odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2017-02-01から1ヶ月間の記事一覧

ヴィクトル・ユゴー「レ・ミゼラブル 下」(角川文庫)-1 社会の矛盾、父と子の葛藤が1832年のパリ暴動に向けて収斂していく。

2017/03/01 ヴィクトル・ユゴー「レ・ミゼラブル 上」(角川文庫) 1862年の続き。 さてジャン・バルジャン、コゼット、マリウス、テナルディエ、ジャベール警部の因縁の深まりは、偶然の出会いと必然の衝突を繰り返し、次第に沸騰していく。それは、1832年6…

ヴィクトル・ユゴー「レ・ミゼラブル 下」(角川文庫)-2 バリケードの中のユートピア。権力の支配、侵略戦争、国家間の対立が解消される共和政が実現する。

2017/03/01 ヴィクトル・ユゴー「レ・ミゼラブル 上」(角川文庫) 1862年 2017/02/28 ヴィクトル・ユゴー「レ・ミゼラブル 下」(角川文庫)-1 1862年 の続き。 バリケード蜂起の時、人々は日常を越えた祝祭と緊張の瞬間を生きる。平穏であるが変化の乏しい…

アンドレ・ジイド「背徳者」(新潮文庫) 主人公は家族・宗教・国家から疎外された余所者だが、植民地主義や性差別から抜け出せない

ギムナジウムで優秀な成績をとったミシェル君は教師の勧めで、古典学・文献学の研究を続ける。実家は南フランスの大地主で、そこの上りで十分に暮らしていけたのだ。25歳の時、20歳のマルスリイヌと結婚。式のあと、ミシェルは妻を愛していないことに気付く…

ヴェルコール「海の沈黙・星への歩み」(岩波文庫) ナチスに対する非暴力不服従のレジスタンス。でも野蛮な権力には対抗できないので使い方に注意。

作者ヴェルコールについては、wiki記事(ヴェルコール - Wikipedia)を参照。この文庫の解説で補足すると、イラストレイターだったのが、1940年夏のナチスドイツによるフランス占領から抵抗(レジスタンス)の活動を行った。収録された短編はそのときに公開…

サルトル/ボーヴォワール「知識人の擁護」(人文書院) サルトルがいた時代のフランスの社会の仕組みは近代化した日本と違うので、サルトルの議論をそのまま使用することができない。

1966年秋にサルトルはボーヴォワールと一緒に来日し、講演や対話を行った。公的な発言はすべて収録され雑誌に掲載されたり本になったという。そのひとつの「知識人の擁護」と名付けられた本書は、3つの講演を収録。 サルトル/ボーヴォワール「サルトルとの…

サルトル/ボーヴォワール「サルトルとの対話」(人文書院) 日本とフランスの知識人・教養主義の担い手が違うことに気づかないので、質疑はとんちんかんになった。

サルトル/ボーヴォワール「知識人の擁護」(人文書院)にあるように、1966年にサルトルとボーヴォワールは来日して、講演会や対話集会などに参加した。そのうち、ここでは雑誌「世界」に収録された日本の「知識人」との対話をおさめる。 知識人・核問題をめ…

サルトル/ボーヴォワール「文学は何ができるか」(河出書房)

1964年、サルトルが「言葉」を発表した際、スキャンダルが起きた。すなわち、 「『ル・モンド』紙は、女流記者ジャクリーヌ・ピァチエによるサルトルとのインターヴィュの記事を発表したが、このときサルトルは、「飢えて死ぬ子供を前にしては『嘔吐』は無力…

大江健三郎 INDEX

2017/02/16 大江健三郎「死者の奢り・飼育」(新潮文庫) 1958年 2017/02/15 大江健三郎「芽むしり仔撃ち」(新潮文庫)-1 1958年 2017/02/14 大江健三郎「芽むしり仔撃ち」(新潮文庫)-2 1958年 2017/02/13 大江健三郎「見る前に跳べ」(新潮文庫) 1958年…

大江健三郎「美しいアナベル・リイ」(新潮文庫) 70歳を超えた作家と妻と障害を持つ息子の3人だけの「静かな生活」に来たはた迷惑な闖入者の物語でメイキング・オブ・同時代ゲーム。

自分は1994年以降の大江の作品を追いかけていないので(「宙返り」を除く)、長江古義人のシリーズはまったく知らない。なので、この2007年の作品では、説明抜きで古義人やその家族の名前が出てきて戸惑った。過去に彼らに起きた事件やその顛末も知らない。…

大江健三郎「死者の奢り・飼育」(新潮文庫) 「奇妙な仕事」「偽証の時」 閉じられた状態にある人間を造りあげられた言葉や慣用句をできるだけもちいないで書く。

エントリーのタイトルは1960年にでた短編集に倣った。ただし、読んだのは「全作品 I-1」で収録作は全作品に倣う。文庫収録情報はタイトルのあとに入れた。また「死者の奢り・飼育」(新潮文庫)の収録作品は「死者の奢り」「他人の足」「飼育」「人間の羊」…

大江健三郎「芽むしり仔撃ち」(新潮文庫)-1 戦時中、感化院の少年たちが無人の山村に置き去りにされる。

(おそらく)昭和20年の冬。指導教官に引率された感化院の少年14人と「僕」の弟の計15人が山間の村に到着した。都会にあったと思われる感化院を疎開させる必要があり、山村が選ばれたのだ。その村は奇妙な緊張感が漂う。村人は少年たちを警戒して遠巻きにし…

大江健三郎「芽むしり仔撃ち」(新潮文庫)-2 沈滞して生産力を失った共同体に活気をもたらすトリックスターはスケープゴートになって懲罰を受け放逐させられる。

2017/02/15 大江健三郎「芽むしり仔撃ち」(新潮文庫)-1 1958年の続き。 山の中の村。それはすでに生産力を失っていて沈滞している。そこに外部のものが現れて、村をかきまわし、活性化して、彼はスケープゴートとなって懲罰を受けたり破滅する。このプロッ…

大江健三郎「見る前に跳べ」(新潮文庫) 「暗い川 重い櫂」「鳥」「喝采」閉塞状況に受け身でいた人々を行動的にしようという呼びかけ。

エントリーのタイトルは1960年にでた短編集に倣った。ただし、読んだのは「全作品 I-2」で収録作は全作品に倣う。文庫収録情報はタイトルのあとに入れた。また「見る前に跳べ」(新潮文庫)の収録作品は「奇妙な仕事」「動物倉庫」「運搬」「鳩」「見るまえ…

大江健三郎「われらの時代」(新潮文庫)-1

1958年を同時代としてみる。そうすると、敗戦から12年、占領開放から5年を経過している。この国は自立して戦争の債務を返すために若く健康になっているはずであった。とはいえ、朝鮮戦争から占領軍は名前を変えてこの国に駐留し、保守政党は占領軍の顔色を窺…

大江健三郎「われらの時代」(新潮文庫)-2

2017/02/10 大江健三郎「われらの時代」(新潮文庫)-1 1959年の続き。 もうひとつの物語が進行する。靖男より若い連中。靖男の弟・滋(16歳)が所属する「アンラッキー・ヤングメン」というジャズトリオ(クラリネット、ピアノ、ドラムという特殊編成)のメ…

大江健三郎「青年の汚名」(文春文庫) 不漁にあえぐ北海道の漁村。村の権力者と青年会と聖なる力を一身に集めた若者の確執、奪権闘争。

著者の小説の舞台は都会か四国の山の村がほとんどだが、めずらしくソ連領に近い北海道の島(ほかにあるのは「幸福な若いギリアク人」くらいか)。この島も荒海に囲まれて、周囲とは隔絶状態にあるというのは同じだし、古い因習と長老による集団統治、村の中…

大江健三郎「孤独な青年の休暇」(新潮社) 「上機嫌」「勇敢な兵士の弟」「幸福な若いギリアク人」豊かな生活をしている若者の孤独と不安を書いた短編集。

エントリーのタイトルは1960年にでた短編集に倣った。ただし、読んだのは「全作品 I-3」と「全作品 I-4」。それぞれの短編のあとに文庫化情報を追記。いくつかの短編は未収録で、初出誌か「全作品」でないと読めないと思う。タイトルの「孤独な青年の休暇」…

大江健三郎「セヴンティーン」「政治少年死す」-1 自己肯定感が低く孤独な未成年が「自分が特権的で万能でありうるという幻想」で極右の一員になり他人の権利を侵害する。

1960年上半期の安保反対運動は、6月19日の自然承認のあと沈静化する。岸信介が首相を辞めたのが大きな理由(反対運動のミッションのひとつを達成したから)。そのあと、10月12日に日比谷公会堂で行われた三党首立会演説会で、社会党党首・浅沼稲次郎が刺殺さ…

大江健三郎「セヴンティーン」「政治少年死す」-2 「政治的人間」「性的人間」「犯罪的人間」のいずれでもある未成年は社会の規範を逸脱しテロルに傾斜する。裏「遅れてきた青年」。

2017/02/06 大江健三郎「セヴンティーン」「政治少年死す」-1 1961年の続き。 純粋天皇と直接コンタクトする、その回路を持っている唯一の人間。その確信は「おれ」の死や無の恐怖を克服できる(つもりになるだけ)。そこからテロルの実行にはさらにいくつか…

大江健三郎「遅れてきた青年」(新潮文庫)-1 最大の価値を国家=天皇に見出していた少年は戦争に遅れ、自己破壊衝動にかられる。

文庫版のカバー説明には「フィクショナルな自伝」の文言が見えるが、囚われないほうがよい。むしろ「自伝的な装いを帯びたフィクション」とみるべき。なるほど、敗戦の年に12歳であるとか、長じて東大文学部に進学するとか、いくつかは著者の経歴をなぞって…

大江健三郎「遅れてきた青年」(新潮文庫)-2 「うまくたちまわって、騙して良い子になってみせる」を決意した若者は成功の直前で自己懲罰衝動にかられる。

2017/02/02 大江健三郎「遅れてきた青年」(新潮文庫)-1 1961年 の続き。 第1部の終わりで教護院に入院されることになった「わたし」。「うまくたちまわって、騙して良い子になってみせるぞ」と宣言した通りに、優秀な生徒として卒業し、あまつさえ東大文…