odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2021-03-01から1ヶ月間の記事一覧

色川大吉「日本の歴史21 近代国家の出発」(中公文庫)-1 明治政府の目論見は、開明的な絶対主義君主制にすること。上からの資本主義化を進め、軍隊を強化すること。

徳川幕府をクーデターで打倒した下級武士連中。「明治維新」と御大層な名代をあげたが、さっそく二派に分裂して、永久革命志向の西郷派を弾圧、殲滅する。それと同時に、「維新」の元勲として大政治家であった大久保、桂が死去して、リーダーを失ったのであ…

色川大吉「日本の歴史21 近代国家の出発」(中公文庫)-2 ヨーロッパの帝国主義競争が激しくなったので西洋列強は日本に介入する余裕がなかった。その間に現在にまで通じる日本の「精神」が形成された。

2021/03/30 色川大吉「日本の歴史21 近代国家の出発」(中公文庫)-1 の続き この時代に西洋諸国が日本に介入することが少なかったのは、ヨーロッパでの帝国主義競争が激しくなったため。英ロ、普仏の間に戦争があり、植民地での紛争も頻繁に起きていた。そ…

井上幸治「秩父事件」(中公新書) 1884年、借金帳消し、減税等を求める貧困農民らの組織的な武装蜂起事件。

日本史を勉強していて困惑するのは、市民蜂起がほとんど現れないこと。なるほど日露戦争の停戦協定後の暴動や米騒動、1970年の国際反戦デーなどが散見されるが、これらは一時的な騒乱で組織もリーダーもない。警察や軍隊が出動するとすぐに収まった。そうす…

隅谷三喜男「日本の歴史22 大日本帝国の試練」(中公文庫)-1 大日本帝国憲法発布(1889年)から明治天皇の死(1912年)まで。朝鮮半島と満州への侵略が始まる。

大日本帝国憲法発布(1889年)から明治天皇の死(1912年)まで。だいたい司馬遼太郎「坂の上の雲」と一致する時代を描いているが、司馬の小説は記述漏れが多く、小説の通りに近代国家が強化されたとみてはならない。多くの保守論陣はこの時代を懐かしむので…

隅谷三喜男「日本の歴史22 大日本帝国の試練」(中公文庫)-2 藩閥は工業化を目指し、国民の大多数である農民から税金を取り上げて、工業とインフラ整備に投資する。

2021/03/25 隅谷三喜男「日本の歴史22 大日本帝国の試練」(中公文庫)-1 の続き 明治維新のあと、絶対君主国家を作りたいと思う士族グループ(藩閥)は、工業化を目指すが、そのための資金がない。そこで国民の大多数である農民から税金を取り上げて、工業…

石川啄木「評論集」(青空文庫)

石川啄木の創作にはほとんど興味はないが、彼の評論などを読む。青空文庫に収録されているものから、それらしいのを適当に選択した。 渋民村より 1904 ・・・ 4/28、29、30、5/1の岩手日報に掲載。啄木19歳。日露戦役が開かれて緒戦の勝利(露軍の戦略的後退…

木村靖二「第一次世界大戦」(ちくま新書)-1 国民国家同士の戦争は、勝敗を決することが難しくなり、国家の領土(特に政府機能のある都市)を占領するか、政府が降伏を宣言するかしかない。

日本人は第一次世界大戦(名称は揺れ動きあり)になじみがない。戦闘に加わらず、大戦景気で好況にあったから。「最小のコストで最大の利益を上げた」と言われるゆえん。しかし欧州各国にとっては、ナショナルアイデンティティにかかわる重要な戦争であった…

木村靖二「第一次世界大戦」(ちくま新書)-2 戦争終結後、列強のバランスから対等な国家の国際関係にな、帝国から国民国家になり、国民が政治参加するようになり、福祉国家・社会国家になる。

2021/03/19 木村靖二「第一次世界大戦」(ちくま新書)-1 2014年の続き 1917年は重要な転機。 ひとつはロシア革命。この年の2月革命でロマノフ朝が倒される。きっかけは都市民による食料要求デモだった。ロシアは食糧輸出国で国内の備蓄は潤沢だったが、軍隊…

今井清一「日本の歴史23 大正デモクラシー」(中公文庫)-1 1913年から1925年にかけて。日本が「ネトウヨ化」していく過程。

1913年から1925年にかけて。大正時代を扱う。タイトルは「大正デモクラシー」であるが、そこにフォーカスしてこの時代を見るのは危険。21世紀の10年代の言葉でいえば、日本が「ネトウヨ化」していく過程となる。すなわち、政・官・財がそろってネトウヨ化し…

今井清一「日本の歴史23 大正デモクラシー」(中公文庫)-2 軍や官僚が政・官・財の暗黙の了解を取り付けて、植民地や軍隊駐屯地でさまざまな策謀をめぐらした。

2021/03/16 今井清一「日本の歴史23 大正デモクラシー」(中公文庫)-1 の続き 大正時代には、軍や官僚が植民地や軍隊駐屯地でさまざまな策謀をめぐらした。その名をみると、東京軍事裁判で起訴された軍人や政治家(吉田茂もいた)の名前が頻出する。彼らは…

吉村昭「関東大震災」(文春文庫) 近代日本では未曽有のジェノサイドである朝鮮人等の大虐殺。

関東大震災の被害は、小沢健志「写真で見る関東大震災」(ちくま学芸文庫)で。odd-hatch.hatenablog.jp と言いながら、テキストでないと伝わらない情報もある。本書の指摘を抜き書きで。 ・震災による家屋の倒壊や火災(出火の原因は薬品由来という。学校、…

小沢健志「写真で見る関東大震災」(ちくま学芸文庫) 震災直後に撮影された写真で被災地別の状況を把握。国の支援はいつも不足していて、支援策の失敗が重大な問題に波及した。

初出2003年は関東大震災から80年目(阪神大震災から8年目)。その節目の年に編集された。震災記念館(だったか?)の設立準備中に、震災直後に撮影されたネガフィルムと焼き付けが大量に見つかった。それまでは引用で見ていた写真のオリジナルが発見されたの…

江口朴郎「世界の歴史14 第一次大戦後の世界」(中公文庫)-1 ヘイトスピーチが蔓延する素地を作った時代。大企業優遇、保護経済、移民制限などの政策がナショナリズムや反共のプロパガンダと呼応して、民族差別や人種差別を誘発し、民衆・大衆に定着させる。

松田道雄「世界の歴史22 ロシアの革命」(河出文庫)の記述がほぼロシアに限定されていたので、こちらので20世紀初頭(1914-1929年)までの状況を確認する。 重要なできごとは第一次大戦(WW1)。三国協商と三国同盟の対決とされるが、むしろ19世紀の帝国主…

江口朴郎「世界の歴史14 第一次大戦後の世界」(中公文庫)-2 1920年代の好景気は国際協力の場が作れ、1930年代の不況はブロック経済の確立で対外侵略とヘイトクライムの多発を産み、大量殺戮に至る。

2021/03/09 江口朴郎「世界の歴史14 第一次大戦後の世界」(中公文庫)-1 の続き 第一次大戦(WW1)はおもにヨーロッパと大西洋で戦われたので、東アジアは政治的・経済的な空白ができた。そこに入り込んだのが日本。日露戦争のあと、帝政ロシアと協力関係に…

林健太郎「両大戦間の世界」(講談社学術文庫)-1 WW1はオランダ・ベルギー・フランスの西部戦線と、ポーランド周辺の東部戦線と、ギリシャ・セルビアのバルカン戦線の3つが主要な戦場。戦後復興に差が出た理由。

原著は1966年(ということは1913年生まれの林健太郎が53歳の時の著作)。1976年に講談社学術文庫に収録。もとは文芸春秋の「大世界史」第22巻。この後に1930年代を書いた本があるので、記述は1933年まで。多くの戦間期の本は1933年のナチス政権以後にフォー…

林健太郎「両大戦間の世界」(講談社学術文庫)-2 社会不安の時代に自由主義は結集軸にならず、労働者・下層階級は社会主義かナショナリズムに結集する。

2021/03/05 林健太郎「両大戦間の世界」(講談社学術文庫)-1 1976年の続き WW1の総力戦は、動員された労働者、下層階級の力を大きくする。専制国家が打倒されたこともあり、貴族政は後退(貴族が資産を失ったのも大きい)。戦後はインフレと帰還兵士の失業…

大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-1 1926年から1936年までの昭和ゼロ年代。象徴的な事件もカリスマ的な人物もいないうちにファシズム体制が完成。

1926年から1936年までの昭和ゼロ年代。大正デモクラシーは「内には民本主義、外には帝国主義」であったが、この10年間で内はファシズムになった。 驚くべきことは、ファシズム体制が完成するまでに、象徴的な事件もカリスマ的な人物もでてこないこと。メルク…

大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-2 意思決定のプロセスが複雑で、決定の責任がどこにあるかわからない日本ファシズムの無責任体制が完成。

2021/03/02 大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-1 の続き 20世紀前半の国内政治がわかりにくいのは、元老だの元老院だのがあり、選挙で選出されていないものが政治的な決定を下すことができ、首相にいたっては天皇の裁可がないと組閣がで…