odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2019-06-01から1ヶ月間の記事一覧

法月綸太郎「密閉教室」(講談社) 祝福される恋愛も男たちの努力も友情もないが、知的エリート候補たちの青春はとてもリアル。

1988年に出た著者デビュー作。同時期に「新本格」のデビュー作をいろいろ読み漁ったが、継続して読み続けたいと思う新人作家はこの人以外見つからなかった。結局、継続して新作を追いかけたのはすでに数作を発表していて内容が衝撃的だった笠井潔と竹本健治…

法月綸太郎「雪密室」(講談社) エリートやブルジョアが登場するスノッブなフィクションは、当時のバブルの雰囲気を濃厚に反映

法月警視は一週間の休暇を取って、信州の山荘にでかけた。ある有名な女性から招待状を送られたからだ。その山荘には、将来を嘱望されて隠遁した元官僚(すぐれたプログラマだった)とその弟(出世の期待されたエリート官僚)。元官僚の前の妻とその夫(執事…

法月綸太郎「誰彼」(講談社) ミステリ好きがミステリ好きのために書いたミステリ。バブル時代にあった「砂漠」や「交通空間」を探偵は見逃す。

昭和の終わりに急速に信者を増やしてきた「汎エーテル教団」。その教組に脅迫状が届いている。極秘裏に進めている教組への養子縁組に対する警告であり、教組の死を予告しているのだ。教組の秘書に依頼された法月名探偵は、教組が塔にこもるのを見送る。72時…

法月綸太郎「頼子のために」(講談社) 「ロス・マクドナルドの主題によるニコラス・ブレイク風変奏曲」。探偵は利害関係のない第三者になりたいのに他人の人生を変えてしまい苦悩する。

政治史?の教授・西村悠史の手記が提示される。それによると、17歳の娘・頼子が深夜家に帰らず、翌朝絞殺死体となって発見された。類似の事件が多発していたことから、警察は通り魔事件で片付けられようとしている。悠史は納得できず、独自に調査を開始。頼子…

法月綸太郎「一の悲劇」(祥伝社) ネットも携帯電話もない時代の誘拐小説。子ども奪還のために奮闘する父は自己中心的でミソジニーの持主。

都内の中堅広告代理店でマネージャーになった山倉史郎。その息子が誘拐された。しかし実際に誘拐されたのは息子の同級生。身代金を要求されたので、警察が代理になることを断り、自分で行くことにする。調布から八王子の周辺をあちこち行き来したあとに受け…

法月綸太郎「ふたたび赤い悪夢」(講談社)-1 他人を助けたいと思うが、その行為をすると他人を傷つけてしまう(と思い込んでいる)人たちの物語。セリグマン教授の代わりに柄谷行人の本が探偵を慰める。

「頼子のために」の事件から半年。最後の決断のあと、探偵は深刻な懐疑にとらわれる。仕事はできず、事件に関与することもできない。まあ、自傷が高じて、社会性を失っているとでもいうか。 深夜、「雪密室」の事件の関係者であり、現在はアイドル活動中の畠…

法月綸太郎「ふたたび赤い悪夢」(講談社)-2 躓いた名探偵は柄谷行人の本に慰められるが、探偵はその職務上〈砂漠〉にも〈他人〉にも出会えない。すぐ横にあるのに。

2019/06/20 法月綸太郎「ふたたび赤い悪夢」(講談社)-1 1992年の続き ここでは探偵の役割について考えている。誤った推理で無実の人間に冤罪を押し付けることがあるのではないか、正しい推理で真犯人の私的制裁をしてもかまわないのか。事件が進展中のとき…

法月綸太郎「二の悲劇」(祥伝社) 自分と他人をわける「二」。「わたし」と「きみ」は分割可能なのか。

見かけは単純だった。OLが殺され、顔を焼かれて放置される。ルームメイトの女が逃亡している。彼女を捕まえればいい。法月に相談が来た事件の概要はこんなことだった。奇妙なのは、殺された女が鍵を飲み込んでいたこと。おもちゃのような鍵を使うものは部屋…

法月綸太郎「生首に聞いてみろ」(角川文庫) 緊密で情深い家族や恋人の関係がアナクロになった時代に、家族は解体しているのだよといわれてもねえ。 

法月綸太郎にひさびさの事件が起きたのは1999年。法月も30代半ばになっている(2004年初出)。 高名な彫刻家・川島伊作は長年実作から遠ざかっていたが、ほぼ20年ぶりに新作を出すことになった。娘の江知佳(エチカ)の全身を石膏で型取りして、一体の像にす…

法月綸太郎「しらみつぶしの時計」(祥伝社) 小説に関する小説。潜行作品を探すブッキッシュな楽しみと知的蕩尽。

2008年にでたシリーズキャラクターの出てこない短編集。クライムストーリーに、ファンタジーに、パロディ・パスティーシュにと、趣向の異なる短編が収録。 使用中 1998.06 ・・・ スタンリー・エリン「決断の時」を使った密室殺人の構想を懸命に説明している…

法月綸太郎「キングを探せ」(講談社文庫) 都筑センセーが書かなかった退職刑事の長編版みたいな交換殺人テーマの長編。

カラオケ店にイクル君、カネゴン、りさぴょん、夢の島の4人の男が集まる。彼らはそれぞれ殺意を抱いている相手がいるが、そのまま実行しては足がつく。でも、互いに交友関係もないなかで交換殺人をすれば、露見しないはずだ。それもふたりではなく、4人で行…

法月綸太郎「ノックスマシン」(角川文庫) 探偵小説を語るためには探偵小説がかかれた社会を再現するしかないのか。袋小路に入って自作パロディだけになっている探偵小説の最前線。

「そうそう、こういうのを読みたかったんだよ」というすれっからし、ファン、マニアの声が聞こえそう。おれも数ページを読んだだけで、これは俺の求めていた本だと確信した。過去に作者の本はでるたびにすぐ読んでいたが、このところ離れていた。久しぶりに…

エドガー・A・ポー INDEX

エドガー・A・ポー INDEX

エドガー・A・ポー「ポー全集 1」(創元推理文庫)-1「壜のなかの手記」「ハンス・プファアルの無類の冒険」ほか

ポオの全集は高校生のときに、谷崎精二訳で全部読んだはずだが、中身の記憶がない。創元推理文庫で全集になったのは僥倖で、すぐに購入した。他の文庫と違ってカバーに豪華な紙を使っているのに、作者の権威を感じた。 全集1巻は1830年代に書かれたもの…

エドガー・A・ポー「ポー全集 1」(創元推理文庫)-2「メルツェルの将棋差し」「ペスト王」「影」ほか

いまさらながらだけど、ポオの生年は1809年。デビューは「メッツェンガーシュタイン」1832年。この全集第1巻には同年の作も多数収録されている。ということは、23歳で書いたのかい! なんという早熟。なんという博識。なんという幻視力。あまりの能力と多彩…

エドガー・A・ポー「ポー全集 1」(創元推理文庫)-3「アッシャー家の崩壊」「ウィリアム・ウィルソン」ほか

佐伯彰一はこの巻の解説で、パロディスト、ほら話作者としてのポオに焦点をあてる。 メッツェンガーシュタイン 1832(1836.10) ・・・ タイトルの貴族と、ベルリフィッツィング家とは長年の確執があり、不吉な予言が両家に残されていた。メッツェンガーシュ…