odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2013-05-01から1ヶ月間の記事一覧

中谷巌「資本主義はなぜ自壊したのか」(集英社) グローバル資本主義の克服のカギになるのは自然と文化一体の日本モデルと主張するトンデモ本。

新古典派経済学者で、レッセ=フェールの信奉者で、小泉内閣の構造改革推進論者で、いくつもの経済政策を提言してきた著者が、2006-2008年ころのさまざまなできごと(リーマン・ショック、格差社会、無差別殺人、医療の崩壊、食品偽装など)にショックを受け…

河邑厚徳「エンデの警鐘」(NHK出版) 経済のグローバリゼーションと国家の権限の拡大に対する批判。通貨と銀行の刷新による国家止揚の可能性。

著書のことばとは少し違った言葉で主題をまとめると、ここの主要な問題は経済のグローバリゼーションと国家の権限の拡大に対する批判。すなわち、グローバル化した経済の問題は、(1)利子を目当てに投資するものたちと多額な報酬を期待する経営者によって…

河邑厚徳「エンデの遺言」(NHK出版) エンデの「金」に対する疑問と、地域通貨(LETS)による解決方法。ゲゼルの経済学はよくわからない。

主題はエンデの「金」に対する疑問と、その解決方法。ここでは地域通貨(LETS)が取り上げられている。 最大の収穫は、邦訳が一冊も出ていない経済学者シルビオ・ゲゼルを知ったこと。経済学者として、「国家に抗する貨幣」のあり方を考えていた人がいるとは…

デヴィッド・ルードマン「エコ経済への改革戦略」(家の光協会) 政府・国家による再配分を公正にして、自然環境の保持に役立てようという提言。

柄谷行人「世界共和国へ」は資本主義経済社会の行き詰まりを打開するための理念を示しているが、具体策には乏しい。それは読者個々人で現場を作ることになるのだが、どのような問題をどのように解決するのかということを具体例なしに個人で抱えるには大きす…

ポール・クルーグマン「世界大不況への警告」(早川書房)

著者が1999年の初頭に書いた世界各国の経済状況に関するまとめ。この時代を俯瞰しておくと、アメリカは安定成長。90年の初頭からアジアの竜(韓国、シンガポール、マレーシア、インドネシア)が成長経済を達成していた。同じく、メキシコやアルゼンチンなど…

ポール・クルーグマン「良い経済学悪い経済学」(日経ビジネス文庫)

佐和隆光「市場主義の終焉」で紹介されていた経済書。著者は国際経済、とくに貿易の専門家であって(2008年にノーベル経済学賞を受賞)、ここに収録された論文は経済専門誌に掲載された。とはいえ、この人は啓蒙家でもあり、難しい計算式を使わないでも、経…

ジョン・リチャード・ヒックス「経済史の理論」(講談社学術文庫)

先にぶっとい中村勝己「世界経済史」を読んでいたので、ここで書かれた事例がいつごろのどこのことかがはっきりしたのがよかった。 この本では、歴史の記述を考えるのではなく、経済の発展のモデルを作ること。そのモデルは妥当性を持っているように思える。…

佐和隆光「市場主義の終焉」(岩波新書) 市場の調整機能に任せられない状況の克服の可能性は「第三の道」。

まず本書の中身を鳥瞰。2000年10月現在の状況を描写。 序章 市場主義の来し方ゆく末 ・・・ 1970年代末から1990年代末までの市場主義、自由主義経済政策は終わりにしなければならない。市場の調整機能に任せられない状況が様々な問題を生じている。市場主義…

ジョン・ガルブレイス「現代経済入門」(TBSブリタニカ)

巻末の都留重人の解説を借用してまとめる。ポイントは、インフレと失業にどのように対応するかということ。 ・最初に、市場が古典派経済学の規定していた自由競争の場でなくなったこと。巨大企業は、市場をコントロールすることができる。大企業は販売価格を…

佐伯啓思「アダム・スミスの誤算」(PHP新書)

アダム・スミスの読み直しとそれによる経済のグローバル化の批判。スミスの生きた時代が漱石「文芸評論」の時代であること、そして「産業革命」の時代であること(下記のように実際は別の経済革命が重要だった)。そのころから300年もたつと、どうもわれわれ…

佐伯啓思「ケインズの予言」(PHP新書)

2013/05/20 佐伯啓思「アダム・スミスの誤算」(PHP新書) 序章 凋落したケインズ ・・・ ケインズの政策は一国の閉鎖的な経済環境を想定していた。外国との開放経済を調べてみると、1)一国の独自の経済政策、2)貿易のバランス、2)為替レートの安定…

ピーター・バーンスタイン「リスク 上」(日経ビジネス文庫)

「リスク」という言葉はどうもえたいが知れないし、どうも誤解された使われ方をしているのではないか(自分の責任とは無関係に降りかかってくる災難みたいな意味)。なので、このタイトルの本を読む。 前半は、リスクの考え方や計算に使われる確率や統計、推…

ピーター・バーンスタイン「リスク 下」(日経ビジネス文庫)

2013/05/16 ピーター・バーンスタイン「リスク 上」(日経ビジネス文庫)第10章 サヤエンドウと危険 ・・・ ようやく株の話。株価は変動が激しいが、長期的にみれば「平均への回帰」がみられる。問題は、「平均」が長期的に変動していくこと。ほかにもいく…

荒俣宏「別世界通信」(ちくま文庫) イギリス幻想文学の膨大な書肆。西洋哲学と科学の歴史、神秘思想を渉猟する本書の詳細な注解が欲しい。

1977年に初出で、ちくま文庫に収録。まず、サマリーまで紹介されている幻想小説を順にリストアップ。 イギリス幻想文学をほぼ網羅。 マンディアルグ「ロドギュヌ」 トールキン「指輪物語」 E・R・エディスン「ウロボロス」 ラッセル=ホウバン「ボアズ=ヤ…

尾之上浩司編「ホラー・ガイドブック」(角川文庫) 「ホラー」というジャンルがミステリーやSFよりもあいまいな領域にあるのがわかる。日英米作品ばかりなのが残念。

2002年の初出だけど、手にしたのは2013年。懐古的な気分になるのは、ミステリーやSFではこの種のガイドブックはそれこそ江戸川乱歩や筒井康隆のそれに始まって、すでに古い歴史を持っているけど、こと怪談・怪奇小説・ホラーではその種のおおがかりなものは…

ゴジラを巡る視線について

1.ゴジラ映画をまとめてみ直すと、ゴジラを見て悲鳴を上げる人は数多いが、河内桃子に勝る人はいない。(沢村いき雄、大村千吉、蛍雪次郎の達人に敬意を表しつつも)※ しかも年を経るごとに悲鳴が下手になっていると思うのだ。2.ゴジラが最初に顔を見せ…

快楽亭ブラック「明治探偵冒険小説集2」(ちくま文庫) 帰化したイギリス人芸人による明治時代の講談速記。西洋が舞台の犯罪小説が新しかった。

自分の持っているCDには、1900年に録音された川上音二郎一座とか、1904-5年に録音された歌入りの「軍艦行進曲」などがある。そこに収録されたこの国の人たちの発声とかイントネーションとか抑揚などは、もう21世紀とは全く異なってしまった。たぶん、昭和初…

香山滋「オラン・ペンデクの復讐」(現代教養文庫) 「ゴジラ」の原案者が書いた博物学趣味の幻想小説集。

1970年半ばに現代教養文庫が戦前の異色作家の傑作選を出した。小栗虫太郎、夢野久作、久生十蘭、谷譲次ら。自分はこの中で小栗を選び、全5冊を購入した。そのあとに戦後の異色作家選をだし、橘外男、山田風太郎、香山滋が選ばれた。自分はこの中で香山を選…

香山滋「幼蝶記」(現代教養文庫) 石部金吉の理想の女性像はロリコン趣味で生み出されるアニメのヒロインたちと同じ。

現代教養文庫で出た選集の第3巻。 海鰻荘奇談1947 ・・・ 巨万の富を持つ博物学者・塚本博士が岬に豪壮な私設水産研究所を作る(これは蜂須賀侯爵をネタにしているな)。そこにはうつぼがたくさん養殖されている。これはまあよいとして、家族関係が複雑。最…

カミ「エッフェル塔の潜水夫」(講談社文庫) 古い「飛びゆくオランダ人」伝説とモダンなエッフェル塔のミスマッチが生む数々のコント。フランスのエスプリが効いたコメディ。

1870年代にエッフェル塔ができてから、好きにしろ嫌いにしろ、この建物を意識しないわけにいかなく、この建物をめぐる物語はたくさんあった。これがそのひとつ。建設当時の苦労はやはり神話になっていて、しかもその動力に関する話は1929年当時には人の記憶…

レーモン・クノー「イカロスの飛行」(ちくま文庫) 物語と作者の壁を壊したこれは小説?それとも戯曲、コント、映画の台本?

レーモン・クノーは映画ファンには「地下鉄のザジ」の原作者として(中公文庫に翻訳あり)、アンサイクロペディアファンには「文体演習」で有名な作家。1903年に生まれて、奇想天外な小説や詩や戯曲を書き、1976年没。フランスにはこういう洒脱な人がときど…

ロバート・ネイサン「ジェニーの肖像」(ハヤカワ文庫)

大不況から10年も経過していたが、経済は復興せず、青年画家イーベンは売れない風景画しか書かない。夕暮れの公園で一人の少女に出会う。数日後に再開したとき、彼女ジョニーはなぜか数年を経たかのように成長していた。イーベンは彼女に魅かれ、肖像画を描…

エイモス・チュツオーラ「ブッシュ・オブ・ゴースツ」(ちくま文庫) ナイジェリアの児童が内戦か奴隷略奪の惨禍を免れようとしているうちに、ゴースト(幽鬼)だけの社会に紛れ込む。

「町を出た少年が迷い込んだのは、ゴーストでいっぱいのジャングルだった。耐えられぬ悪臭を放つもの、奇妙なかたちをして不思議なしぐさをするもの…。ヨルバ族に先祖から伝わる物語をふまえて、ドラム・ビートに乗せて紡ぎ出される幻想の世界。ナイジェリア…

ロバート・ブロック「サイコ」(ハヤカワポケットミステリ) 小説のノーマン・ベイツは小柄でずんぐりしたデブ。こいつに共感すると小説は怖くない。

自分のもっているのは創元推理文庫ではなく、1975年初出のハヤカワポケットミステリ。なので、タイトルは異なっている。画像参照のこと。 さて、ヒッチコック監督の1961年の映画「サイコ」の原作であるということで、もう紹介は完了。くだくだしいストーリー…