odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2014-06-01から1ヶ月間の記事一覧

舟崎克彦「野ウサギのラララ」(福音館書店「母の友」連載) 初版はキャラが行動的で、ドラマはアクションでもってすすめられる動的な語り口で、自分にはこっちが好ましい

KINDLEやipadを購入したので、「母の友」をPDF化した。そして「母の友」連載版による「野ウサギのラララ」を作成した。これでいつでも初出を読めるようになった。あいにく連載第4回が欠けている。まずは、1970年代の母親向け雑誌の表紙をご覧ください。 とい…

舟崎克彦「野ウサギのラララ」(理論社ライブラリ) 記憶を失って現れ、自分とは何かを探すというのは、実のところ、人生の比喩そのものではないか。

記憶を失ったウサギの男の子が一人。岸に打ち上げられている。目を覚まし、島の奇妙な友人達といっしょに生活を開始する。春夏秋冬それぞれに事件が起こり、彼は島の重要な人物になっていく。彼の記憶は取り戻せるのか・・・・ ミステリーやホラーによくある…

斎藤惇夫「冒険者たち」(講談社文庫)

イエネズミを追い出し理想の住居をドブネズミのガンバは手に入れていた。安楽で平安な日々。ただ、心は鬱々としていたがどうしてよいかはわからなかった。隣人のマンプクが港町でネズミの饗宴があると誘われ、不承不承出立することにした。ガンバ本人は帰宅…

斎藤惇夫「グリックの冒険」(講談社文庫)

「飼いリスのグリックは,ある日,北の森で生き生きと暮らす野生リスの話を聞き,燃えるようなあこがれをいだきます.カゴから脱走したグリックは,ガンバに助けられ,動物園で知りあった雌リスののんのんといっしょに,冬の近い北の森をめざします….日本児…

大石真「チョコレート戦争」(講談社文庫) 通俗的な教訓や道徳を提示しない。子供らに問題を提示して、行動のあり方やモラル、エシックスを考えさせる。

小学生の時に「教室205号」を読んで以来の著者との再会。著者が職業作家になるきっかけの作品で、1965年に初出。 チョコレート戦争 ・・・ 地方都市に金泉堂という洋菓子店がある。その洋菓子は子供の憧れで、大人が子どもに言うことを聞かせるための道具。…

フィリパ・ピアス「トムは真夜中の庭で」(岩波少年文庫) すれっからしになった中年以降が読んだほうがいい郷愁の児童文学。

トムは落胆していた。夏休みが始まったというのに、ロンドンでははしかが流行し、弟のピーターが感染してしまったのだ。そのため、ロンドンの北にある叔父さんの家に滞在することになった。その町でもはしかの小規模な感染があり、トムは外にでることができ…

イタロ・カルヴィーノ「マルコヴァルドさんの四季」(岩波少年文庫) 読者の隣人であるマルコヴァルドさんの運の悪さに憐憫を感じながら、笑いのあとに背筋の寒くなる思いをする。

マルコヴァルドさんは都会に住む人夫(倉庫勤務の工員だ)。奥さんと4人の子供が狭苦しい家に住んでいる。彼が得意なのは街中に自然の息吹を見つけることだが、それに感心するひとはいない。自分や他人のために良かれと思って行ったことは、たいてい失敗する…

アントワーヌ・サン=テグジェベリ「星の王子」(岩波少年文庫) 「星の王子」は高度3000-5000mくらいを時速200-300kmで高速移動する場所で考える「人間」。憂い顔の王子は他人とコミュニケートできない。

自分はサン=テグジェベリの良い読者ではなくて、久しぶりの再読でもこの童話には感心できなかった。 この人は飛行士であって、黎明期(1920−30年代)の夜間飛行を行うくらいの冒険野郎だった。当時のこととて、レーダーはないし、航空管制もないし、地図も満…

江戸川乱歩「鉄塔の怪人/海底の魔術師」(講談社文庫) 鉄塔王国はこの国の急激な工業化・電化に対する恐怖のシンボル。少年は機械の奴隷である工場労働者になることにおびえる

戦後になってから書かれた少年向けの明智探偵冒険譚。 鉄塔の怪人 ・・・ 白髪の老人がのぞきめがねを見せた。奇怪な鉄塔とカブトムシ。その翌日から、荻窪(周囲に民家のない閑静地)に住む高橋家に奇怪な事件が起こる。一千万円を鉄塔王国に寄付せよ、さも…

江戸川乱歩「怪人二十面相」(講談社文庫) 永遠に決着がつくことがない明智小五郎と小林少年と怪人二十面相の嫉妬の三角関係がここから始まる。

1980年までに小学校を卒業した人には、江戸川乱歩の児童読物の読書体験があるみたい。おどろおどろしい表紙に、奇怪な犯罪とその謎解きに魅了されたのかな。自分はあいにく江戸川乱歩体験をもっていないので(かわりに戦記ノンフィクションとファンタジーを…

新美南吉「牛をつないだ椿の木」(角川文庫) 弱いものが強いものの憐憫や同情に感謝するよう要請される童話。豪傑君(中江兆民「三酔人経綸問答」)が書いたらこうなる。

新美南吉は1913年に生まれた。成績優秀で東京外語大を卒業したが軍事教練に出なかったので、中学教員になれなかった。小学教員をしながら創作童話を発表。結核を病んでいて、1943年に29歳で病没。生前は2冊の童話集しか出版されなかった。戦後友人の手で著作…

小川未明「童話集」(旺文社文庫) 自然主義から国策童話までふり幅が広くて、評価が定まらない童話作家。

たぶん鈴木三重吉といっしょにこの国の童話の基礎を作った人。1882年に生まれて、小説家として1904年ころから作品を発表。しだいに童話に移行して、1925年からは童話作家を宣言。1961年の死去までたくさんの作品(600編ともいわれる)を書いた。 なるほどか…

アーサー・ランサム「ツバメ号とアマゾン号」(岩波書店)  親が見えないように監視する子供たちの夏季休暇。イギリス上流階級向け児童文学のテーマはいかに子供が紳士(ジェントルマン)と淑女(レディ)になるか。

小学5年生のときに読み、中学を卒業するまで繰り返し読んだ。そのあとずっと品切れ状態。ようやく少年文庫で出始めたのがうれしい。今回は1990年代の世界児童文学集の29巻を読んだ。 ウォーカー家の兄弟姉妹4人は夏休みで、たぶんスコットランドの田舎に行く…

佐藤紅緑「ああ玉杯に花うけて/少年讃歌」(講談社文庫) 貧困層の少年は家族愛と自己修養に励んで共同体への友誼と感謝をもとう。1920年代のナショナリズム喚起児童文学。

青木千三(チビ公)は、ちびの豆腐屋。小学校までは首席を通すほどの秀才であったが、父が政治に入れ込み財産を失ったところで亡くなったために、家を売り、叔父の豆腐屋で手伝いをしなければならない。当時の義務教育は6年間だったので、小学校卒で仕事につ…

佐々木邦「苦心の学友」(少年倶楽部文庫) 華族のお殿様の学友にされた庶民生まれの少年は、サラリーマンと同じ悲哀を味わう。

昭和2年(1927年)から少年倶楽部に連載された少年小説。 大蔵省勤めの父をもつ内藤正三少年は成績優秀、素行優良ということで、花岡伯爵家に乞われて三男・照彦のご学友になることになった。それまで家庭教師をつけて家内で教育していたが、このたび中等学…

佐々木邦「いたずら小僧日記」(新学社文庫) 19世紀末イギリス児童文学の翻案。夏目漱石「坊ちゃん」1907年の子供時代のわんぱくぶりをさらに幼少者がやっていると思いなせえ。

1883年(明治16年)生まれの作者26歳の第1作。ほぼ無名の作家でありながら、1909年に内外出版協会で出版されたという破格な扱い。「A Badboy's Diary」なる無名氏の作品を翻訳したとの由。なるほど、主人公である太郎の家では舞踏会を催し、朝はパンとバター…

シャルル・ペロー「長靴をはいたねこ」(旺文社文庫) 17世紀の絶対王政の時代に宮廷でペローはこれらの物語を朗読していた。

シャルル・ペローが書いた童話8編と韻文3編を収めた。今回は旺文社文庫で読んだが、現在絶版。訳者を変えて岩波文庫ででている。内容は同じ。 散文童話は以下の8編。 ●眠れる森の美女 ●赤ずきんちゃん ●青ひげ ●ねこ先生または長靴をはいたねこ ●仙女 サンド…

アマルティア・セン「貧困の克服」(集英社新書)

著者はインド生まれの哲学・経済学・政治学その他の研究者。アジア人として初めてノーベル経済学賞を受賞。ここでは彼の考えをよく示す講演4つを収録。 危機を超えて−アジアのための発展戦略 1999 ・・・ 東アジアの経済発展と危機の経験から開発の戦略を考…

町田洋次「社会起業家」(PHP新書) 国家(自治体)と個人が担いきれない社会保障を事業として補う人々。プロが携わることで品質を維持し、長期継続の可能性がある。

現在の社会保障制度は、高度経済成長や人口構成がピラミッド型で平均寿命の短い時代に作られたもの。それが変わってきて、負担の増加に国家はアップアップしている。これまでは、多人数の家族親族や地域コミュニティが社会保障制度の一部を担ってきたのだが…

広井良典「日本の社会保障」(岩波新書) 個人の参加をもとにしたネットワーキング共同体で共助社会を作ろうと提言。でも政府と厚労省は核家族に負担を押し付ける。

元厚生省官僚で、執筆当時の1999年は大学助教授(当時の呼称)。社会保障のありかたを原理までさかのぼって考察する。 第1章 福祉国家の生成と展開 ・・・ 社会保障の制度は19世紀に遡れるものもあるが、現在の制度は戦後。戦後の経済成長の間に各国で採用さ…

広井良典「定常型社会」(岩波新書) インテリで資産もちの考えたゼロ成長社会到達プログラム。2001年に書かれた後のアベノミクス失敗で実現性はなさそう。

はじめに─「成長」に代わる価値とは ・・・ 経済成長に代わる社会の目標を「持続可能な福祉社会/福祉国家」とする定常型社会を提案したい。 (ここでいきなりひっかかる。定常型社会ではゼロ成長社会となるのだが、その場合福祉や社会保障の源泉になる税収は…