odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2019-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ミステリー文学資料館 (編集)「大下宇陀児 楠田匡介: ミステリー・レガシー」(光文社文庫) 前者の「自殺を売った男」は傑作。頭の弱い男を知ったする自立した女性がううゆうと乗り越える。

発表されたのは戦後ではあるが、大下宇陀児は戦前から活躍している作家なので、戦前探偵小説に含めることにした。 大下宇陀児:自殺を売った男(1958)・・・ 愚連隊でクスリが手放せない俺は人生に飽きて自殺することにした。しかし未遂になり発見者の縁で…

木々高太郎「日本探偵小説全集 7」(創元推理文庫)-1「就眠儀式」「柳桜集」 医学部教授が戦前に書いた文学趣味と芸術至上主義の作品。

本名・林操(1898-1969)は慶応大学医学部の教授。本名で講談社現代新書に著作がある。デビューは1934年で、ペンネームは海野十三がつけた。戦前に甲賀三郎と探偵小説は芸術か否かの論争があり、木々は芸術派だった。その主張の実践が「人生の阿呆」や「折萱…

木々高太郎「日本探偵小説全集 7」(創元推理文庫)-2「わが女学生時代の罪」 多趣味で教養主義の医学部教授は多彩な知識を駆使したが、小説の技術にだけは欠けていた。

2019/08/29 木々高太郎「日本探偵小説全集 7」(創元推理文庫)-1 の続き。後半はおもに戦後作品。 永遠の女囚 1938.11 ・・・ モガ(モダン・ガール)が奔放な暮らしの後に家に戻ってきたが、小作人争議が起きたときに父を殺した。そういう娘には見えなか…

名作集 1「日本探偵小説全集 11」(創元推理文庫)-1 大正時代以前の探偵趣味の短編を収録。谷崎、菊池、芥川らのモダニストは探偵小説好き。

この巻と次の巻は、一人では一冊になるほどの作品を書いていない人たちの作品を集めた名作集。それぞれ多作であるのだが、「探偵小説」には入れない小説のほうが多い作家たち。 岡本縞堂 話もうまいが、何より目の詰まったコクのある文章。よい文章を読む快…

名作集 1「日本探偵小説全集 11」(創元推理文庫)-2 昭和初期の探偵趣味の短編を収録。好況期の日本人は西洋を相対化できる余裕をもっていた。

2019/08/26 名作集 1「日本探偵小説全集 11」(創元推理文庫)-1 の続き 後半は昭和にはいってから。探偵小説(推理小説よりずっと広いジャンルをカバー)の書き手が増えて、主に雑誌に小品を書いていた。さまざまな理由で長編を書かなかった人たちを集め…

名作集 2「日本探偵小説全集 12」(創元推理文庫)「船富家の惨劇」 「日本探偵小説史(中島河太郎)」は書肆情報が充実。

名作集2は昭和の探偵小説。職業探偵作家も複数人でて、「新青年」他の探偵小説雑誌が毎月刊行されていて、アメリカの長編・短編の探偵小説がおおよそリアルタイムで紹介されている。ジャンルが成立し、作家も読者も育ったころ。乱歩からすると、次世代の作…

岡田鯱彦「薫大将と匂の宮」(別冊幻影城) 失われた源氏物語の続きは探偵小説で、紫式部が探偵になるという趣向。書き方のまずさが読書の興を削ぐ。

初出(1955年)はこのタイトル。のちに「源氏物語殺人事件」に変更されて出版されたこともある。 自分が読んだのは1978年1月の別冊幻影城で。同時収録は「樹海の殺人」。別冊幻影城は一冊に探偵作家ひとりを割り当て、代表作を掲載した。戦前から昭和30年代…

岡田鯱彦「樹海の殺人」(別冊幻影城) 富士山麓の物理学研究所で起こる連続殺人事件。実直で真面目な作風で、トルストイや島崎藤村や志賀直哉が犯罪小説を書いている感じ

別冊幻影城「岡田鯱彦」特集の続きを読む。 富士山麓の樹海に近い村に構えた私設の物理学研究所。もと神職の中年男性・坂巻久が3年前に設立した。一人娘の久美子に、研究員である須藤と玉川、中学を卒業したばかりの書生・渋谷に小山田爺やが住み込んでいる…

渋澤龍彦「黒魔術の手帖」(河出文庫) 1960年代の悪魔学は神学論争を無視して、ミソジニーまみれ。

日本の悪魔学の始まりは本書をみると日夏耿之介。そのあと、入獄中か出獄後の埴谷雄高が独学で勉強したらしい。その次が、本書の著者になる。と見立ててみた。本書は1960-61年に連載されたエッセイを収録したもの。おりしも日米安保で世情騒然としているころ…

久生十蘭 INDEX

2019/08/06 久生十蘭「ノンシャラン道中記」(青空文庫) 1934年2011/06/03 久生十蘭「ジゴマ」(中公文庫) 1937年2019/07/29 久生十蘭「日本探偵小説全集 8」(創元推理文庫)「湖畔」「昆虫図」「ハムレット」他 1937年2019/08/05 久生十蘭「魔都」(青…

久生十蘭「ノンシャラン道中記」(青空文庫) 1934年の外国にいる日本人は「パリのアメリカ人」とおなじくらいに傍若無人で無責任。

ときは1929年。10年前の戦争の後、インフレに悩むフランスには多数の外国人が群がっていた。「パリのアメリカ人」というようなドルの威力に物申させて、なにもしないことを楽しむ。もちろん芸術家の卵もいて共同生活のうちに切磋琢磨も行う(彼らの才能が開…

久生十蘭「魔都」(青空文庫)-1 1935年軍事都市化した帝都で起こる「犯罪」は庶民のうっぷん晴らしとなり、アンチヒーローの魅力や輝きを発する。

題名「魔都」とははて面妖な。なるほど舞台は1935年の東京であるが、この実在した都市のどこが「魔」であろうか。作者の説明を聞いてみよう。 「この辺が、「東京」を称して一と口に魔都と呼び慣わす所以なのであろう。われわれの知らぬうちに事件は始まり事…

久生十蘭「魔都」(青空文庫)-2 皇帝不在の状況において皇帝を追いかける人々が、それぞれの思惑をもってやたらと空虚のまわりを動き回る。

2019/08/05 久生十蘭「魔都」(青空文庫)-1の続き 物語は1934年12月31日の日付が変わる深夜に始まり、28時間後の1935年1月2日午前4時に終わる。 安南の皇帝・宗竜王が日本名をもってひそかに来日していた。大晦日深夜のどんちゃん騒ぎをするモボやモガの群…

久生十蘭「キャラコさん」(青空文庫)-1 読者(都会の独身男性)の常識をもち同じようなモラルにある「キャラコさん」が上流階級にはいってほぼ孤立無援になり、その階級の異人にあう。

「キャラ子(剛子(つよこ))はキャラコ、金巾(かなきん)のキャラコのこと」だそう。あまり高価でないものをを身に着けている貧乏であるが(とはいえ父は陸軍少将)、しかし上流階級に出入りしているお嬢さん。こういう立場だとひくつになりそうなところ…