odd_hatchの読書ノート

エントリーは2800を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2022/10/06

2012-05-01から1ヶ月間の記事一覧

吉田秀和「音楽の旅・絵の旅」(中公文庫)

中年を過ぎた時に敗戦になり、しばらくして渡航が制限付きでもできるようになったとき、この評論家は1954年のヨーロッパにでかけた。ニューヨークのトスカニーニとセル体験、パリのフルトヴェングラー体験などあっても、バイロイト音楽祭が中心であったのだ…

吉田秀和「音楽紀行」(中公文庫)

1953年から54年にかけてアメリカと西ヨーロッパを見聞した記録。占領状態が終わって海外渡航が可能になったとはいえ、外貨の持ち出しに制限があったり、通貨レートが高すぎるなどして、まだまだ国を出るのが難しかった時代。海外情報を得るには、こうした選…

吉田秀和「レコードのモーツァルト」(中公文庫)

所収のエッセーが書かれたのは1972年から1974年にかけて。こうして再読すると、その時代がクラッシック音楽の演奏と需要に変化をもたらしていたことがわかる、1980年以降の古楽器ムーブメントからするとインパクトの小さいものであったかもしれないけれど。…

【追悼】吉田秀和「ブラームスの音楽と生涯」(音楽之友社)

クラシック音楽評論の第一人者で、文化勲章受章者、水戸芸術館館長の吉田秀和(よしだ・ひでかず)氏が22日午後9時、急性心不全のため神奈川県鎌倉市の自宅で死去した。 98歳。24日に密葬が執り行われた。 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=2012052…

小宮山宏「地球持続の技術」(岩波新書)

持続型社会のあり方を科学技術の面から提起した啓蒙書。エネルギー保存則程度の科学知識で資源やエネルギー問題の解決方法を提示している。これまでこの種の本では必ず「エントロピー」が登場し、その理解に苦しむものだが、ここでは一切使っていないという…

中西準子「下水道」(朝日新聞社)

著者は東京大学工学部の助手(当時)で、宇井純の同僚ということになる。 通常、工学部の教員が啓蒙的な本を書くとなると、自分の専門分野に特化したものになりがちであるが、著者は1980年前後にいくつかの地方都市から下水道計画のアセスメントを行うよ…

松下竜一「砦に拠る」(講談社文庫)

1958年、大分県と県境にある小国町の集落にダム建設(下筌(しもうけ)ダム)の話が起きた。なんとなればその前年の未曾有の大雨が筑後川を氾濫させ、久留米市などで死者150名余をだす大災害となり、治水のために上流のダム建設が必要とされたからだった。こ…

宇井純「公害の政治学」(三省堂新書)

1968年に出版された新書。多くのページは水俣病の発生から1968年当時までの状況を主に新聞記事を使って紹介している。著者は1961年ころから個人的に水俣病の調査を始めているのだが、ここでは極力個人的な体験を後ろにおいている。新聞記事や委員会報告書な…

宇井純「公害列島 70年代」(勁草書房)

1970年から1972年にかけて書かれた雑誌論文、コラムなどを収録。初出雑誌には「蛍雪時代」「朝日ジャーナル」「思想の科学」「現代の眼」などが並ぶ。最初のを除き、著者のような在野の思想家ないし運動家に文章を書かせ発表するというメディアはなくなった…

宇井純「キミよ歩いて考えろ」(ポプラ社)

初読が1980年2月5日。この日に著者が大学にきて講演したのだった。もちろん大学の主催であるわけではなく、学生が呼んだのだった。その席で、販売されたばかりのこの本を売っていた。買ってその日に読んだのだった。だから、この本には著者のサインがついて…

【追悼】ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ

【ベルリン=共同】ドイツの世界的なバリトン歌手、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ氏が18日、南部ミュンヘン近郊の自宅で死去した。86歳だった。DPA通信が伝えた。詳細な死因は明らかにされていないが、同氏の妻は「安らかに永遠の眠りについ…

都留重人「現代資本主義と公害」(岩波書店)

1968年の刊行。都留重人のほか、数名の学者による共著。特徴的なことは、科学の研究者、政治に関係する人ではなく、主に経済学者が取り組んでいるということ(ちなみにマルクス主義経済学者は入っていない)。 公害研究の古典という位置づけ。おそらくこれほ…

梅棹忠夫「生態学入門」(講談社学術文庫)

1951年に「思想の科学」研究会が新しい知識の百科事典を作ろうとしたのがきっかけ。当時の最新の学問である生態学の項目をつくるために、鶴見俊輔が梅棹忠夫に相談したのが始まり。梅棹忠夫が所属していた京都大学の研究者を中心に生態学の項目が記述された…

エリック・エックホルム「失われゆく大地」(蒼樹書房)

著者は当時28歳のジャーナリストで、NPO(当時そういう名称はなかった。環境保全を行う非営利団体)に所属。彼が指摘している「失われゆく大地」の現状は、砂漠の拡大、高地の土壌流出、燃料用薪の切り出しによる森林破壊、灌漑による土壌の塩分蓄積と…

山口昌男「流行論」(朝日出版社)

週刊本の第1冊。ここから始まったが1年もたたずに終えた。この本では最初の章が語りおろしで、残りは雑誌に掲載された論文なのだろう。論文のテーマが雑獏なので、最初の語りでまとめを付け加えたといえる。 流行論 ・・・ 共同体に流行が生まれるのは、差…

秋山さと子「メタ・セクシュアリティ」(朝日出版社)

著者は1923年生まれのユング派の学者。1960年代にチューリッヒのユング研究所に留学。筆が立つので、いろいろな啓蒙書を書いた。講談社現代新書のを読んだことがある。ラジオ番組を持っていて、長年のリスナーもいるかな。 半分は、女性視点でみた精神分析の…

岡田節人「細胞に刻まれた未来社会」(朝日出版社)

岡田節人は京大で細胞学を研究していた。当時の細胞学者としては最も名の知れた人だった。この人は筆の立つ人で、ブルーバックスに岩波新書に各種の啓蒙書を書いていたからかもしれない。いくつか読んだことがある。1985年に退官した。その直後に、イン…

岸田秀「希望の原理」(朝日出版社)

一時期(1970−80年代)、作者の本はよく読まれたなあ。学生の部屋にはたいてい一冊転がっていたのではないかしら。とはいえ1990年代中ごろから名を聞かなくなって、どうしたのかねえ。なにやらスキャンダルがあったようだが、興味はないので調べない。 週刊本…

四方田犬彦「映像要理」(朝日出版社)

週刊本の一冊。著者のもとにフランスの友人から稀覯本が送られた。そこにあったのは、ある女性の性器を映した100枚の写真を集めた「とある女性の性器写真集成百枚 ただし、二千枚より厳選したる」という写真集。発行された1984年では、まだビニ本・裏本はあ…

四方田犬彦「電撃フランクチキンズ」(朝日出版社)

自分の読書の記録だと2010年に最初に読んだことになっているけど、本当は1985年にたぶん日本橋・丸善で買って即日で読んだのだよ(あれ、府中市の駅前書店かな、どっちでもいいや)。 1970年後半にロンドンに渡った20代半ばの女性二人が、とある書店でふと出…

フェリックス・ガタリ/田中泯「光速と禅炎」(朝日出版社)

浅田彰「構造と力」でフランスにはドゥルーズとガタリと言う難解な思想家がいて、1972年に「アンチ・エディプス」という本がでたらしいということを知った。読んでみたいなあと思いながらも法政大学出版局とか朝日出版社ででているのはあまりに高価で手が出…

磯崎新「ポスト・モダン原論」(朝日出版社)

1985年刊の週刊本の一冊。 ポスト・モダニズムというのは、もともと建築学あるいは建築設計現場の人たちから生まれたわけで、それが現代思想の一潮流になったのは、デリダ・ドゥルーズ・ガタリなどのフランス思想の紹介者たちがいいだしたから。あれ、リオタ…

小田晋「グリコ・森永事件」(朝日出版社)

1985年月ころの刊行。前年のグリコ・森永事件について、犯罪心理学の著者が語った話をまとめている。 事件の経緯のうち注目点は、3つかな。グリコ社長の誘拐、市場に流通している商品に毒物を混入させてほとんどすべての人を人質にする、数多くの脅迫文をマ…

天野祐吉「巷談コピー南北朝」(朝日出版社)

週刊本の一冊。 広告ができるようになったのは、貨幣経済と商品流通市場ができ、かつ大量に購入する消費者が生まれてから。日本では、元禄の平賀源内その他の戯作者たちが開祖。このときは、商品そのものではなく、商品を使用したときのイメージを伝えるよう…

丹生谷貴志「天使と増殖」(朝日出版社)

1985年から数年間、朝日出版社から「週刊本」というシリーズがでていた。コンセプトは企画から出版までを極めて早くしようというもの。雑誌のような流行を追うのではなく、ある程度の問題をもって、いろいろ考えをめぐらしているものに2時間ほどインタビューあ…

高木桂蔵「客家」(講談社現代新書)

ヨーロッパに対してユダヤ人を、アメリカに対してWASPを対置させると、政治・経済・文化を理解するときの有効な補助線になる。同じように、中国に対して客家(ハッカと読む)を対置させると、この国を理解するのに有効だ。ここらへんのみたては独自研究な…

興梠一郎「現代中国」(岩波新書)

そういえば毛沢東が死ぬまでのことは何冊か読んでいたが、その後の中国のことを知らないと思ったので、古本屋で中国関係の本をまとめて購入。一冊105円で、4冊合計420円。定価で買うとこの6倍くらいか。ありがたや。 「訒小平の遺産」は1995年刊。毛沢東死後…