odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

ジェデダイア・ベリー「探偵術マニュアル」(創元推理文庫)

 その名前もない都市には、<探偵社>がある。組織の全貌はつかめないが、とりあえず探偵と監視員と記録員と記録管理員と用務員という職務があるらしい。

「雨が降り続ける名もない都市の〈探偵社〉に勤める記録員アンウィンは、ある朝急に探偵への昇格を命じられた。抗議のため上司の部屋を訪れるも、そこで彼の死体を発見してしまい、否応なく探偵として捜査を開始するはめに。だが時を同じくして都市随一の探偵が失踪、謎の女が依頼に訪れ……アンウィンは奇々怪々な事件の迷宮へと足を踏み入れる。」
探偵術マニュアル - ジェデダイア・ベリー/黒原敏行 訳|東京創元社

 本書の半ばに来ても、状況は杳として不分明で、何が起きているのかわからない。とりあえずは、アンウィンは都市のヒーローである探偵シヴァートの専任記録員で、彼の解決した「最古の殺人容疑者の事件」「11月12日を盗んだ男の事件」「ベーカー大佐三度の死事件」という3つの難事件の勝利を記録した。駅でチェック柄の女を見てから、上の出版社サマリーのように「探偵」にされ、上司の殺人事件を追うことになり、行く先で3つの事件が誤った解決になっていて真相がわからないということ。それに眠り病の助手がついて、ときに自室で食事をともにすることもある。
 さてこの都市にはかつて「カリガリの旅回りサーカス」がいて、そこに高名な魔術師ホフマンというのがいた(「カリガリ」「ホフマン」から引用元の先行作をすぐに想起しよう)。彼は都市の闇、犯罪集団を牛耳っているようであるらしいが、行方はわからない。彼の行方を知ることが、上司の殺人とシヴァートの失踪とアンウィンの最初の依頼の3つを解決するてがかりになるらしい。都合6つの事件、そして<探偵社>のシステムの鍵となるのが、元記録員で今は博物館員であるムーア。彼とタクシーに乗っているうちに、街が眠りにつかされ、わずかな探偵社の職員だけが起きていて、彼らは<探偵社>の記録保管庫に降りていく。

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 おれはいったいなにを言っているのだ。表層のできごとをそのままなぞっていてもちっとも「物語」が再構成されないぞ。どうやらこの都市は夢と現実、意識と無意識の境界はあいまいで、技術をもつものは自由に行き来できるらしい。荘子にでてくる「胡蝶の夢」がリアルであるような場所なのだ。アンウィンもシヴァートも他人の意識の中にはいっていき、都市そっくりの他人の「夢」の場所で、カッコつきの現実に連続したアクションと思考をすることができる。おれはいったいなにを言っているのだ。都市のシステムを詳述しても、ちっとも訳が分からないではないか。
 解説によると、この趣向と同じアイデアアメリカ映画が日本ではやったと書いてある(邦訳2011年)が、何を指すのかわからないので(ネットで見ると、マーチン・スコセッシ監督の映画「シャッター・アイランド」、クリストファー・ノーラン監督の映画「インセプション」が候補)、おれが勝手にブッキッシュな話題にすりかえると、まずこの小説から思い出すのは、C・G・フィニー「ラーオ博士のサーカス」(ちくま文庫)。本書の謎の中心がサーカスにあり、そこにおいて夢幻と現実の教会があいまいになるところ。夢の世界の探偵というのは、荒巻義雄エッシャー宇宙の殺人」(中公文庫)。これもまた他人の夢にダイブできる夢探偵の物語。エッシャー幾何学的な世界ではなく、闇と混沌の不条理な世界はむしろカフカに近いか。そうして、解説にもあるようにボルヘスカルヴィーノを外すわけにはいかない。(あと登場人物の名前にもダブルミーニングが入っていると思う。その解読にはたくさんの読書経験が必要に思われる。さらには本という形式にも挑戦)。
 そんな具合にファンタジーの方からよむことになるのだが、実は探偵小説の枠組みははずしておらず、「謎」は最終章で「解決」する。いくつかの家族関係が明らかになり、社会や制度の構成理由まで踏むこみ、成立の歴史がでてくるのはみごと。前半3分の1までにかかれたどうでもよいような細工が終章において重大な意味を持っていることになり、伏線の張り込みと回収は見事。ここでは「誰が犯人か」「どうやって犯行を行ったのか」などの探偵小説の謎は重要ではなく、「何が解かれるべき謎なのか」が主題。そうとうに複雑な仕掛けになっているうえ、解決のあとの長いエピローグで書かれた「決断」の意図も腑に落ちず、もやもやした読後感が残るので、再読したほうがよい「ミステリー」。そのうえ、さまざまな先行作品のことを思い出すことを要求するので、すれっからしの読者向け。
 この文庫はときに思いがけない不思議な本を発掘して紹介するなあ。目利きぞろいなのだろうね。

 

<参考エントリー>
C・G・フィニー「ラーオ博士のサーカス」(ちくま文庫)
辻真先「アリスの国の殺人」(双葉文庫)
荒巻義雄「エッシャー宇宙の殺人」(中公文庫)

都筑道夫 INDEX

手元にある都筑道夫の本約130冊のレビューも残すところは「なめくじ長屋」シリーズだけになりました。このシリーズはじっくり時間をかけて読みたいので、レビューを公開するのは数年後になるでしょう。というわけで、いままでに公開したレビューの一覧をつくりました。

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2021/09/17 都筑道夫「ひとり雑誌第1号」(角川文庫)-1 1950年
2021/09/16 都筑道夫「ひとり雑誌第1号」(角川文庫)-2 1950年
2021/09/15 都筑道夫「ひとり雑誌第2号」(角川文庫) 1950年
2021/09/13 都筑道夫「ひとり雑誌第3号」(角川文庫) 1950年
2021/09/11 都筑道夫「ひとり雑誌増刊号」(角川文庫) 1950年
2021/09/08 都筑道夫「変幻黄金鬼」(時代小説文庫) 1952年
2021/09/06 都筑道夫「魔海風雲録」(光文社文庫) 1955年
2021/09/03 都筑道夫「女を逃がすな」(光文社文庫) 1958年

 

【カート・キャノンシリーズ】
2021/08/30 カート・キャノン「酔いどれ探偵街を行く」(ハヤカワ文庫) 1958年
2021/08/27 都筑道夫「酔いどれ探偵」(新潮文庫) 1960年


2021/08/25 都筑道夫「やぶにらみの時計」(中公文庫) 1961年
2021/08/23 都筑道夫「猫の舌に釘をうて」(講談社文庫)-1 1961年
2021/08/20 都筑道夫「猫の舌に釘をうて」(講談社文庫)-2 1961年
2021/08/18 都筑道夫「誘拐作戦」(中公文庫) 1962年
2021/08/16 都筑道夫「なめくじに聞いてみろ」(扶桑社文庫)-1 1962年
2021/08/06 都筑道夫「なめくじに聞いてみろ」(扶桑社文庫)-2 1962年

 

【近藤・土方シリーズ】
2021/08/4 都筑道夫「紙の罠」(角川文庫) 1962年
2021/08/02 都筑道夫「悪意銀行」(角川文庫) 1963年


2021/07/30 都筑道夫「三重露出」(光文社文庫)-1 1964年
2021/07/28 都筑道夫「三重露出」(光文社文庫)-2 1964年
2021/07/26 都筑道夫「暗殺教程」(光文社文庫) 1967年

【少年小説コレクション】
2017/09/04 都筑道夫「少年小説コレクション1」(本の雑誌社) 1960年
2017/09/01 都筑道夫「少年小説コレクション2」(本の雑誌社)-「ゆうれい博物館」 1970年
2017/08/31 都筑道夫「少年小説コレクション6」(本の雑誌社)-「拳銃天使」「どろんこタイムズ」 1960年
2017/08/30 都筑道夫「少年小説コレクション5」(本の雑誌社)-「未来学園」「ロボットDとぼくの冒険」 1965年
2017/08/29 都筑道夫「少年小説コレクション4」(本の雑誌社)-「妖怪紳士」「ぼくボクとぼく」 1968年
2017/08/28 都筑道夫「少年小説コレクション3」(本の雑誌社) 1970年


2017/08/25 都筑道夫「犯罪見本市」(集英社文庫) 1970年
2017/08/24 都筑道夫「十七人目の死神」(角川文庫) 1972年
2017/08/23 都筑道夫「夢幻地獄四十八景」(講談社文庫) 1972年

 

【片岡直次郎シリーズ】
2017/08/10 都筑道夫「吸血鬼飼育法」(角川文庫) 1968年
2017/08/09 都筑道夫「危険冒険大犯罪」(角川文庫) 1974年

 

【ものぐさ太郎シリーズ】
2017/08/08 都筑道夫「七十五羽の烏」(角川文庫) 1973年
2017/08/07 都筑道夫「七十五羽の烏」(光文社文庫) 1973年
2017/08/04 都筑道夫「最長不倒距離」(角川文庫) 1973年
2017/08/03 都筑道夫「朱漆の壁に血がしたたる」(角川文庫) 1977年


2017/08/02 都筑道夫「魔女保険」「幽霊売ります」(角川文庫) 1973年
2017/08/01 都筑道夫「あなたも人が殺せる」「感傷的対話」(角川文庫) 1973年
2017/07/31 都筑道夫「スリラー料理」「ダジャレー男爵の悲しみ」(角川文庫) 1973年
2021/07/23 都筑道夫「哀愁新宿円舞曲」(光文社文庫) 1974年
2017/07/28 都筑道夫「にぎやかな悪霊たち」(講談社文庫) 1977年

 

【キリオン・スレイシリーズ】
2017/07/27 都筑道夫「キリオン・スレイの生活と推理」(角川文庫) 1972年
2017/07/26 都筑道夫「キリオン・スレイの復活と死」(角川文庫) 1974年
2017/07/25 都筑道夫「キリオン・スレイの再訪と直感」(角川文庫) 1978年
2017/07/24 都筑道夫「キリオン・スレイの敗北と逆襲」(角川文庫) 1983年

 

2017/07/21 都筑道夫「神州魔法陣 上巻」(時代小説文庫)-1 1978年
2017/07/20 都筑道夫「神州魔法陣 上巻」(時代小説文庫)-2 1978年
2017/07/19 都筑道夫「神州魔法陣 下巻」(時代小説文庫) 1978年
2017/07/18 都筑道夫「フォークロスコープ日本」(集英社文庫) 1982年
2017/07/14 都筑道夫「ミステリィ指南」(講談社文庫) 1982年
2015/06/11 都筑道夫「西洋骨牌探偵術」(光文社文庫)
2015/06/10 都筑道夫「悪魔はあくまで悪魔である」(角川文庫)
2015/06/09 都筑道夫「阿蘭陀すてれん」(角川文庫)

 

【雪崩連太郎シリーズ】
2015/06/08 都筑道夫「雪崩連太郎幻視行」(集英社文庫)
2015/06/05 都筑道夫「雪崩連太郎怨霊行」(集英社文庫)

 

2015/06/04 都筑道夫「黒い招き猫」(角川文庫)
2015/06/03 都筑道夫「翔び去りしものの伝説」(徳間文庫)
2015/06/02 都筑道夫「都筑道夫スリラーハウス」(角川文庫)
2015/06/01 都筑道夫「銀河盗賊ビリイ・アレグロ」(集英社文庫)
2015/05/29 都筑道夫「びっくり博覧会」(集英社文庫)
2015/05/28 都筑道夫「暗殺心」(徳間文庫)

 

【西連寺剛シリーズ】
2015/05/27 都筑道夫「くわえ煙草で死にたい」(新潮文庫)
2015/05/26 都筑道夫「脅迫者によろしく」(新潮文庫)
2015/05/25 都筑道夫「ダウンタウンの通り雨」(角川文庫)
2015/05/22 都筑道夫「苦くて甘い心臓」(角川文庫)
2015/05/21 都筑道夫「死体置場の舞踏会」(光文社文庫)

 

2014/03/29 都筑道夫「妖精悪女解剖図」(角川文庫)
2014/03/28 都筑道夫「はだか川心中」(剄文社文庫)
2014/03/27 都筑道夫「猫の目が変るように」(集英社文庫)
2014/03/26 都筑道夫「狼は月に吠えるか」(文春文庫)
2014/03/25 都筑道夫「殺されたい人 この指とまれ」(集英社文庫)
2014/03/24 都筑道夫「蓋のとれたビックリ箱」(集英社文庫)
2014/03/21 都筑道夫「証拠写真が三十四枚」(光文社文庫)
2014/03/20 都筑道夫「秘密箱からくり箱」(光文社文庫)
2014/03/19 都筑道夫「血のスープ」(光文社文庫)
2014/03/18 都筑道夫「グロテスクな夜景」(光文社文庫)
2014/03/17 都筑道夫「デスマスク展示会」(光文社文庫)
2014/03/14 都筑道夫「袋小路」(徳間文庫)
2014/03/13 都筑道夫「骸骨」(徳間文庫)
2014/03/12 都筑道夫「目撃者は月」(光文社文庫)

 

【退職刑事シリーズ】
2013/07/19 都筑道夫「退職刑事」(徳間文庫)
2013/07/18 都筑道夫「退職刑事2」(徳間文庫)
2013/07/17 都筑道夫「退職刑事3」(徳間文庫)
2013/07/16 都筑道夫「退職刑事健在なり」(徳間文庫)
2013/07/12 都筑道夫「退職刑事4」(徳間文庫)
2013/07/11 都筑道夫「退職刑事5」(徳間文庫)

 

【未来警察殺人課シリーズ】
2012/11/06 都筑道夫「未来警察殺人課」(徳間文庫)
2012/11/05 都筑道夫「ロスト・エンジェル・シティ」(徳間文庫)

 

2012/11/03 都筑道夫「東京夢幻図絵」(中公文庫)
2012/11/02 都筑道夫「怪奇小説という題名の怪奇小説」(集英社文庫)
2012/10/31 都筑道夫「闇を喰う男」(天山文庫)
2012/10/30 都筑道夫「深夜倶楽部」(徳間文庫)
2012/10/29 都筑道夫「二日酔い広場」(集英社文庫)
2012/10/26 都筑道夫「妄想名探偵」(講談社文庫)
2012/10/25 都筑道夫「幽鬼伝」(大陸文庫)
2012/10/24 都筑道夫「神変武甲伝奇」(角川文庫)


【女泣川シリーズ】
2012/10/23 都筑道夫「べらぼう村正」(文春文庫)
2012/10/22 都筑道夫「風流べらぼう剣」(文春文庫)


【新顎十郎シリーズ】
2012/10/20 都筑道夫「新顎十郎捕物帳」(講談社文庫)
2012/10/19 都筑道夫「新顎十郎捕物帳 2」(講談社)


【もどきシリーズ】
2012/10/18 都筑道夫「名探偵もどき」(文春文庫)
2012/10/17 都筑道夫「捕物帳もどき」(文春文庫)
2012/10/16 都筑道夫「チャンバラもどき」(文春文庫)


泡姫シルビアシリーズ】
2012/10/15 都筑道夫「泡姫シルビアの華麗な推理」(新潮文庫)
2012/10/13 都筑道夫「ベッド・ディテクティブ」(光文社文庫)

 

【滝沢コーコシリーズ】
2012/10/12 都筑道夫「全戸冷暖房バス死体つき」(集英社文庫)
2012/10/11 都筑道夫「世紀末鬼談」(光文社文庫)
2012/10/10 都筑道夫「髑髏島殺人事件」(集英社文庫)
2012/10/09 都筑道夫「まだ死んでいる」(光文社文庫)
2012/10/08 都筑道夫「前後不覚殺人事件」(集英社文庫)
2012/10/07 都筑道夫「南部殺し唄」(光文社文庫)

 

【ホテルディックシリーズ】
2012/10/05 都筑道夫「殺人現場へ二十八歩」(光文社文庫)
2012/10/04 都筑道夫「毎日が13日の金曜日」(光文社文庫)
2012/10/03 都筑道夫「探偵は眠らない」(新潮文庫)

 

2021/07/21 都筑道夫「魔海風雲録」(光文社文庫)「善亭武升なぞ解き控 」「西郷星」 1996年
2012/10/02 都筑道夫「ドラマ・ランド」(徳間文庫)
2012/10/01 都筑道夫「サタデイ・ナイト・ムービー」(集英社文庫)

都筑道夫「ひとり雑誌第1号」(角川文庫)-1

 1945年の敗戦と同時に、16歳の少年が早稲田実業に行くのをやめ、劇作家を志す。あるカストリ雑誌の編集部に入り、雑用をしているうちに、雑誌に穴が空こうとしたのでショートショート(という言葉は当時はない)を書いた。それから依頼されるたびに講談書き直し、翻訳、創作などをしていき、20歳を過ぎたときにはいっぱしのフルタイムライターになっていた。コピーもない時代、原稿を別に取っておくことなどできなかったが、作家は印刷された自作を切り抜いてとっておいた。それが四半世紀たって家の中から見つかり、1970年代に復刻された。それが「ひとり雑誌」計4冊。採録しなかった講談ダイジェストが同じくらいあるというから、わずか数年にいったいどのくらいの原稿を書いたのか。
 同時代にパルプマガジンに短編を量産していたという作家はアメリカにたくさんいた。このブログで紹介したなかには、ハメット、アイリッシュ、ブラウン、ハインラインスレッサーブラッドベリ、PKDという連中がいる。都筑道夫も同じような修行をしていたのだと驚く仕儀になる(なんとなれば、日本ではカストリ雑誌に短編を書きまくってのちにフルタイムライターになったという作家は他に思い当たらないから。これがマンガ家だと、昭和30-40年代に貸本マンガを描きまくってのちに大家になった人は結構いるのだが)。
 第1号は「緊急放出大特集」。

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魔海風雲録 ・・・ オリジナルの「魔海風雲録」で、のちに「変幻黄金鬼」(時代小説文庫)と改題。

黒い海盤車(ひとで) ・・・ 紀伊半島の獅子島(尿島)では当主の灘右衛門の跡取りがいなかった。行方不明の福松を探させたところ、8人もやってきた。おりしも旅絵師の潮月がいて、灘右衛門の娘やその侍女と知り合いになる。8人には見分けの「黒い海盤車」の痣がなかった。行方不明の跡取りはどこに? 「獄門島」の雰囲気。薄幸の娘を「北風に吹きまくられてきたような顔をしている」と見事な描写。

その一発(ジェフ・エヴァンス) ・・・ 出獄してきた男は妻とその愛人に要求したのはロシアン・ルーレット

妖虎 ・・・ 中国古潭。絶世の美女と虎の恋。

隅田の清姫(淡路龍太郎) ・・・ 浅草寺に佐四郎を訪ねてきたのは由美という上総の豪農の娘。ところが同じ顔が二人いる。どちらが佐四郎か。やがて一人が名乗りを上げ出立する。残された一人の述懐。安珍清姫伝説をひとひねり。

艶説稲妻双紙 ・・・ 講談ダイジェスト。江戸の終わりから明治にかけての「毒婦」伝。掏摸だったのが、泥棒といっしょに荒稼ぎをし、その間に男をたぶらかしては捨てていく。因果応報の結末になるのは講談の聞き手が男であるせいか。明治直後の横浜の風情を描き、のちに「西郷星」につながる。

ねずみ雲 ・・・ ねずみ小僧が捕まった。それは長屋のいい男の辰次だった。父が死に、辰次を頼ろうとしていたおしのは意気消沈。父が書き残した手紙をネタに手籠めにしようとする鳴海屋から逃げ出すと・・・。

花坂爺(淡路龍太郎) ・・・ 殿様に褒美をもらった花坂爺は幸福と富ともたらした灰が残り少なになっているのに愕然とした。すでに婆は死に、一人暮らし。そこで灰を飲むと、苦しさに吐血したのち、発見したのは若い姿。しかし爺殺しの嫌疑がかかり追手が出る。山に逃げるとそこにいたのは若い娘・・・。近代化された民話の後日譚。

地獄の大使(ルネ・ピジュオル:淡路暎一訳) ・・・ ならずもののジェニング・シェイは「地獄の大使」に殺し屋として雇われる。行先はフランス領アフリカ。そこの密輸団員を殺す指令を受けた。バーテン、ストリッパー、チンピラ、警察、口髭の紳士、老紳士などハードボイルド・アクションによくいる面々。誰が見方でだれが敵でだれが雇い主かわからない事態に、ジェニングは頭を働かす。ラストシーンのフェンシングと傷ついたジェニングを女が介抱するシーンは「女泣川ものがたり」で再現された。

 

2021/09/16 都筑道夫「ひとり雑誌第1号」(角川文庫)-2 1950年に続く