odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2013-04-01から1ヶ月間の記事一覧

シャーリー・ジャクスン「山荘綺談」(ハヤカワ文庫) 霊とか悪神とか念動力とかの認識不可能な存在のせいにできないのは現代の幽霊屋敷ものの苦しいところ

シャーリー・ジャクスン「山荘綺談」とリチャード・マシスン「地獄の家」(ハヤカワ文庫)をあわせて。ほぼ同日にまとめて読んだので。 どちらも幽霊屋敷ものホラーの古典。前者は1951年、後者は1972年の作。現在は、「山荘綺談」ではなく、「たたり」創元推…

C・G・フィニー「ラーオ博士のサーカス」(ちくま文庫) サーカスをテーマにしたファンタジーの傑作のひとつ。数々の予言や奇蹟を貶しめてしまう凡庸な住民はわれわれ読者そのもの。

アリゾナ州アバローニ市にサーカスが来たネ。ラーオ博士(老先生のほうがよろし)が団長ネ。サーカスにはメデューサがいるヨ、スフィンクスがいるヨ、キマイラに人魚がいるヨ。あそこではアポロニウスが占いをしているネ、今度死人を生き返らせるアルので、…

レイ・ブラッドベリ「何かが道をやってくる」(創元推理文庫) 外敵と戦うことで男の子は大人になり、親は自尊心を取り戻す。

ジムとウィルは隣同士の仲良し。ジムは10月31日午後12時の1分前に生まれ、ウィルは1分後に生まれるという奇運のために兄弟のようなのだ。現在は14歳になる直前。微妙な年齢だな、本人は大人の仲間入りのつもりで、はた目には子供とかわらず、無鉄砲で、臆病…

トム・リーミー「沈黙の声」(ちくま文庫) サーカスをテーマにしたファンタジーの傑作のひとつ。残酷な出来事で悲痛を経験しなければならない。

誰だったか、サーカスをテーマにしたファンタジーの傑作には、ブラッドベリ「何かが道をやってくる」、C・G・フィニー「ラーオ博士のサーカス」、それにこの「沈黙の声」があると言っていた。そのときにはサンリオSF文庫は絶版になっていたので、入手で…

トム・リーミー「サンディエゴ・ライトフット・スー」(サンリオSF文庫)

トム・リーミーは1935年テキサス州生まれ。長じてファンジンを作っていたが、作家にはならず映画界で仕事をしていた。40代になって作家に転業。しかし1977年に心臓麻痺で死亡。実質的な活動期間は3年で、長編「沈黙の声」とこの短編集がほぼすべての作品。…

トマス・トライオン「悪を呼ぶ少年」(角川文庫)双子の片方がもうひとりのいたずらや事件を必死で止めようとするのだが・・・

竹本健治「匣の中の失楽」にでてくる双子の愛称が、このホラーの主人公たちからとられていた。そのためにこの小説にはずっと興味があったにもかかわらず、1990年ころは品切れになっていた。最近、角川ホラー文庫で復刊された(といっても古本屋で買ったので…

トマス・トライオン「悪魔の収穫祭 上」(角川文庫)

「悪を呼ぶ少年」に続く第2作。1973年。 大手会社の広告担当重役ネッド・コンスタンチンは社長とけんかして退社し、ニューイングランド州コーンウォール・クームという村に1700年代初頭に建てられた家を見つけ、妻と娘の3人で移住する。 この村は極めて閉…

トマス・トライオン「悪魔の収穫祭 下」(角川文庫)

トマス・トライオン「悪魔の収穫祭 上」(角川文庫) - odd_hatchの読書ノート 村がどうなっているのか、というのが大問題なのだけれど、それは新参者のネッドには把握できない。なんとなれば、村人は彼に説明しないから。現在のとうもろこし王ジャスティン…

イアン・バンクス「蜂工場」(集英社文庫) 恐るべき暴力性とネグレクト体験を抱えた子供の孤独。ホラー小説なのに救済も安堵もない。

いやあ、怖かった。ここには超常現象もおきないし、怪物も悪魔もUMAも宇宙人も現れない。ほとんどリアリズムの小説なのに、そこらの凡百のホラーにはない恐怖が満ち溢れている。 さて、表紙カバーには「結末は、誰にも話さないでください」と念押ししているの…

スティーブン・キング「呪われた町 上」(集英社文庫) キングのほかの長編のモチーフをひとつにまとめた、なんて贅沢な小説なのだろう。いや順番は逆だ。

およそ20年ぶりに読んで、既視感を覚えたのは、「ほかの長編のモチーフをひとつにまとめた、なんて贅沢な小説なのだろう」ということ。もちろん順番は逆。これは1975年に出版された第2作(売れない時代に書いた別の長編があるのだけど。「バトルランナー」と…

スティーブン・キング「呪われた町 下」(集英社文庫) 古い怪奇小説とB級映画の使い古されたプロットと定番シーンをモダンに描く筆力に驚嘆。

駆け出しの小説家ベン・ミラーズは数十年ぶりに故郷の街に帰ってきた。それは二つの目的があり、ひとつは交通事故で死なせた妻の幻影を消すため、もうひとつは彼のオブセッションである幼児体験の正体を確かめるため。メイン州にあるセーラムズ・ロットとい…

スティーブン・キング「ミザリー」(文春文庫) ラブクラフトやポーでは暗示にとどめられるくらいの恐怖が、モダンホラーでは残虐描写にとって代えられる。

人によると「モダンホラーは怖くない」そうだ。ミザリーもしかり。 「事故で動けなくなった作家を監禁し、自分だけのために小説を書かせようとする自称“ナンバーワンの愛読者”。ファン心理から生じる狂気を描くサイコ・スリラーの傑作」 http://www.bunshun.…

INDEX アドルノ関連

2021/12/09 テオドール・アドルノ/マックス・ホルクハイマー「啓蒙の弁証法」(岩波書店)-1 1947年 2021/12/07 テオドール・アドルノ/マックス・ホルクハイマー「啓蒙の弁証法」(岩波書店)-2 1947年 2017/04/10 テオドール・アドルノ「ベートーヴェン 音…

F・ポール・ウィルソン「黒い風 上」(扶桑社文庫)

解説によると1930-40年代のパルプマガジンに書かれた黄禍論のパスティーシュとのこと。黄禍論の小説がこの国に紹介されるとはとても思わないので、専門の雑誌があったなど、この本を読まなければ知ることはあるまい。パルプマガジンは、ハードボイルドかSFか…

F・ポール・ウィルソン「黒い風 下」(扶桑社文庫)

物語を推進する原動力は<隠れた貌>の暗躍であるが、その全貌を知り、未来を予見できるものは一人としていない。それゆえ、大枠は史実の通りに進み、226事件、真珠湾奇襲、ミッドウェー海戦、アリゾナの原爆実験、8月6日の広島投下までがそのとおりに記述さ…

アンナ・カヴァン「氷」(サンリオSF文庫) 「私」が希望を断念するところから、世界の氷化が一挙に進む。

奇妙な小説だ。世界が突然、氷で覆われることになり、行政・国家機能が停止する。北の国から徐々に氷河に襲われるようになり、次々と氷の下に埋もれてしまう。人は南に逃げていくが、氷の速度が上回る。この環境激変の理由は一切説明がないし、それに対抗し…

渡邊芳之 「「モード」性格論」(紀伊国屋書店)-1 性格は固定的ではなく、自意識・関係・役割に応じて使い分ける可変的な行動パターン。

ずっと自分は他人の性格を読んだり、行動パターンを見出せない(というバイアスを持っているのだろうなあ)。なので、クラスメートや会社の同僚を紹介するのがすごく苦手。自分の行動にも臆病なところと激情的なところがあって、状況に応じてどの感情が先に…

渡邊芳之 「「モード」性格論」(紀伊国屋書店)-2 なぜ心理学者は血液型性格診断を信じないか。

2013/04/09 渡邊芳之 「「モード」性格論」(紀伊国屋書店)-1の続き この章は「血液型性格診断」の問題を説明。重要なことなので、詳細にまとめる。 第3章 血液型神話解体 ・・・ この「学説」の提唱者は日本人。1930年代の古川竹二という東京師範学校の教…

江川晴「小児病棟」(読売新聞社) 1980年の第1回女性ヒューマン・ドキュメンタリーの入選作品集。子供・病者にもっている偏見と理想化が裏切られるリアルを描く。

1980年の第1回女性ヒューマン・ドキュメンタリーの入選・佳作の4編を集めたもの。出版社の主催であったが、別の企業の協賛があったように記憶しているし、新聞に大きな広告が載ったように思えるし、のちにはTVドラマになったりと大きく扱われたような覚えが…

北川民次「絵を描く子供たち」(岩波新書) 子どもは好き勝手に才能を発揮する。でもほとんどは怠惰か高慢でつぶれたり、30歳前に理由なくタレントが消えてしまうという。

著者は1894年生まれの画家。20歳でアメリカにわたりニューヨークの美術学校で勉強。小金をためたので、中南米を漫遊しようとおもっていたが、キューバで有金を盗られてしまう。メキシコで聖画売りなどをしながら生活する。ここまでの著者の放浪生活はまるで…

安野光雅「ZEROより愛をこめて」(暮しの手帖社)

1986年ころから88年にかけて「暮らしの手帖」に連載された。個人的な事情を述べると、当時在籍した会社ではこの雑誌を定期購読していて、毎月自分のところにまわってきたのだった。この連載と黒田恭一のCD案内が楽しみだった。 さて。当時還暦を過ぎた著者が…

吉野源三郎「君たちはどう生きるか」(岩波文庫) 社会の分業体制を認識し生産活動に参加しろ、差別と暴力に集団で抵抗しろ

昭和10年に山本有三らといっしょに編集した「日本小国民文庫」の一冊。のちに(1960年代)、ポプラ社で復刻されている。たぶん小学生のときに読んだとおもうのだが、記憶は定かではない。しっかりと読んだのは岩波文庫に収録された1982年のとき。今回は約30…

斎藤喜博「君の可能性」(ちくま文庫)

なんとも懐かしい本が再刊された(といっても発行は1996年と昔のことだが)。もとは「ちくま少年図書館」という叢書の第3巻として1970年に発行された。その3年後、12歳で中学1年生だった自分は、夏休みにこの本を読んで読書感想文を書いた。それが市のコンク…