 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第12編「誤審」 ミーチャへの告発と弁護が交錯する法廷シーン。探偵小説マニアにはたまらない。 1880年の続き 第11編「誤審」(承前) ・・・ 前の章まででキ…

フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 5」(光文社古典新訳文庫)エピローグ カラマーゾフの兄弟はまたバラバラになる。13年後の再開を待とう。

2024/09/09 フョードル・ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟 4」(光文社古典新訳文庫)第4部第12編「誤審」(承前) 否定する人=ヨーロッパは破滅し、肯定する人=ロシアは苦痛を受け入れる。 1880年の続き 裁判が終わってから5日目。町の人々の関心…