odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2013-09-01から1ヶ月間の記事一覧

笠井潔「オイディプス症候群」(光文社)-2 愛の現象学。共同体から離脱した独我論者には、「殺す」や愛の対象としての他者はいないので、共同体の成員には愛の応答をしない。

2013/09/27 笠井潔「オイディプス症候群」(光文社)-1 前作「哲学者の密室」のラストでナディアは死の哲学を克服するのに、愛の可能性を示唆した。本作で愛の現象学が語られる。きわめて図式的にまとめるとこんな感じ。 愛には様々な形態と対象がある。でも…

笠井潔「オイディプス症候群」(光文社)-1 1985年のギリシャの孤島で、ギリシャ神話とフーコーとHIVが邂逅する。

2002年初出。前作「哲学者の密室」の発表から10年。でも、小説内の時間は半年もたっていない1975年。重要なモチーフにHIVと後天性免疫不全症候群があり、アメリカ西海岸のゲイコミュニティで蔓延し始めたという記述がある。そういう報告が実際に出たのは1981…

笠井潔「群衆の悪魔」(講談社)-4 ブランキとデュパンの会話は、将来書かれるだろうニコライ・イリイチと矢吹駆の対話の前駆か?

2013/09/23 笠井潔「群衆の悪魔」(講談社)-1 2013/09/24 笠井潔「群衆の悪魔」(講談社)-2 2013/09/25 笠井潔「群衆の悪魔」(講談社)-3 の続き。 オーギュスト・デュパンはこの事件の全体を「群衆の悪魔」の仕業、、というのだが、その議論はよくつかめ…

笠井潔「群衆の悪魔」(講談社)-3 連続殺人事件に巻き込まれたシャルルがデュパンの助けでハードボイルド探偵になる。

2013/09/23 笠井潔「群衆の悪魔」(講談社)-1 2013/09/24 笠井潔「群衆の悪魔」(講談社)-2 の続き。 ようやく物語をまとめるところにきた。 1848年パリ周辺で以下の事件が起きる。 1)田舎でベルトラン婦人が暴漢に殺される。彼女は若いころ、貴族の私生…

笠井潔「群衆の悪魔」(講談社)-2 絶対王政が打倒され産業革命が進むと、人々は共同体を離れ都市で無名で無階級の群衆になる。

2013/09/23 笠井潔「群衆の悪魔」(講談社)-1 の続き。 その変化を探偵たちはパサージュを通じてみた「群衆」の現れにみる。群衆は都市と産業化によって誕生した新しい人々の群れ。その特徴を探偵は以下のようにまとめる。 1)徹底的に他人 2)階級的性格…

笠井潔「群衆の悪魔」(講談社)-1 時代は1848年、場所はパリ。2月革命がなった都市には、バルザック、プルードン、マルクス、デュパンらがいた。

1996年初出。時代は1848年、場所はパリ。 この1848年という年はヨーロッパにとって重要。19世紀前半の政治体制であったウィーン体制が崩壊。まあ、多くの国で君主が追放されたのと、抑圧の権力が新たに生まれたということで。この面は後で詳述。もう一つは、…

笠井潔「梟の巨なる黄昏」(講談社文庫) 世界を破滅させることをもくろむ書物は世界を憎む人の憎悪を増幅し、正当化の根拠を与える。

世界を破滅させることをもくろむ書物。その書物の読者は、世界に対して憎悪をもち、破壊しようとする。そのような書物として作家が構想したものには「黄昏の館」があった。「黄昏の館」ではそれを書くことにより、世界と自分への憎悪と嫌悪が開示されるもの…

笠井潔「国家民営化論」(知恵の森文庫) 国家廃棄や止揚のためのアナルコキャピタリズムの提案。「自己責任論」が行きついた先はこれ。

20世紀を大量死の世紀と定義したときに、大量死をもたらしたものとしてファシズムと共産主義がある。前者は自由主義国家によって壊滅し、後者は自壊した。キーワードは個人の自由である。で、残された自由経済主義的資本主義国家であるがこれが問題の解決を…

笠井潔「哲学者の密室」(光文社)-6 本書は「バイバイ・エンジェル」ないし「テロルの現象学」以来の作者の主題である観念論批判の総決算であり観念論の象徴としての現象学批判。

2013/09/17 笠井潔「哲学者の密室」(光文社)-5 1992年に筒井康隆は朝日新聞の書評欄に連載を持っていて、同時期にこの本がでたので取り上げられた。「富豪刑事」の神戸刑事が書評するという趣向。そこで指摘されていたことを思い出すと、 ・現在(1976年)…

笠井潔「哲学者の密室」(光文社)-5 本来的自己の可能性を見出す契機は死を見つめるほかにも、愛や他者の発見がある。

2013/09/16 笠井潔「哲学者の密室」(光文社)-4 というわけで、ハルバッハの死の哲学とその兄弟的なところにあるレーニン主義では、20世紀の収容所群島を克服できない。 では、どこに希望を持つか、ということになる。ハルバッハの死の哲学では、死は特権的…

笠井潔「哲学者の密室」(光文社)-4 絶滅収容所をみたドイツ人の衝撃と、戦時の大量殺戮を隠蔽し続けた日本人の欺瞞。

2013/09/13 笠井潔「哲学者の密室」(光文社)-3 もちろん1940年代前半、このような絶滅収容所の存在は秘匿されていた。しかし多くのドイツ市民はうわさを聞いていたという。なぜか。隣人が突然失踪し、あるいは隣人が前線から傷病兵として帰還していたから…

笠井潔「哲学者の密室」(光文社)-3 日常的堕落の消費社会は人を無個性化・無名化し、死の哲学の組織(絶滅収容所とか前線の軍隊とかテロ組織とか)もまた人を無個性化、無名化する。

2013/09/12 笠井潔「哲学者の密室」(光文社)-2 ハルバッハは、死の不可能的可能性が生の可能性を照射し、生を有意義なものに変えて本来的自己を回復するものであるという。とはいえ、自分らのような凡庸な頭脳の持ち主はこの図式を倒錯させてしまう。とい…

笠井潔「哲学者の密室」(光文社)-2 大哲学者ハルバッハ曰く「死は恐れるものではなく、むしろそこに積極的に関与し死をまっすぐ見つめることが自己の改革を実現する道」

2013/09/11 笠井潔「哲学者の密室」(光文社)-1 以下は誤読を含む自分のまとめ。 19世紀は1918年の第1次大戦の終了とともに終わる(あと同年のロシア革命も契機)。1789年のフランス革命から始まった19世紀を特徴つけるのは「市民の時代」であること。ここ…

笠井潔「哲学者の密室」(光文社)-1 事件の関係者のほとんどがナチの絶命収容所の脱走事件にもかかわる。現代の密室事件は生と死の決定不可能性を暴露する。

1975年初夏のパリ。今年は冷夏と思われる寒い日が続く。現象学の権威ハルバッハ教授がパリを訪れ、講演会や対談を行っている。高齢のため最後の外遊と思われ、哲学科の学生ナディアは彼に興味を持ち、主著「実存と時間」を読んでいた。 さて、フランス屈指の…

笠井潔「黄昏の館」(徳間文庫) 遅れてきた正統派日本版ゴシックロマンス。複数あるらしい「黄昏の館」は入れ子状態。

宗像冬樹という作家がいる。この呪われた作家は「天啓」シリーズの重要キャラクターであるので、覚えておくこと。現在29歳で2年前に「昏い天使」という小説で新人賞を取り、ベストセラーになっていた。しかし第2作「黄昏の館」はタイトルのみ発表しているも…

笠井潔「エディプスの市」(ハヤカワ文庫) 1980年代に書かれた短編、ショートショート。

1980年代に書かれた短編、ショートショートを収録。 エディプスの市 ・・・ 地球壊滅状態のドーム型都市。母親と息子の同棲、娘の共同生活、サイココンサルタントだけが年の住人らしい。その都市の自己保存システム。家族を解体しても、性の衝動は残る。それ…

スタニスワフ・レム INDEX

2013/03/11 スタニスワフ・レム「エデン」(早川書房) 2013/03/08 スタニスワフ・レム「星からの帰還」(ハヤカワ文庫) 2013/03/07 スタニスワフ・レム「ソラリスの陽のもとに」(ハヤカワ文庫) 2013/03/06 スタニスワフ・レム「砂漠の惑星」(ハヤカワ文…

アレクセイ・パンシン「成長の儀式」(ハヤカワポケットSF)

アレクセイ・パンシンの「成長の儀式」(ハヤカワポケットSF)の舞台は、星間飛行をする宇宙船だ。地球は西暦二〇〇〇年頃に人口爆発とそれによる国家戦争で滅んでしまっている。人類はそれまでに開発していた二百あまりの殖民惑星と一六〇機の星間宇宙船(…

C・ダグラス・ラミス「経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか」(平凡社ライブラリ)

著者は1932年生まれ。1950年代にアメリカ海兵隊にいたそうな。除隊後の活動は解説に書かれていない。1980年にこの国の大学教授になり、退官後沖縄で執筆・講演しているとのこと。この本は2000年初出。911事件の前であり、サブプライムローン問題やリーマンシ…

アーネスト・カレンバック「エコトピア・レポート」(創元推理文庫) 60-70年代の「水瓶座の時代」を生きた人々の理想は反科学・反資本主義の共同体生活。

1970年代、サンフランシスコ周辺地域はエコロジスト党に率いられ、アメリカから独立を宣言した。経済制裁などを行ったにもかかわらず、エコトピア国は独立を保つとともに、ほぼ鎖国体制になった。以来約20年が経過し、エコトピアの状況が要と知れないので、…

ノーマン・スピンラッド「星々からの歌」(ハヤカワ文庫) 反科学・反資本主義・反権力の運動が夢みた地球外生命との交信可能性。

数百年前の<大壊滅>(どうやら世界全面核戦争らしい)によって、地球は荒廃し、人類のほぼ9割以上が死滅。カリフォルニア周辺がどうやら生存環境を残している。およそ数百人程度のコミューンが点在していて、細々とした交易をしている。中には<スペイサ…

ソムトウ・スチャリクトル「スターシップと俳句」(ハヤカワ文庫) タイ系アメリカ人から見た日本はクジラと同じくらい理解不能な異文化社会。

2001年に「千年紀大戦(今だったら「ミレニアム・ウォー」で通じたろうな)」が起きてほぼすべての生命が消滅(それなんて「エヴァンゲリオン」「AKIRA」)。わずかに生き残った人類からはミュータントが生まれているが、すぐに死亡する(それなんて「AKIRA…