odd_hatchの読書ノート

エントリーは3400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2025/9/26

科学史

エマニュエル・スウェデンボルグ「霊界からの手記」(リュウ・ブックス) 現代のオカルトやスピリチュアリズムの源流は神なき18世紀思想のアマルガム。

幽霊やオーラを見ることができる知り合いが何人かいて、ときどき霊を見たという話をしてくれる。聞くと、彼ら、「見える」ひとたちは自分のような凡庸な人とは別の苦労をしょっているみたい。子供のころから霊的体験による恐怖に会うとか、メンターについて1…

ゲーテ「色彩論」(岩波文庫)-1 色は晩年のゲーテが最も関心をもった研究領域。学問は世界精神をつかむために教養を高めなければならない。

ゲーテの「色彩論」1810年は大部な著述であって、第1部:教示編、第2部:論争編、第3部:歴史編の3つの部分からなるという。この岩波文庫版は第3部:歴史編の抄訳(それでも400ページ)。1952年初出のために、旧字旧かな。古い書体の活字はかすれ、文体…

ゲーテ「色彩論」(岩波文庫)-2 科学と文学と哲学を統合したいゲーテは要素還元主義のニュートンが大嫌い。

2016/09/20 ゲーテ「色彩論」(岩波文庫)-1 1810年 の続き。 ゲーテの時代(18世紀後半)の科学を思い出すと、古典力学は完成済。微分積分などの数学も発展途上(力学と数学は相互に影響しあいながら発展していた)。化学だとラボアジェの元素論が今につなが…

荒俣宏「大博物学時代」(工作舎) 18世紀は科学と大航海の時代。神がいないと想定すると、人間が観察するものには変化が起きている。では変化の原因と機構はどのようなものか。

生物学はむかしから生物学であったわけではなく、それ以前はいくつかの分野に分化していて統合されていなかった。解剖学と分類学と生理学が別々にあったような具合。19世紀に統合されるようになったらしいが、18世紀では博物学という採集と観察と分類の学が…

ジャン・ラマルク「動物哲学」(岩波文庫)-1 著者の主張は、複雑なものから単純なものへ堕ちていく当時の見方のコペルニクス的転換と、多分枝の分類体系。生命の変化に関する説明は、付け足しみたいなもの。

ラマルクの「動物哲学」全3巻は1809年に上梓された。あいにくパリの博物学者としては不遇であり、この浩瀚な書物も同時代では評価されなかった。のちに「ラマルキズム」として再評価・復活させたのは、解説によるとエルンスト・ヘッケルであるという。そして…

ジャン・ラマルク「動物哲学」(岩波文庫)-2 著者の主張は、日々の生物の自然発生、使う器官の発達とつわかない器官の退化。努力による変異と獲得形質の遺伝は筆の滑りで、つじつま合わせの仮説。

2016/09/15 ジャン・ラマルク「動物哲学」(岩波文庫)-1 1809年 の続き。 この時代は地球や宇宙の年齢を正確に測る方法がなくて、現在のわれわれから見ると憶測と大差ないくらいの不正確なもの。聖書の記載を累計すると6000年強。それはエジプト学の研究で…

エルンスト・ヘッケル「生命の不可思議 上」(岩波文庫) プラスマなる実体が哲学と科学を統一するというトンデモ主張(今は「エクトプラズム」でオカルトにだけ名を残す)

エルンスト・ハインリッヒ・フィリップ・アウグスト・ヘッケル(Ernst Heinrich Philipp August Haeckel, 1834年2月16日 ポツダム - 1919年8月8日 イェーナ)は、ドイツの生物学者であり、哲学者である。生物学者としては海産の無脊椎動物の研究と図版作成で…

エルンスト・ヘッケル「生命の不可思議 下」(岩波文庫) プラスマの自発的自立的な意思が環境と自己を変化させる。本書は「ドグラ・マグラ」「エヴァ」の元ネタ。

2016/09/13 エルンスト・ヘッケル「生命の不可思議 上」(岩波文庫) 1904年 の続き。 ヘッケルが構想する生命の起源では、まず核のないプラスマ(原核細胞にちかいのかな)が生まれたとする。でそれが、生物の基本形で、生命現象の物質的基礎である。ミラー…

荒俣宏「図鑑の博物誌」(工作舎) 18世紀博物学最盛期に作られた図鑑を楽しむ。芸術画とは異なる価値が博物画にはある。図鑑作成に命を懸けて極貧に陥った人々に涙。

著者は、1960年代後半に本郷の古本屋で18世紀の博物学図鑑を入手する(なんと6000円という破格の安値!)。200年を経ても色あせない図版であることにおどろき、以来さまざまな博物学図鑑を手に入れる。その悪戦苦闘ぶりは「稀書自慢、紙の極楽」(中央公論社…

ヤーコプ・フォン・ユクスキュル「生物から見た世界」(岩波文庫) 環世界Umwertは均質で同等の時間が流れる時空間(デカルト的な空間)とはまるで別の世界像。環世界のHowは説明しているが、WhyとWhenは一切触れない。

1980年代にこの本はよく紹介された(翻訳初出は1973年)。プリゴジーンの「散逸構造」理論とセットで取り上げられることが多く、生物学よりも哲学思想の人が語っていたとも記憶する。どちらも高価な本だったので、当時は読めなかったが、21世紀に文庫になっ…

アラン・バイエルヘン「ヒトラー政権と科学者たち」(岩波現代選書)-3 時代遅れでトンデモのアーリア的物理学は成果を上げないので、産業界が文句をいって解任させた。

2015/12/14 アラン・バイエルヘン「ヒトラー政権と科学者たち」(岩波現代選書)-1 2015/12/15 アラン・バイエルヘン「ヒトラー政権と科学者たち」(岩波現代選書)-2 の続き 政権や党に迎合したアーリア的物理学の主張はそれぞればらばらでまとまっていない…

アラン・バイエルヘン「ヒトラー政権と科学者たち」(岩波現代選書)-2 ユダヤ人研究者が追放されたので、ドイツの物理学のレベルは低下した。

2015/12/14 アラン・バイエルヘン「ヒトラー政権と科学者たち」(岩波現代選書)-1 の続き ドイツの物理学者が国家社会主義に対してとった態度には3つのパターンがある。亡命した者、アーリア的物理学の政治運動を行ったもの、国内にとどまって研究活動を継…

アラン・バイエルヘン「ヒトラー政権と科学者たち」(岩波現代選書)-1 ナチスはトンデモのアーリア的物理学を科学政策とした。

アメリカの少壮科学史家による戦間期ドイツの物理学者の動向。1977年出版で、当時著者は32歳。 戦間期ドイツの20年間で重要なできごとはナチスの政権掌握。ファシズム政権が科学統制を行うとき、科学者はどのように対応したかという事例をみる。あわせてナ…

INDEX 科学史関連

2013/02/28 科学を考えるときに考えておくとよいこと 2013/02/27 吉田光邦「日本科学史」(講談社学術文庫) 2013/02/26 村上陽一郎「ペスト大流行」(岩波新書) 2013/02/25 小田垣雅也「キリスト教の歴史」(講談社学術文庫) 2013/02/22 生松敬三/木田元…

科学の「権威」について

趣向を変えて、昨日のtwitterのつぶやきを再録します。 科学が権威をもつということについて考えてみた。①科学者集団の内部の人たちは、科学は疑うもの、確立していなくて正しさは将来変わりうる可能性がある。一方、すでにある言明は覆すことが困難であるこ…

科学を考えるときに考えておくとよいこと

カテゴリー「科学史」をクリックすると、このエントリーを最初にして、科学史に関する本が並ぶ。カテゴリーで表示された順番に読むと、科学の歴史を概観することができる。 で、その前に「科学」を考えるときに考慮したほうがよいことをいくつか述べてみる。…

村上陽一郎「ペスト大流行」(岩波新書) 1337年からのパンデミック。人口の大減少は封建社会を終わらせ、民族・人種差別を助長した。

エーコ「薔薇の名前」の舞台は北イタリアの修道院。時は1327年。この数年後の1337年に中央アジアあたりから蔓延してきたペストが、南ヨーロッパ(ギリシャとかトルコあたり)に上陸した。約7年間、ヨーロッパ全域で猛威をふるった。当時のヨーロッパの人口は…

小田垣雅也「キリスト教の歴史」(講談社学術文庫) 西のキリスト教会が世俗化していった千年の歴史は裏西洋哲学史。

「旧約聖書を生んだユダヤの歴史から説き起こし、真のイエス像と使徒たちの布教活動を考察。その後の迫害や教義の確立、正統と異端との論争、教会の堕落と改革運動など、古代から中世を経て近代、現代に至るキリスト教の歴史を、各時代の思想、政治・社会情…

生松敬三/木田元「現代哲学の岐路」(講談社学術文庫) 近代批判、合理主義批判、科学批判としての現代哲学の源流を探る。西洋哲学初心者向けの簡便な見取り図。

1976年に中公新書ででたものを1996年に文庫化したもの。1930年前後に生まれた二人の対談で、19世紀から現在までの思想を概括したもの。哲学書を読み始めたものにとっては、それまでの読書の結果を位置づけていくいい指導書になるのではないかしら。デカル…

村上陽一郎「科学史の逆遠近法」(講談社学術文庫) 初期の「自然科学」は科学と神秘思想のアマルガム。啓蒙主義時代に神秘思想と縁を切った。

読了2回目。前回は非常に興奮したのだが、今回は冷静に。 主題は、16世紀の科学革命(コペルニクス、ケプラー、ガリレオなど)が中世の混迷した非合理的思考を批判、排除するなかから生まれたというこれまでの科学の発達史の説明は不十分。むしろ、彼らはプ…

レオナルド・ダ・ヴィンチ「手記 1」(岩波文庫) 15世紀のヨーロッパは博物学と科学と芸術に区別がなかった。

「近代」というのもなかなかあいまいな言葉で、科学や哲学で見れば、ガリレオやデカルトに始まるということになっているみたい。その前には、占星術師で天文学者であるようなティコ・ブラーエ、コペルニクスという人たちもいることになる。そのような系譜の…

デカルト「方法序説」(岩波文庫) 根無し草の生活をする亡命者が〈この私〉を語ると哲学そのものになる。

最初に読んだのは、落合太郎訳の岩波文庫だった(本文より訳注のページ数が多いというのに驚愕。これが学問なのかとその高さに呆然とした)。あとで小場瀬卓三訳角川文庫も読んだ。今調べると、 谷川多佳子訳岩波文庫、 山田弘明訳ちくま学芸文庫、野田又夫…

デカルト「哲学原理」(岩波文庫) スコラ哲学風に書かれていて「方法序説」より後退したようにみえるが、林達夫によると教会の弾劾を避ける戦略だとのこと。

「哲学原理」は「方法序説」第4部以降にデカルトがこれは確実な知識あるいは原理だと「証明」したものを箇条書きにまとめたもの(原本からそうであったかは不明。もう少しあとに編集された本によるのではないかな)とされる。前半第1部には「我思う故に我あ…

ブレーズ・パスカル「科学論文集」(岩波文庫) 「真空」が地上に存在することを実験と観察で証明する。パスカルの「科学的方法」は彼の哲学を構成する重要な一部。

「パンセ」を読んだことはないので、「考える葦」にも「賭け」にも何かいうことはない。そのかわりに、このような「科学」論文は楽しんで読む。科学に括弧を添えたのは、まだこの時期の一部の科学は哲学の一分野であったから(このように限定するのはたとえ…

コペルニクス「天体の回転について」(岩波文庫) コペルニクス的転回の原著は占星術師でもあった学者が書いたピタゴラス幾何学を駆使した中世スコラ哲学的書物。

「天と地をひっくり返す」というのは驚愕を表す最上級の表現として、カント以来有名なのだが、その元になった「コペルニクス的転回」を記した書を読む。1543年刊行。 コペルニクスの業績については、トーマス・クーン「コペルニクス革命」(講談社学芸文庫)を…

トーマス・クーン「コペルニクス革命」(講談社学術文庫)-1 コペルニクスは占星術師で新プラトン主義者。プトレマイオス宇宙論を補強するために地動説を提案した。

ハーバード大学での講義録をまとめて1957年に発表。コペルニクスの「革命」とは何か?ということを考えた。重要なのは2点で、ひとつは現代の知識で彼とその知見を評価しないこと。現代の視点や価値が投影されて、遅れた彼ら-進んだ我々という偏見をもってし…

トーマス・クーン「コペルニクス革命」(講談社学術文庫)-2 コペルニクス自身は「革新」を主張しない。影響を受けた人たちがのちに新しい宇宙観をつくる。

続いて後半はコペルニクスの革新とその影響について。面白いのは、コペルニクスはのちの「革新」にあたることを一切主張していなかった。のちの人は、コペルニクスの宇宙観(地球を宇宙の中心から外し、球体であるとする)がもつ可能性に魅かれて、新しい発…

ハーバート・バターフィールド「近代科学の誕生 上」(講談社学術文庫) 古代から15世紀までのおもに力学と天文学の歴史。1949年の講義録なので他文明の影響は記述されない。

「世界中のあらゆる人が、地球は宇宙の不動の中心だと信じていたときに、地球は太陽のまわりを回る一天体にすぎないと主張し、説得するのはどんなに大変なことだったろう。近代科学の誕生までには、コペルニクス、ガリレオ、ケプラー、ニュートンをはじめと…

ハーバート・バターフィールド「近代科学の誕生 下」(講談社学術文庫) 16-17世紀に力学と天文学で起きた「科学革命(クーンの概念とは異なる)」。社会の変化と要請で科学は変わる。

上巻のエントリーは、 2013/02/11 ハーバート・バターフィールド「近代科学の誕生 上」(講談社学術文庫) 下巻は18世紀から19世紀まで。 近代化学のはじまり ・・・ 力学と天文学の空間は均一で、なにかで充満している必要はないことから、その中の物質は分…

荒俣宏「目玉と脳の冒険」(筑摩書房) 荒俣版「教科書が書かない生物学史」。「目玉」と「脳」を使う博物学は実験の生物学に変わる。

荒俣版「教科書が書かない生物学史」みたいなものかな。生物学史を教科書的に書くとすると、まずアリストテレスの動物誌があり、長期間をあけてハーヴェイの血液循環理論になり、レーヴェンフックの顕微鏡の発明と細胞の発見、リンネの近代分類学、パスツー…