odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2011-09-01から1ヶ月間の記事一覧

猪木正道「共産主義の系譜」(角川文庫) 昭和の右翼は共産主義文献をしっかり読み込んでいた。

1949年初版。マルクス、フォイエルバッハ、ラッサール、スターリンの4人を収録。10年後に、レーニンとトロツキーを加えて増刷。1969年に、チトー、アジアの共産主義、スターリンとフレシチョフを加える。1984年に角川文庫に収録されたときに、ローザ・ルクセ…

毛沢東「実践論・矛盾論」(岩波文庫) 軍事家としては一級でも、思想家としてはダメだった。

初読時のメモを書いておく。1981年のときのもの。 実践論 ・・・ 実践を通じて真理を発見し、また実践を通じて真理を立証し、真理を発見させる。最初は主観的世界にあるが、実践を通じて感性的認識にいたり、それが理性的認識につながり、革命的実践を通…

フレシチョフ「スターリン批判」(講談社学術文庫) 収容所群島の問題を「個人崇拝」に矮小化して共産党を延命させた1956年の歴史的演説。

1953年スターリン死去(謀殺といううわさもある。真偽は不明)。そのあと、党幹部には反スターリンの気運が起こるが、しかし主力ではない。一方、収容所の囚人たちが帰還するようになり、無実で獄中にとらわれたり銃殺・餓死した人がいたことが知られるよう…

マルクス・エンゲルス・レーニン研究所「スターリン小伝」(国民文庫) 官製の伝記(1951年初出)がいかに無味乾燥なもので、いかにうそをついているかがわかる格好の本。

1951年にソ連で書かれた伝記を1953年に邦訳・刊行し、1965年に再刊したもの。伝記は大祖国戦争終結(1945年)までで、当然のことながらその死については書かれていない。スターリン批判が1956年にあったにもかかわらず、この国では1965年に再版が出ていること…

レフ・トロツキー「レーニン」(中公文庫) 「革命時のレーニンとの私的つながりを、自分自身の重要性を誇張し、他の参加者を第二の地位に落とすような筆致」by E・H・カー

「若きトロツキーが自分の目に映じたレーニンを生き生きと描く。ロシア革命の内側を、臨場感あふれる筆致で伝えている。レーニンに対する熱い共感とともに、トロツキーとの感性の違いが浮かび上がってくるのも興味深い。」 2001年に中公文庫で再刊されたもの…

レフ・トロツキー「永続革命論」(光文社文庫) ターリンとの政争に敗れ、本人不在で行われた裁判への反駁。自分はレーニンに忠実だったという弁明。

「自らが発見した理論と法則によって権力を握り、指導者としてロシア革命を勝利に導いたのち、その理論と法則ゆえに最大級の異端として、もろとも歴史から葬り去られたトロツキーの革命理論が現代に甦る。付録として本邦初訳の「レーニンとの意見の相違」ほ…

レフ・トロツキー「文学と革命 下」(岩波文庫) ロシア革命以前の亡命時代に、主にドイツの雑誌に書いた小文集。生活のための糊口しのぎの文章で教条臭はない。

下巻はロシア革命以前の亡命時代に、主にドイツの雑誌に書いた小文を集めている。1900年前後のドイツには総合雑誌のようなものがたくさんあって、文化の傾向を主導する役割を果たしていた。そういう雑誌に小文を書くことで名を馳せたジャーナリストがいたの…

レフ・トロツキー「文学と革命 上」(岩波文庫) ソ連を追われてからの文芸評論。教条主義を文学に持ち込まない中庸な精神の持ち主。

この本には、ロシア革命以後に書いた文学関係の論文が収められている。トロツキーには、政治煽動家、軍事指導者として名の残っている人なのだが、亡命後には著述家としての一面も持っている。「裏切られた革命」「ロシア革命史」「わが生涯」などの多数の本…

クリストファー・ヒル「レーニンとロシア革命」(岩波新書) スターリン存命で鉄のカーテン前の1947年の啓蒙書。戦争同士国だったのでソ連に好意的。

原著は1947年にイギリスで刊行されたもの。歴史の出来事をある特定の個人に焦点を当てて記述しようというコンセプトのもので、これ以外にはナポレオンとフランス革命などというのも岩波新書に翻訳されていた。まだ高等教育を受ける人が少なく、一方大学進学…

レーニン「帝国主義」(国民文庫) 1917年初出の資本主義のグローバリゼーション批判。

1917年初出の資本主義のグローバリゼーション批判の書物だった。この時期レーニンはまだスイスかパリにいてロシアの暴動ないし革命を傍観している状況だった。なので、このような文章を書くことができた。 いくつかの批判は21世紀初頭であっても通じている。…

レーニン「共産主義における左翼小児病」(国民文庫) 闘うべきときに戦わない「日和見」と、闘う必要のないときに戦う「跳ね上がり」の左翼小児病。党と指導者の権威を高めるための「理論」。

左翼小児病というのは、闘うべきときに戦わない「日和見」と、闘う必要のないときに戦う「跳ね上がり」のふたつ。では、どのようなときに戦い、あるいは戦いを回避するかは、共産主義理論を正確に理解し、実践経験を積んだ者の指導による必要がある(具体例…

荒畑寒村「ロシア革命運動の曙」(岩波新書) 19世紀ロシア革命運動の様子。著者はナロードニキに同情的で、ボルシェヴィキには批判的。

松田道雄「世界の歴史22 ロシアの革命」(河出文庫)、クリストファー・ヒル「レーニンとロシア革命」(岩波新書)、エドワード・H・カー「ロシア革命」(岩波現代選書)、レフ・トロツキー「ロシア革命史」(岩波文庫)あたりが自分の読んだロシア革命の本…

フリードリヒ・エンゲルス「ドイツ農民戦争」(岩波文庫) 16世紀初頭の農民運動を共産主義運動とみなす牽強付会な主張。

「エンゲルスの著作。1850年に『新ライン新聞・政治経済評論』第5・6合併号に掲載したもの。ドイツの三月革命(1848〜49)の敗北から2年間にわたる革命運動の沈滞した状況下にあって、大農民戦争(1524〜25)の時期に力強く闘ったドイツ農民の姿を描いて労働…

フリードリヒ・エンゲルス「反デューリング論 下」(岩波文庫) 啓作経済と歴史の一方向的な必然な発展を主張する最初の「マルクス主義」文献。

上巻を読んでから1年ほど放置。一気にまとめて読んだ。 この本は「社会主義」を勉強する際の教科書といわれてきたのであるが、それは過去の話。上巻の感想でもあるように、1870年代の自然科学分野をほぼ網羅しているので、当時としては画期的な本であった。…

フリードリヒ・エンゲルス「反デューリング論 上」(岩波文庫) エンゲルスは自然科学のトピックのコレクター。「弁証法」でなんでも説明してしまう勇み足。

この歴史的書物に関しては、生半可なことしかいえないので、本質とは全然無関係の駄弁を連ねることにする。 感心したひとつは、著者エンゲルスが類まれな知識の持ち主であって、たんに経済学と歴史の専門家であるばかりでなく、化学、物理学、生物学、数学な…

カール・マルクス/フリードリヒ・エンゲルス「共産党宣言・共産主義の原理」(講談社文庫)

マルクスにアソシエーショナリズムの考えがあると読んだことがあるのだが、岩波文庫版「共産党宣言」を見返したときにはそんな記述はみつからなかった。こちらの講談社文庫版で読み直すと、それらしきものがあった。II章「プロレタリアと共産主義者たち」…

カール・マルクス/フリードリヒ・エンゲルス「ドイツ・イデオロギー旧訳」(岩波文庫) マルクスは宗教全般を完全否定したのではなくて、国家が宗教を基礎に置いていることを批判している。

いくつか。 ・マルクスの有名な言葉に「宗教は阿片である」というのがあるが、いまだに原文に遭遇しない(『ヘーゲル法哲学批判序論』にあるとのこと)。このドイデで宗教に触れていたところを見ると、マルクスは宗教全般を完全否定したのではなくて、国家が…

椎名麟三「懲役人の告発」(新潮社) 人生は「懲役」であると思う憂鬱で深刻癖のある人たちの悲惨と滑稽。日本のドストエフスキー小説。

ここに登場する人物はみながみな「自由」を求めている。その自由がどういうものなのかはしっかり把握できていない。そのために、イライラし、悶々とし、不満を述べ、ここから出たいといい、お前は馬鹿だと罵り、かみついたり、殴りつけたりする。そういう行…

椎名麟三「椎名麟三集」(新潮日本文学40)「自由の彼方に」「媒酌人」 日本人は降って下りてきた「自由」を持て余し無責任とわがままにしか使えない。

新潮社が1960年代に出版した日本文学全集の一冊。ときにコンディションの良い品が古本屋にでることがあり、一冊100円で文庫本4冊分の小説を読むことができる。全集の中身をみると1970年代の新潮文庫はこの全集に収録された長短編を並べていったものだと知れ…

椎名麟三「重き流れの中に」(新潮文庫)「深夜の酒宴」「深尾正治の手記」 戦時下占領下日本での知識人の受苦。

自分が読んだのは昭和55年(1980年)印刷の新潮文庫版。しばらく絶版ののち、同じ文庫で復刻され、いまはもしかしたら講談社学芸文庫で読める。なにしろ戦後文学はますます入手しにくくなっている(戦前の文学のほうがまだ入手しやすい)。 椎名麟三の小説で…

椎名麟三「永遠なる序章」(新潮文庫) 占領下日本の復員軍人たちのニヒリズムと「終戦」のトラウマ。

昭和23年のベストセラーとのこと。日本は占領下で、ドッジラインの財政均衡政策のおかげで景気は上向かず、農業の生産性もあがっていないので、誰もが貧しく空腹だったという時代。この小説の中でも、食料切符制とか頻発する停電とか、当時の状況が点描的に…

石川達三「僕たちの失敗」(新潮文庫) 軽薄な若者が女性蔑視で家族をほんろうし、自衛隊に入って自動車事故を追う。太陽族への揶揄で意地悪で皮肉。

たしか1974年にNHK銀河テレビ小説でこれを原作にしたドラマをやっていた(夜9時40分から二十分のテレビドラマで、2週間10回の構成だったと思う*1。五輪真弓の主題歌がかっこいいものだった。「落日のテーマ」というんだそうだ。サビのところは覚えている…

山口百恵「蒼い時」(集英社文庫) 表情からはなかなか内面を測ることの難しい若い女性が出生や性、結婚をあからさまに書いたという衝撃

デュラスや武田泰淳、金子光晴は年取ってから人生を振り返ったが、こちらはきわめて若い時にキャリアを止めた場合の半生記。 1981年のベストセラー。自分にとってはその少し前のキャンディーズの解散のほうがインパクトがあったなあ。そういえばこの年には、…

武田泰淳「目まいのする散歩」(中公文庫) 衒いも気取りもなく、技巧もまったく入っていないようなのに、その言葉の選び方と話の進め方がうまくて、とても真似ができないと思わせる老人(65歳)の文章。

老人の書く文章の中には、衒いも気取りもなく、技巧もまったく入っていないようなのに、その言葉の選び方と話の進め方がうまくて、とても真似ができないと思わせるようなものがある。たとえば、石川淳「狂風記」や金子光晴「どくろ杯」「ねむれ巴里」などが…

金子光晴「どくろ杯」(中公文庫) 底抜けの不良で詩人が戦前の日本にいられなくなって最貧層の社会を渡り歩く。

不良という言葉には、ひどく人を魅了するところがあるのだが、そこらでオートバイをふかせているような矮小な連中は置いておくとして、金子光晴のスケールになると、もう太刀打ちできないと思い知らされる。なにしろ、旧制中学の頃から素行不良で退学ばかり…

高橋是清「自叙伝」(中公文庫) 日本には稀有な英語ができて、行動力があり、財務に明るい、そして頭がいい経営者で財務家は、軍事費削減を疎まれて暗殺された。

だるまと呼ばれて庶民に人気があり、日本銀行総裁・大蔵大臣を歴任、開成中学の校長の経験もあり、2.26事件で暗殺された経済人が語るバイオグラフィー。自叙伝だからなくなる時の様子は書かれていないのは当然として、昭和恐慌時代が書かれていないのは残念…

ScanSnap S1500で消耗品を交換しないで10万枚スキャンしてみた

ScanSnap S1500の消耗品はどこまで使えるか。メーカーでは、ピックアップローラーが100,000回、パッドユニットは50,000回を交換の目安にしている。一方、ピックアップローラーは6200円、パッドユニットは2000円ほどする。ハードユーザーにとってはなかなかの…

田辺保「シモーヌ・ヴェイユ」(講談社現代新書) 自分にとっては、どこか遠くで倫理を徹底しようとしている奇特な奇矯な人。1968年にでた解説書。

「シモーヌ・ヴェイユ」は20代前半に読んでいた哲学概論みたいなものには一切名が出ていなかった(と思う)ので、この新書を読んで驚愕したと思う。初読時自分は24歳で、シモーヌの年齢でいえば工場の女工の一人に志願して苦痛な労働に参加していたのだから…

アーシュラ・ル・グィン「闇の左手」(ハヤカワ文庫) ファンタジーの文体、人物を一掃して、優れた「文学」として屹立した。力押しで他者排除をする男の論理を批判するほかの性の倫理。

「〔ヒューゴー賞/ネビュラ賞受賞〕両性具有人の惑星、雪と氷に閉ざされたゲセンとの外交関係を結ぶべく派遣されたゲンリー・アイは、理解を絶する住民の心理、風俗、習慣等様々な困難にぶつかる。やがて彼は奇怪な陰謀の渦中へと……エキゾチックで豊かなイ…

アーシュラ・ル・グィン「辺境の惑星」(ハヤカワ文庫) 歴史や文化、民族というか生まれも異なる異質なものたちの間のコミュニケーションの可能性を探る。異端者のロマンスは孤独。

「長老ソブの館を取り巻く森のはずれに見知らぬ青年が現われた。自分についての記憶をすっかり失くしている。館の住人たちは猫のような不思議な目から黄色を意味するフォークと名づけ5年のあいだ庇護するが、記憶は戻らぬままだった。ゾブは彼の正体に頭を悩…