odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2016-06-01から1ヶ月間の記事一覧

イマヌエル・カント「啓蒙とは何か/永遠平和のために」(光文社文庫)-1

カントの政治哲学や歴史哲学の論文を読む。道徳論の難解さはここにはなくとても平易(下記にあるように翻訳のせいかもしれない)。楽しみながら高揚しながら読むことができました。まあ、素人であるおいらがカントの考えを正確に伝えられるはずもなく、解説…

イマヌエル・カント「啓蒙とは何か/永遠平和のために」(光文社文庫)-2

2016/06/30 イマヌエル・カント「啓蒙とは何か/永遠平和のために」(光文社文庫)-1 1795年 の続き つづいて「永遠平和のために」を読む。政治哲学ではあまり言及されることがないようだが(おいらの偏見)、別の分野の本で言及されることがある。この国では…

高橋源一郎×SEALDs「民主主義ってなんだ?」(河出書房新社) 「民主主義とは、意見が通らなかった少数派が、それでも、『ありがとう』ということのできるシステム」

SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)の活動は2015年12月末現在で進行中(2016年参院選終了後解散を予定)。前史から含めると2011年ころから活動を開始。その歴史をまとめるとのちにずれが出てくるだろうから、ここでは省略。個人的には前身のSASPL…

高橋源一郎「ぼくらの民主主義なんだぜ」(朝日新書) 「民主主義」を探す著者のクエストの経過報告。「自分を責めてはならない。明るく、前向きな気持ちでいることだけが、この状況から抜け出る力を与えてくれる」

著者はデビュー時から知っていてしばらく追いかけていた。デビュー前に全共闘運動に参加して逮捕されたり、町工場で騒音の中で働いていたりしたことを知った。でも、たとえばテレビ時評でタレントの分析をしたり、ファッションショーの批評をしたり、「追憶…

片岡剛士「円のゆくえを問いなおす」(ちくま新書) デフレと円高を止めるためにインフレターゲットをやろうというアベノミクス礼賛本。

1990年代初頭の「バブル経済」崩壊から20年(初出当時)。この国の経済は円高とリフレでにっちもさっちもいかない。どちらも経済に悪影響を及ぼし、産業の空洞化につながる。なんとかしなければ、ということで「円」を考える。 第1章 円の暴騰と日本経済 ・…

ショスタコービッチ INDEX

2016/06/23 ローレル・ファーイ「ショスタコービッチ」(アルファベータ)-1 2016/06/22 ローレル・ファーイ「ショスタコービッチ」(アルファベータ)-2 2016/06/21 ドミトリイ・ソレルチンスキー「ショスタコービッチの生涯」(新時代社)-1 2016/06/20 ド…

ローレル・ファーイ「ショスタコービッチ」(アルファベータ)-1 20世紀の新資料で、障害も作品も謎めいた作曲家を検討しよう。

ショスタコーヴィチのわかりにくさは、音楽作品のあまりの多面性(初期と晩年でずいぶん違うし、大規模作品と室内楽でも異なる)があるほか、友人にすら本心を明かさないかたくなさがあって、一方ソ連の社会主義リアリズムのスポークスマンでもあって……という…

ローレル・ファーイ「ショスタコービッチ」(アルファベータ)-2 革命と新芸術運動の渦中で若いDSは実験的思弁的技術的なモダニズム音楽を作る。

ドミトリー・ショスタコーヴィチ(以下DSとする)は1906年レニングラード生まれ。幼少の頃は特に神童エピソードはないが、6-7歳で音楽に関心を持った時、即座にピアノを弾けたというからすごい。13歳でグラズノフの推薦をうけてペトログラード音楽院に入学す…

ドミトリイ・ソレルチンスキー「ショスタコービッチの生涯」(新時代社)-1 最初の受難。スターリン体制期に非難され粛清される危機にあう。

著者のドミトリイは、DSが懇意にしていた音楽学者イワン・ソレルチンスキーの息子。イワンは若くして亡くなったが、DSはそのあとも家族と交友していて、ドミトリイもよく知っていたらしい。そこでDSの死後に編集・出版された。ヴォルコフ「ショスタコーヴィ…

ドミトリイ・ソレルチンスキー「ショスタコービッチの生涯」(新時代社)-2 WW2以後も文化統制の監視対象↓で公務を引き受けソ連の文化交流の代表になる。

スターリン批判があり、フレシチョフの雪解け政策があったとしても、ソ連社会はまだ堅苦しく、文化統制は続いている。1960年ころからのDSには二つの変化が訪れる。 ひとつは、公務をたくさん担うようになること。コンクールの審査員であったり(アメリカのヴ…

ドミトリ・ショスタコービッチ「ショスタコービッチ自伝」(ナウカ)-1 ソ連の監視社会ではDSのテキストはあたりさわりのないことばかり。あまりに簡潔に書き、音楽のようなイロニーやグロテスク風を持ち込まない。

1979年にヴォルコフの「ショスタコーヴィチの証言」がでた。その反響はとても大きかった。そのあとに、ソ連側からショスタコーヴィチの書いた文章を発表年ごとにまとめ、その年にDSに起きたことを説明する文章を加えた本がでた。それがこの「自伝」。原著は1…

ドミトリ・ショスタコービッチ「ショスタコービッチ自伝」(ナウカ)-2 DSが生きていた時代の「政治と芸術」論争はもはや無効。今は「思想・表現の自由」問題で考えるべき。

ここではDSを離れて、政治と芸術について。 ソ連共産党の考えは、経済体制の下部構造のうえにある芸術活動は下部構造の変化に対して積極的にかかわらなければならない。すなわち資本主義から社会主義への変化が歴史的必然であり、それが疎外された民衆、人民…

ソロモン・ヴォルコフ「ショスタコービッチの証言」(中公文庫)-1 60代のDSは右手の傷害と病気に苦しみ、友人たちは周辺から去って孤独になる。

まえがきによると、1960年ころにある音楽学生がDSと昵懇になり、家への出入りを許されるようになった、卒業後ジャーナリストになって、DSに頻繁にインタビューを行う。DSの話をメモに取り、適宜編集したものをみせると、DSは自分の文章としてよい、ただし発…

ソロモン・ヴォルコフ「ショスタコービッチの証言」(中央文庫)-2 本書は「病に襲われた者の語るいたましい臨終的打ち明け話(byファーイ)」

仮構されたショスタコービッチ=ヴォルコフの人格をDSと呼ぶことにして、DSの言うことを聞いてみよう。 DSは記憶の重要性をいう。というのは、ソ連の文化政策では一貫して、オーウェル「1984年」のように歴史は書き換えられるもので、粛清や虐殺は記録されず…

ジェイムズ・ケイン「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(新潮文庫) 相手を裏切ることも憎しみをむき出しにすることも愛の強度を高めるための手段。

24歳の若者フランクは、各地を渡り歩き、小銭を稼いだり、警察や土地の者に追い出されたりしながら暮らしていた(こういうのをホーボーというのだっけ。かつては1960年代のヒッピーと比較された)。ふらっと立ち寄った安レストランで亭主に声をかけられ、住…

リリアン・ヘルマン&ダシール・ハメット INDEX

2016/06/10 ダシール・ハメット「フェアウェルの殺人」(創元推理文庫) 1923年 2016/06/9 ダシール・ハメット「スペイドという男」(創元推理文庫) 1926年 2016/06/8 ダシール・ハメット「血の収穫」(創元推理文庫) 1928年 2016/06/7 ダシール・ハメット…

ダシール・ハメット「フェアウェルの殺人」(創元推理文庫) ハメットは都市労働者や平公務員らに降りかかる社会悪を摘出するために探偵する。

ダシール・ハメットは1894年生まれ。従軍と探偵社勤務の経験があり、結婚生活が破たんしてから、広告の仕事をしながら、短編を書きだした。発表誌は当時読まれたパルプ雑誌。そのころの初期短編を集めたもの。 コンチネンタル探偵社サンフランシスコ支局に勤…

ダシール・ハメット「スペイドという男」(創元推理文庫) ハメットの探偵は警察に一目置かれないしリスペクトもされない。権力の庇護を受けない探偵は社会への不満や人生の鬱屈を聞かされる。

サム・スペイドの登場する短編3つを収録。スペイドの登場するのは、これに加えてあとは「マルタの鷹」だけ。 スペイドという男 1932.07 ・・・ 江戸川乱歩「世界短編傑作集 4」(創元推理文庫)に所収。絞殺された死体のうえには薔薇十字会の紋章を書いた…

ダシール・ハメット「血の収穫」(創元推理文庫) ハメットが持つ労働者や貧困者、病人など虐げられた人々への視線はチャンドラーやロスマクには継承されなかった。

鉱山町パーソンヴィルは別名ポイズンヴィル(毒村)。エリヒュー・ウィルソンが開祖で、市のすべてを牛耳っていた。1921年の不況の年、労働争議が盛んになったので、暴力団を雇って鎮圧したのだが、根を張った暴力団は市を好き放題にしている。エリヒューも…

ダシール・ハメット「デイン家の呪」(ハヤカワポケットミステリ) 名無しの探偵は事件に巻き込まれた娘の麻薬中毒を治すために、数日ホテルに一緒に閉じこもる。

タイトルからすると、1920年代アメリカの探偵小説黄金時代によくあるような通俗スリラーみたいなものを連想する。実際のところ、風俗こそ当時の最新のものではあるが、案外意匠は古めかしい。コンチネンタル探偵社の名無しの探偵である「私」がある一家に呼…

ダシール・ハメット「マルタの鷹」(ハヤカワ文庫) スペードは事件の渦中にあって、容疑者と被害者と探偵の役割を引き受ける。客観的・合理的な探偵小説の「解決」は彼にはできない。

共同で探偵事務所を開いているサム・スペードのもとにワンダリーと名乗る女性が訪れた。妹が駆け落ちしたので見つけてほしい、ホテルにいる駆け落ち相手を監視するのがよいという。相棒が依頼者と出ていった翌朝、射殺された相棒が見つかる。続けて駆け落ち…

ダシール・ハメット「ガラスの鍵」(創元推理文庫) 市政や有権者の腐敗や堕落は放置するにしろ退治するにしろうっとうしいが、放置しておくとごちそうときれいな寝床は使えなくなる。どうしますか?

州都ほど大きくはないが、数十万人の人口のありそうな1920年代アメリカの田舎都市。市長、地方検事局は選挙で選ばれているのが、実質的な権力者は黒幕ともいえるギャングのボスであった。土建会社をトンネル会社にして、公共事業の受注を一手に引き受けると…

ダシール・ハメット「影なき男」(ハヤカワポケットミステリ) 婦人雑誌に連載された「やせっぽち」の探偵物語は映画になって大ヒット。ハメットはそれで筆をおく。

原題「The Thin Man」は直訳すると「やせっぽち」。でもここでは「影なき男」とされている。すなわち原書が1934年に出版されたあと、ハリウッドで映画化された。ウィリアム・ポールとマーナ・ロイの主演した映画(どんな俳優なんだろう)がおおあたり。数本…

ジョー・ゴアズ「ハメット」(角川文庫) 過度の飲酒癖を持つハメットがマルチタスクでよろよれになりながら、サンフランシスコを走り回る。

19世紀後半のアメリカの資本主義の発達はたくさんの大金持ちを生んだが、その中にはギャングやマフィアと組んで市政を牛耳るものがあった。そのために多くの大都市は不正と横領と賄賂の横行(羽仁五郎「都市」岩波新書が詳しかった。引用ばかりだったけど)…