odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ハンス・ケルゼン「デモクラシーの本質と価値 」(岩波文庫) 1930年代、デモクラシーを僭称するボルシェヴィズムとファシズムを批判する。

作者の経歴とこの本の出版年を知ることは重要。プラハ生まれでウィーン大学で教授を務める。ナチス政権誕生と同時にスイスに亡命。この本は1932年に出版。 自分が読むのに困難を覚えたのは、どうやらカント哲学を基礎としているらしいこと(当為とか自由律と…

神山典士「「日本人」はどこにいる」(メディアファクトリー) 著者が考える日本人は集団の中にはいなくて、一匹狼として生きている。それって日本人なのか?

著者のやりたいことのひとつである「日本とは何か」を、多くの人のインタビューやレポートで考察したもの。武道家、成田闘争参加者、ストリップ劇場小屋主、宗教家その他のさまざまな職種の人が登場する。もともとは個別に雑誌に発表されたものであって、本…

室賀信夫「日本人漂流物語」(新学社文庫) 江戸時代からこの国の住人と政府は外国人が嫌いで、おもてなしをしなかった

3つの近代の漂流譚が収録。まれに古本屋でみかけることがあるが、非常に入手しにくいだろう。 孫太郎ボルネオ物語 ・・・ 1764年。ミンダナオ島に漂着。以後、ボルネオ、ジャワ、スマトラを経由して帰国。7年ぶり。光太夫ロシア物語―第一編・第二編― ・・・…

矢吹邦彦「炎の陽明学 山田方谷伝」(明徳出版社) 幕末の藩政改革者。資本主義のない時代に市場および生産の市場化、開放化を行って成功した。

山田方谷は備中松山藩(現岡山県高梁市)の人。江戸末の百姓生まれであったが、幼少のころより聡明であったので、朱子学に勤しむ。長じては大阪の塾に留学し、陽明学(大塩平八郎、吉田松陰などが有名)を学ぶ。折から、藩財政が悪化していたことに加え、藩…

司馬遼太郎「竜馬が行く」(文春文庫) 実在の龍馬ではない「竜馬」は、伝奇小説とハーレクインロマンスの主人公

最初に読んだのは中学1年生のとき。「国盗り物語」の大河ドラマを欠かさず見ているときに、「国盗り物語」「の原作を読み、これほど面白い小説があるのかと図書館にいって、同じ著者のこの小説を借りてきたのだった。(自慢することにしよう。それから1年を…

多木浩二「天皇の肖像」(岩波新書) 維新後は列島の大半が明治天皇を知らないので見世物にし、帝国憲法ができたら隠された存在にした

以下は不正確なまとめになるだろう。 ストーリーは大政奉還と江戸城の開城から始まる。幕府は潰れた、ではどうするか。新政府に力がないのは明白。しかも人民(そんな階級の人はいなかったが)も信用していない。そこで、早急に新政府の「中心」を作らなけれ…

中江兆民「三酔人経綸問答」(岩波文庫)

初出は1887年。もはや原文を読むことはかなわない。そこで桑原武夫による現代語訳でよむ(とはいえ「メートルがあがる」なんていう昭和20年代の流行り言葉がでてくるので、「現代」と呼ぶにはちょっと。「メートルがあがる」の意味がわかる人はすくなくなった…

色川大吉「自由民権」(岩波新書) 明治から昭和20年までの帝国主義・侵略国家における国内の暴力的な治安維持システムに抵抗した人々。

「今から百年前,アジアで最初の国会開設要求の国民運動が日本全国からわきおこった.一八八一年は,この自由民権運動の最高潮の時であり,民衆憲法草案が続々起草され,自由党が結成され,専制政府は崩壊の危機にまで追いつめられた.各地で進められている…

沼田多稼蔵「日露陸戦新史」(岩波新書) 無味乾燥で欠陥だらけの巨大プロジェクトの報告書

そう簡単には入手できない一冊。自分の手元にあるのは昭和15年初版のもの。新規開店した古本屋にいったらこれが300円で売られていた。1990年ころの話。数年を経ずしてつぶれてしまった。 内容を例によってまとめてみるが、今回は超訳をところどころで採用。 …

野村實「日本海海戦の真実」(講談社現代新書) 帝国海軍の栄光の完成と没落の始まり

1905年5月25日の日本海海戦のことは、ノビコフ・プリボイ「ツシマ」によってロシア側のことを知ることができるとはいえ、この国の多くの人は司馬遼太郎「坂の上の雲」で知ることになるだろう。ここには、1968年ころの連載中、まだ存命中だった日本海海戦経験…

ノビコフ・プリボイ「バルチック艦隊の潰滅」(原書房)現在は「ツシマ」で出版 長期間の航海の裏では、純朴な青年が社会正義に目覚めるまでの教育物語が進行している

1933年に発表され、同年にスターリン賞を受賞した小説。この国には1930年代に翻訳され、現在でも原題「ツシマ」のタイトルで上下2巻で販売されているらしい。自分が読んだのは、「バルチック艦隊の潰滅」というタイトルの一冊本。なにしろ9ポか10ポの細か…

家永三郎「太平洋戦争」(岩波現代文庫) この戦争は1932年の柳条湖事件から1945年の敗戦まで15年間継続した戦争である。

文字から炎が湧き上がるかのような熱い文章。1913年生まれ。学生時代の1932年にマルクス主義と出会い、圧倒的な体験になった。その後、高校の教師になるが戦前・戦中は時局批判の活動ができない。戦後、その体験から現代史を講義するとともに、政治批判を活…

森本忠夫「マクロ経営学から見た太平洋戦争」(PHP新書) 組織的に腐敗していた日本軍は国家を破綻させ、国民を大規模に殺した。

「あの」戦争について書かれた本は多岐にのぼる。小学生のころに手にした太平洋戦記を皮切りに多くの本を読んできた。最近の問題意識は、「あの」戦争の個々の局面における決断や戦局推移にではなく、どうすれば「あの」戦争を回避することができたのか、ど…

大江志乃夫「徴兵制」(岩波新書) 軍隊や徴兵制は社会の不公正を助長し、生産性を下げ、社会的な不適応者を生む。

書かれたのは1981年。レーガンがアメリカ大統領になり、新たな冷戦の開始を意図した。共産圏の周辺国家に核兵器を配備しようとして、反核運動をおこす原因になった。日本には核兵器を配備することはできなかったが、大幅な防衛費の負担増加を求めた。そのた…

メキシコの路上パフォーマーのマイケル・ジャクソンがすごいというのだが

旧聞だけど、 笑っちゃうけどクール…人形と踊るマイケル・ジャクソンのダンス(動画):らばQ という記事があって、 www.youtube.comの動画がすごい、ってことになっている。 カナダに「Christopher」という芸人がいて、20年も前から同じネタをやってるんだぜ…

平岡正明「日本人は中国で何をしたか」(潮文庫) 略奪・強姦・虐殺などが当たり前になっていた中国本土での戦闘と占領政策を掘り起こす

だいたい3つの区分で旧日本軍の行った残虐行為を紹介し、その背景を分析する。その際に、国民党軍や八路軍の戦略、政略も検討対象にする。そのことは、残虐行為の背景を理解する助けになる。 いつものように著者の主張をまとめよう。 ・1931年の柳条湖事件…

森村誠一「悪魔の飽食」(カッパノベルス) 731部隊による戦争犯罪が知られるきっかけになったベストセラー。

1982年のベストセラー。百万部を超えたらしい。このような陰惨なノンフィクションを受け入れる土壌があったことを懐かしく思い出す。レーガン政権になって核戦争の可能性が増したと思われた時代だったこと、それから医療行政の不手際が目立つことあたりがそ…

大宅壮一編「日本の一番長い日」(角川文庫) 熱しやすく激しやすくて、成功の見込みのない行動をすぐ起こし、あっという間に挫折。「観念」への熱狂と乗り換えはいかにも日本的。

学生時代に読んでいて書架に眠っていたものを再読。岡本喜八監督による同名映画をみたのが最近(2006年現在)だったので興味を持ったから。著者名は手元にある古い角川文庫版によるが、あとがきによると実際の著述は半藤一利氏。最近、文春文庫で復刊されたほ…

徳川夢声「夢声戦争日記 抄」(中公文庫) 漫談家が戦時中に慰問に呼ばれたのは軍隊も庶民も笑いと娯楽を欲していたため。

無声映画を上演する時、日本では弁士という特別の形態があった。どうやら西洋ではオーケストラあるいは小型楽隊が場面に合わせて演奏しているのを聴いていた。それはあたかもバレエを見ているようなものだ。ところが日本では小さな楽隊に合わせて、弁士が場…

多川精一「戦争のグラフィズム」(平凡社ライブラリ) 日本陸軍が制作した幻の雑誌「FRONT」の記録。東方社に集まった顔ぶれがすごいメンツばかり。

対米開戦の避けられないと思われた昭和14-5年ころに、陸軍参謀部は考えた。米にはLifeが、ソ連にはUSSRというグラフ誌があるではないか。それに比べわが軍、わが国には。というわけで、参謀本部の肝いりで「対ソ宣伝計画」を目的にした民間雑誌会社を作るこ…

高杉一郎「極光のかげに」(岩波文庫) 共産主義者の育成学校であったソ連の捕虜収容所。。自分で考える時間を奪われ、集団意思に強制的に従わさせられる。

「敗戦後,著者は俘虜としてシベリアで強制労働についた.その四年間の記録である.常に冷静さと人間への信頼とを失わなかった著者の強靭な精神が,苦しみ喘ぐ同胞の姿と共に,ソ連の実像を捉え得た.初版(一九五〇)の序に,渡辺一夫氏は,「制度は人間の…

イエールジ・コジンスキー「異端の鳥」(角川文庫) 黒い髪と黒い瞳は異端の印。方言がわからない少年に向けられた信じがたい残虐行為。

第2次大戦直前のポーランド(と明示されているわけではないが)。ワルシャワから田舎に疎開させられた6歳の少年ははぐれてしまい、村に寄宿することになる。彼の黒い髪と黒い瞳は、藁色の髪と青い瞳の村人にはユダヤとジプシーに見られてしまう。方言を理解…

レナ・ジルベルマン/マリ・エレーヌ・カミユ「百人のいとし子・革命下のハバナ」(筑摩書房) ポーランドがナチス占領から解放されてもユダヤ人差別はなくならない。シオニズム団体がユダヤ人をイスラエルに移住させた。

ロバート・キャパ「ちょっとピンボケ」 ・・・ 略 レナ・ジルベルマン「百人のいとし子」 ・・・ フランケル「夜と霧」(みすず書房)はナチスの絶命収容所でいかに生き延びるかが主題であったが、こちらは収容所から解放されたものをいかに復帰させるかとい…

ジョルジュ・シムノン「雪は汚れていた」(ハヤカワ文庫) 存在の退屈を持て余した若者が逮捕監禁されたときに生の意味を見出す。

大状況が全く書かれていないので、断片的な情報から推測するしかない。フランク・フリードマイヤーが16歳の時に町は占領され、今では19歳というから1942年なのだろう。登場人物の名前はゲルマン風だ。しかし、この「本格ロマン」がフランス語で書かれている…

グレアム・グリーン「情事の終わり」(早川書房) 無神論者の三角関係のライバルは神様。

新潮文庫の田中西二郎訳ではなくて、早川書房全集版の氷川玲二訳。そのため人物名が変わっていて、Sarahがセアラとなっている。 「私たちの愛が尽きたとき、残ったのはあなただけでした。彼にも私にも、そうでした―。中年の作家ベンドリクスと高級官吏の妻サ…

グレアム・グリーン「第三の男」(ハヤカワ文庫) 米ソ英仏の共同管理にある1947年ウイーンで起きた闇ペニシリン流通事件。

「作家のロロ・マーティンズは、友人のハリー・ライムに招かれて、第二次大戦終結直後のウィーンにやってきた。だが、彼が到着したその日に、ハリーの葬儀が行なわれていた。交通事故で死亡したというのだ。ハリーは悪辣な闇商人で、警察が追っていたという…