odd_hatchの読書ノート

エントリーは2800を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2022/10/06

2016-07-01から1ヶ月間の記事一覧

江戸川乱歩「暗黒星」(講談社文庫)

昭和14年に連載していた通俗長編2つが収録されている。 暗黒星 1939.1-12 ・・・ 麻布に大西洋館を構える伊志田家。ある夜8mmフィルムの上映中(当時は国産品はなくて、フィルムともども輸入していたのではなかったかな。相当な資産家でインテリでスノッ…

江戸川乱歩「三角館の恐怖」(創元推理文庫)

「隅田川近辺の川岸に建つ石とレンガの古色蒼然たる3階建ての洋館―元は正方形の屋敷だったものを対角線で真二つにしたため、付近の人々から三角屋敷とも三角館とも呼ばれる蛭蜂一族の洋館で、1月下旬の雪の日の深夜、突如として1発の銃声が鳴り響いた。二つ…

江戸川乱歩「日本探偵小説全集 2」(創元推理文庫)「化人幻戯」

この日本探偵小説全集には、二銭銅貨/心理試験/屋根裏の散歩者/人間椅子/鏡地獄/パノラマ島奇談/陰獣/芋虫/押絵と旅する男/目羅博士/化人幻戯/堀越捜査一課長殿が収録されている。いくつかの短編と「パノラマ島奇談」「陰獣」は別のエントリーで取り上げたの…

アレン・スミス「いたずらの天才」(文春文庫)

1953年初出の「The Compleat Practical Joker」は江戸川乱歩の中編「空気男とペテン師」1959年のネタ本になった。小説に出てくるプラクティカル・ジョーク(いたずら)のいくつかは、この「いたずらの天才」に出てくる。翻訳は1963年だったようで(文庫は197…

江戸川乱歩「堀越捜査一課長殿」(講談社文庫)

戦後、仕事の軸足を創作から評論と雑誌編集に移したので、創作小説は極端に減ってしまった。長編は「化人惑戯」「影男」「十字路」、翻案の「三角館の恐怖」、中短編はほぼこの一冊。創作の意欲は本人が認めるように薄れていて(国策小説を書いたこととか、…

ジュール・ヴェルヌ「海底二万リュー」(旺文社文庫)-2

2016/07/21 ジュール・ヴェルヌ「海底二万リュー」(旺文社文庫)-1 1870年 の続き その他気になったところを箇条書きに。 ・この小説には女性が一切登場しない。これはメルヴィル「白鯨」、ポー「アーサー・ゴードン・ピムの物語」、スティーブンソン「宝島…

ジュール・ヴェルヌ「海底二万リュー」(旺文社文庫)-1

昔読んだ旺文社文庫版では「リュー」、今回読んだ集英社文庫版では「里」。ほかに「リーグ」「海里」など表題の単位表記にはさまざまなヴァリアントがある。 きわめて高名な冒険小説。1870年に書かれてから、この国で何度も翻訳され、ジュブナイル版も出たり…

モーリス・ルヴェル「夜鳥」(創元推理文庫)-2

2016/07/19 モーリス・ルヴェル「夜鳥」(創元推理文庫)-1 の続き。 続いて後半15編。ルヴェルがこの国の小説史に刻まれ、今でも読み手がいるのは(翻訳後80年たとうというのに)、この作家に惚れた翻訳者がいるから。「新青年」を編集するとき、編集者が小…

モーリス・ルヴェル「夜鳥」(創元推理文庫)-1

モーリス・ルヴェルは本国(フランス)でも忘れられた作家になっているらしい。解説および序文を書いた人たちによると、どうもこの一冊だけが翻訳されたらしい(長編一つが翻訳されたかされないか)。しかし、この一冊の翻訳によって、ルヴェルの名はこの国…

ノエル・カレフ「死刑台のエレベーター」(創元推理文庫)

会社社長は高利貸しからの返済催促に苦慮していた。資金繰りのめどがたたなくなり、ついに義兄をはめ、さらに高利貸しを殺すことを決意する。実行は土曜日夕方、そうすれば月曜朝の発覚までに時間稼ぎができる。犯行は成功したが、自室に小切手他の証拠を残…

ボワロ&ナルスジャック「技師は数字を愛しすぎた」(創元推理文庫)

パリの原子力関連施設で殺人事件が起きた。調べないで書くと、初出の1958年当時にはまだ原子力発電は実験段階。それもアメリカの企業が開発していたので、この施設は核兵器の開発施設だったのではないかと思う。なにしろ、核燃料を詰めたチューブが同時に盗…

ミシェル・ジュリ「不安定な時間」(サンリオSF文庫)

2060年、ロベール・オルザックは時間溶解剤を飲んだ。この薬は、現実から意識が遊離して<溶時界><不安定界>なる時空体に入ることになる。そこでは継時的な時間はなく、タイムスリップに似た感覚をもつことができる。初出の1973年には、現実と夢の境をま…

フィリップ・キュルヴァル「愛しき人類」(サンリオSF文庫)

フランスのシュールレアリストで作家のキュルヴァルが1976年に書き、翌年のアポロ賞を受賞した、という。 奔放なイメージが錯乱し、いくつもの物語が同時に進行している。なので箇条書きにするしかない。 ・20年前にマルコム(旧ヨーロッパ共同体)は国境を封…

今道友信「エコエティカ」(講談社学術文庫)

「エコエティカ」という学問分野をつくった著者の啓蒙書。講演五つを並べたので、話題がいったりきたりでわかりにくい。そこで、以下は章ごとのサマリーではなく、自分の自由なまとめ。 エコは生態学、生態圏から借りてきた言葉であるが、自然と同義ではない…

加藤尚武「環境倫理学のすすめ」(丸善ライブラリ)

1991年初出。「環境倫理学」をこの国に導入した哲学者?の啓蒙書。いろいろと「過激」な主張を読んできたものだが、これもそのひとつ。自分のように近代主義と自然科学にどっぷりと浸かったものには、ここで主張されることはいろいろ気に障って仕方がない。 …

アンソニー・ギデンズ「第3の道」(日本経済新聞社)

1990年代。東欧ソ連の社会主義が一気に倒壊。1980年代に成立した日英米の新自由主義保守政権は貧困層の増加と格差の拡大、国内の差別の拡大などの諸問題を起こした。そこで、リベラルな政権が望まれ、日英米で成立する。そのとき、もっとも実績を残したのが…

アマルティア・セン「人間の安全保障」(集英社新書)

アマルティア・センの講演集第2弾(2006年)。アマルティア・セン「貧困の克服」(集英社新書)の続編のような位置づけ。 安全が脅かされる時代に 2003 ・・・ 基礎教育を充実させ普及することによって、社会の安全と公平な場所にしよう。識字、計算、意思…

マイケル・サンデル「これからの「正義」の話をしよう」(ハヤカワ文庫)-1

ハーバード大学の政治哲学教授の講義はとても人気があった。30年間の受講生が14000人!を超えたので、映像に収録して放送した。その時の内容に教授が手を入れて、テキストにしたのがこの本。アメリカでもこの国でも盛んに読まれたという。遅ればせながら入手…

マイケル・サンデル「これからの「正義」の話をしよう」(ハヤカワ文庫)-2

2016/07/6 マイケル・サンデル「これからの「正義」の話をしよう」(ハヤカワ文庫)-1 2010年の続き 続けて後半。 平等の原理(ジョン・ロールズ) ・・・ 社会契約が薄ばれているのは。ロックは暗黙の合意といい、カントは仮想上としたが、ロールズはどちら…

マイケル・サンデル「これからの「正義」の話をしよう」(ハヤカワ文庫)-3

2016/07/6 マイケル・サンデル「これからの「正義」の話をしよう」(ハヤカワ文庫)-1 2010年 2016/07/5 マイケル・サンデル「これからの「正義」の話をしよう」(ハヤカワ文庫)-2 2010年の続き 徳や善を考えるのはこの国ではなかなか難しい。日常ではその…

竹内靖雄「経済倫理学のすすめ」(中公新書)

タイトルはあまり聞かない学問の名前であるが、これは経済学でも倫理学でもない。我々が日常で直面する問題に対して、徳や正義で判断するのではなく、人に「ノブリス・オブリージュ」のような態度を要求せず、感情をカッコにいれて勘定で判断するようにしよ…