odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2013-07-01から1ヶ月間の記事一覧

竹中労「琉球共和国」(ちくま文庫) トップ屋が返還前の沖縄に古代日本の現像を夢想する。

1960年の映画「日本の夜と霧」(大島渚監督)では、戸浦六宏の演じる役がトップ屋であった。とすると、この時代には「トップ屋」という職業ができていたことになる。トップ屋を始めた、というよりそれで生計を立て、かつ人口に膾炙するまでの存在になった最…

ガブリエル・ガルシア=マルケス「戒厳令下チリ潜入記」(岩波新書) 逮捕拘束の恐怖と不安と緊張を抱えながら亡命者・異邦人として母国を眺める。

どこから話をしようか。作者についても、主人公についてもいろいろ記しておきたいが、やはりチリのことから。 1970年に選挙によってチリでは共産主義政権が樹立した。サルバドール・アジェンデが大統領に就任。若いころから民衆といっしょに仕事をしてきて、…

T・K生「韓国からの通信」(岩波新書) 1972年10月に戒厳令が布かれて以来の緊迫する韓国の政情を伝える匿名者の報告。

内容と著者をめぐって問題があるらしい。2003年になって著者が明らかにされ、著述方法がわかった。著者自身は韓国に入国することがかなわないので、知人その他を通じて韓国の情報を伝えてもらう。それを編集して文章にまとめた。当時の韓国は新聞その他のメ…

T・K生「続・韓国からの通信」(岩波新書) 1974-75年の韓国状況。軍人の独裁政治と不況で人権の侵害と無視が横行する。

2013/07/29 T・K生「韓国からの通信」(岩波新書) 引き続き1974年7月から1975年6月までのレポート。田中角栄がロッキード疑獄で退陣し、三木に総理大臣が変わった。アメリカの大統領もニクソンが失脚し、ジョンソンに代わっていた。大きな出来事はベトナム…

T・K生「第3 韓国からの通信」(岩波新書) 1975-77年の韓国の状況。日本企業は韓国に投資し、独裁政権の人権侵害と公害輸出に加担する。

2013/07/29 T・K生「韓国からの通信」(岩波新書) 2013/07/26 T・K生「続・韓国からの通信」(岩波新書) 引き続き、1975年5月から1977年8月にかけてのレポート。 主な主題は「3.1民主救国宣言」裁判。1976年3月に思想・良心の自由がないこと、韓国の経済が…

T・K生「軍政と受難」(岩波新書) 1977-80年の韓国の状況。朴大統領暗殺と光州事件。

2013/07/29 T・K生「韓国からの通信」(岩波新書) 2013/07/26 T・K生「続・韓国からの通信」(岩波新書) 2013/07/25 T・K生「第3 韓国からの通信」(岩波新書) 引き続き、1977年11月から1980年7月にかけてのレポート。 おさらいすると朴正煕(パク・チョ…

四方田犬彦「われらが<他者>なる韓国」(平凡社ライブラリ)

大江健三郎が「世界の40年」で、「韓国からの通信」の感想としてあれほど感情的でなくても、ということを述べていた。そこで、この本を読んでみる。著者は25歳のときに、建国大学の日本語講師としてソウルにいき、半年をそこで過ごした。途中、大統領の暗殺…

野村進「コリアン世界の旅」(講談社文庫) どこにでもあるコリアン世界に目を向けないための方策として日本人は「無関心」「無知」を言い訳にする。

この国の言説で自分が納得いかないのがふたつほどあって、ひとつは「この国は単一の民族、千五百年の伝統」みたいなこと。民俗学や歴史学を勉強するとそうではないよな、とわかる。これは下記のマイノリティを持ち出さずとも、説明されている。もうひとつは…

都筑道夫「退職刑事」(徳間文庫)

元刑事の父親に現職刑事が手がけている事件の話をする。話を聞いているだけで、事件の奇妙なところや現職刑事の見落としているところを見つけて、事件を解決してしまう。この国では珍しい安楽椅子(いや安楽ざぶとん)探偵。 1973年から雑誌連載が開始され、…

都筑道夫「退職刑事2」(徳間文庫)

1976年初出のシリーズ第2作。その後、版元を変えては再販され、未だに入手が可能。退職した刑事が息子の現役警官を訪れ、進行中の事件の話を聞いて、推理すると言う趣向。 「遺書の意匠」(1975) ・・・ 翌日の歌舞伎の一等席のチケットを買った若い実業家が…

都筑道夫「退職刑事3」(徳間文庫)

1982年初出のシリーズ第3作。 「大魔術の死体」(1982) ・・・ 抗争中のやくざが拳銃密売をしている。そういうちくりがあったので、売人を刑事が尾行していると、突然銃声。すると、電話ボックス(この20年でほぼ駆逐。写真を見せないとわからない人がいる)…

都筑道夫「退職刑事健在なり」(徳間文庫)

1986年初出。シリーズは徳間書店で出版されていたが、この刊だけ潮出版社ででて、タイトルに数字がなくなった。徳間文庫はそれを踏襲しているが、創元推理文庫では「4」にしたので、あとの番号がずれている。入手の際には注意すること。 「連想試験」(1985)…

都筑道夫「退職刑事4」(徳間文庫)

初版の版元がもう一度徳間書店にもどり、通番が復活。創元推理文庫で復刻された時には、「5」が付けられた。ややこしいので注意すること。1990年初出。 徳間文庫の解説には長編がでるという予告があったが、これは実現しなかった。 「落葉の墓」(1987) ・・…

都筑道夫「退職刑事5」(徳間文庫)

初出は1996年。このあと急激に創作が減るから、晩年様式をもった短編集といっていいのだろうな。創元推理文庫では「退職刑事6」なので注意してください。あとがきによると、「退職刑事4」(創元推理文庫「退職刑事5」と同じ、ああややこしい)で計画してい…

小川洋子「博士の愛した数式」(新潮文庫) 家族に対して過剰な愛情や関係を持つことを禁じられ、しかし良好な人間関係を持たなければならない家政婦は探偵になれる。

とても平明な小説であるが、ここにはいくつかの物語がある。大状況にあたるのが、数論とそこから見出される数への愛情と思想。これがミステリーの書き手であれば、数学史まで持ち出して、事件への伏線にするような、意図的で恣意的な博学を持ち出すのであろ…

山口瞳「居酒屋兆治」(新潮社) 団塊の世代が中年の危機を脱サラで乗り切ろうとする。まだ子どもの養育や親の世話が問題にならなかった時代。

プロ野球球団ロッテに村田兆治というピッチャーがいて、めっぽう速球が早かった。先発して9回になっても時速150kmの速球を投げられるのが自慢だった。彼とか、山田久志とか東尾修とか鈴木啓示とか1970年代のパシフィック・リーグにはよい投手がいてもTV放送…

開高健「最後の晩餐」(文春文庫) 自分の食と文学の食を渉猟した「鑑賞と解釈」。

1977年に刊行されているので、初出はその2-3年前の「諸君!」の連載。著者はこの本以外にも、多くの食に関するエッセイを書いている。とりわけ世界中で釣りをするという旅行兼スポーツ実践記では、当地の食べ物のことがでていた。そういえば、作家専業になる…

開高健「知的な痴的な教養講座」(集英社文庫) 田舎出の男子学生と都会の男子高校生向けの人生指南。

1987年あたりに週刊プレイボーイに連載されたエッセー。この雑誌は軽薄でありながら、ときに知的エンターテイメントを登用することがあり、著者とか小田実とかそういう進歩的知識人(死語だな)の連載があったのだった。 一回せいぜい5から8枚と見える短い作…

曽野綾子「太郎物語」(新潮文庫) 冷静な頭脳(クールヘッド)はあるが温かい心情(ウォームハート)はない「よい子」が快不快だけで物事を即決し葛藤を経験しないままエリート学生になるまで。

昭和30年1月23日生まれの山本太郎くんは、高校生。大学教授の父と翻訳家の母を持つ一人っ子。でもって、成績はそれなりに優秀(勉強している描写はなくてもどうやら上位にいる模様)、個人でするスポーツ好きで陸上部に所属し県の大会で11秒3を出して2位。…

渡辺淳一「白い宴」(角川文庫) この国の最初の心臓移植手術をモデルにした小説。バイオエティクスのない時代なので問題は深堀されていない。

1968年8月8日にこの国の最初の心臓移植手術が行われた。その日は、東海村の実験用原子炉が稼働を開始した日だった。ガキだったので、これらの出来事は未来を明るくすると信じていた。のちに、いずれもそう単純ではない、多くの人の批判にさらされた忌まわし…

「立原道造詩集」(角川文庫) ある種の欺瞞、あるいは仮面である一人称でしか書けなかった早世の詩人。

これは学生時代に読んだな。記録を見ると、購入したのは1979年の学園祭の前日だ。うーん、何を感じて購入したのだろうか。個人的な追憶で甘さと苦さを感じてしまう。 それはさておき、なるほど25歳で亡くなったこともあり、詩作活動がごく若いうちに行われて…

「西脇順三郎詩集」(新潮文庫) フランス風ギリシャ趣味から中国の文人風飄々さへ。

高校時代に読んだときはもっとも難解な詩集だったな。そのころは詩集を読むと、気に入った(というより不遜であるが「ぼくが考えたさいきょうの」)詩にチェックを入れていた。たいてい3分の1くらいにチェックが入ることになるのだが、この詩人の場合最初…